糸井 | まわりからは、けっこう叩かれる? |
武田 | ええ。 |
糸井 | なんでだろう? |
武田 | これまでの書道界には、 ぼくみたいに 人目につくようなことをやってる人って、 あまり、いなかったんですよ。 |
糸井 | でしょうね。 |
武田 | だから、叩いている人たちからしてみたら、 脈々と紡がれた「書」の歴史を、 自由の名のもとに 土足で踏みつけている男なんです、ぼくは。 |
糸井 | でも、武田双雲の影響で 書道をはじめたという人たちだって たくさん、いるんでしょう? |
武田 | ええ、それはけっこう、いると思います。 ぼくの番組を観てくれた子どもたちが、 あこがれを持って、 書道教室に通いはじめてくれたりとか。 でも、彼らの教室の先生は‥‥。 ぼくの「書」と、真逆のことをやってる。 |
糸井 | ああ‥‥。 |
武田 | 母であり、師匠でもある武田双葉の書さえ、 完全に裏切ってるわけです。 |
糸井 | それはつまり、同時に「楷書」を裏切ってる‥‥ という意識? |
武田 | ええ、そうかもしれません。 なにしろ、書道界というところは 個展をやることさえ、容易に許されない世界。 |
糸井 | そんな世界にいながら、フジロックに出たり。 |
武田 | 「書とはこうだ」という基本的な技術もそうだし、 「‥‥してはならない」という「べからず」でさえ、 「楽しい」という言葉で、 乱暴に、越えてきちゃったんですね、ぼくは。 |
糸井 | なるほどね。 |
武田 | 書道界をつぶしたいと思ってるわけでもないし、 ましてや 革命を起こす気なんて、さらさらないんだけど。 |
糸井 | うん。 |
武田 | だから、自分が好きなようにやってきたことで、 意図してはいないんだけど、 誰かを傷つけたり、 イヤな気持ちにさせてしまっていたとしたら‥‥ それはホントに、落ち込むんですよ。 |
糸井 | ‥‥ま、そういう「借金」は、 とりあえず、踏み倒しておいてもいいと思うよ。 だってさ、「いまの武田双雲」にしか できないことって、絶対あるわけだから。 |
武田 | そう‥‥ですか? |
糸井 | ぼくが、よく言うセリフでさ、 「昔の自分に会ったら説教してやりたい」 というのがあるんです。 |
武田 | 糸井さんも、昔の糸井さんに、説教したい? |
糸井 | いや、もう、説教だらけですよ。 自分で自分のことを「バカ!」って 言ってやりたいことなんて、山ほどある。 |
武田 | へぇ‥‥。 |
糸井 | そういう、あっちこっちにつくった 精神的な「借金」を、 踏み倒してた感じですよね、若いころは。 |
武田 | その「借金」は、どうしたんですか? 返済できたんですか? |
糸井 | それはね‥‥オレの場合、 40歳を過ぎてから、急に回ってきたんです。 ‥‥請求書が。 |
武田 | うわー‥‥それって「ツケ」ってやつ? いやだ、いやだ、いやだ! 40歳になんてなりたくない‥‥(笑)。 |
糸井 | ぜんぶ、支払うことになりますよ。 |
武田 | でも、糸井さんの20代、30代は ふつうよりも、とくに強烈だったろうから‥‥。 |
糸井 | いや、みんなそうですよ、きっと。 |
武田 | ‥‥ほんとですか? |
糸井 | でもまぁ、請求書がまわってきたときには 支払えるようになってるんですけどね。 |
武田 | ああ、支払い能力があるんだ! そのときの、ぼくには。 |
糸井 | ある。 |
武田 | 支払えるんだったら‥‥借金しとこうかな。 |
糸井 | うん。 |
武田 | 借金しても支払えるんだったら気持ちがいいし、 なにしろ、楽しいですもんね。 借金の量って、多ければ多いほど。たぶん。 |
糸井 | うん。あらゆる批判やバッシングのなかで、 いちばんこまるのは 「ヘタ」って言われることだと思うんです。 |
武田 | ヘタ‥‥ですか。 |
糸井 | 「武田双雲は、けしからん」とか 「ヘンなことばっかりしやがって」なんて批判よりも、 「オレのほうがうまいぜ」っていう人のほうが こまっちゃいませんか? |
武田 | でも、そういう人、いっぱいいますけど‥‥。 |
糸井 | その「オレのほうがうまいぜ」に対しては 「いや、やっぱりオレのほうがうまい」という信念を しっかり持ってないと「借金」にさえならない。 たぶん、そこが重要なんじゃないかな。 |
武田 | それは「自信を持て」ということですか? |
糸井 | うーん‥‥自信の土台になる技術というか。 ヤドカリで言ったら 貝の部分にあたるもの‥‥というかね。 |
武田 | ホーム‥‥ですか。 |
糸井 | そう、ホーム。 |
武田 | 自分自身のよりどころ。 |
糸井 | いつでも帰ってこれる場所だね。 |
武田 | そこがあるとないのとでは‥‥。 |
糸井 | 一例にすぎないけど、ひとつには 「ジャッジできるようになる」んだと思う。 その場所さえ「軸」にしておけば、 なにかを判断するときに、 「自分自身をひいきめに見ないジャッジ」が できるようになってくるんです。 |
武田 | はぁー‥‥。 |
糸井 | そのとき、あるていど「大丈夫かな」って 思うことができるんじゃないかな。 |
武田 | ぼくにとっての「ホーム」って‥‥ ああ、そうか、そうか。 今日、いちばんはじめに言ってくれてたのは このことだったんですね‥‥って今わかった。 |
糸井 | ん? |
武田 | ぼくが「母親からいただいたもの」が、 ぼくにとっての「ホーム」なんだって。 |
糸井 | うん、そうそう。つまり「楷書」だよね。 武田さんの「ホーム」は。 |
武田 | 楷書の技術をもっともっと鍛えることで、 「武田双雲の書」に、 もっともっと自信を持てるようなるんだ‥‥。 ありがたい言葉、ありがとうございます。 <つづきます> |