武田双雲ー糸井重里 HOME 言葉について、書について、 「いつでも帰ってこれる場所」について


第8回 最高の最期は
武田 つきなみな質問かもしれないけど、
糸井さんご自身は、変化してきました?

それとも、変わらない?
糸井 表層の部分は、変わったように見えるけど
根っこにあるものって、
実はあんまり変わってないんじゃないかな。

出しかたとか、引っ込めかたとか‥‥
そのへんのあしらいは、ちがってるだろうけど。
武田 そうですか。
糸井 でもね、「ああ、もう先がない!」ってあせるのは、
若いときなんですよ。
ぼくはいま、「先はまだ、長いなあ」と思ってるし。
武田 そう思いますか。
糸井 思う。
武田 なんか、今のぼくと同じくらいの歳の、
「30代の糸井さん」に
ものすごく、会ってみたくなりました。

糸井さんって、
どういうスピードで生きてきたんだろう?
糸井 いや‥‥今よりぜんぜん、サボってましたよ。
あきらかに、今のほうが働き者です(笑)。
武田 でも、糸井さんの30代といえば、
「おいしい生活。」とかのころでしょう?

あのころ、サボってたんだ?
糸井 いや、効率が悪いんだよね、若いときって。

それに、すこしでも
「こっちを向いてほしい」って思ってるから、
休んでても、休んでると思ってない。
武田 ああ、なるほど。
糸井 若いころって、
ずーっとジタバタしてるじゃないですか。
武田 うん、してる、してます!(笑)
糸井 それって「忙しい気がする」だけで。
武田 たしかに、そうですね。
糸井 そういう時代があったからこそ、
今、ものごとを煮詰めて考えられてる気もしますし、
そんなことを若いやつらが言ってたら、
「キミたち、そりゃ若さがないだろう!」って
言いたくなっちゃうんだけどね(笑)。
武田 でも、それじゃあ、
80歳、90歳になった糸井さんが、
いまの糸井さんを見たら、どう思うんだろう?

やっぱりジタバタしてるとかって思うのかな?
想像つかないけど。
糸井 どうだろうね‥‥思うんじゃないか?(笑)
武田 うわー、すごいな‥‥。
糸井 なってみなきゃわからないけど、
思うんでしょうね‥‥きっと。
武田 そうそう、そういえば、このあいだ、
聖路加病院の日野原重明先生
対談をさせていただいたんですけど、
あの、97歳になられる‥‥。
糸井 おもしろい人ですよね。
武田 そう、おもしろいし、なにしろ、すごい。

ぼくら若いヤツより忙しそうにしてるし、
あんまり寝てないとかおっしゃってるし‥‥。

なんでも、スケジュールが「104歳」まで
埋まってるとかで(笑)。
糸井 あはは(笑)。
武田 1時間ほどの対談だったのですが、
そのなかで「ぼく、疲れないんだよね」って
2回くらい、おっしゃってました。
糸井 日野原さん一家って、みんな長命なんですって。
武田 たしか、お姉さんがご健在なんですよね。
糸井 もういやになっちゃうなぁ(笑)。
武田 ほんとほんと(笑)。
糸井 武田さんは、
「これくらいまでは生きたいなぁ」とか、
思うことないでしょう、まだ。
武田 いや、でも‥‥なんだろう、
「身体が健康だったら100歳まで」とかって(笑)、
思っちゃいますけど、やっぱり。
糸井 ぼくはね、父親が68歳で亡くなってるんです。
だから、まず、その年齢が目標。
武田 68歳。
糸井 うん、自分自身、まずはその年齢を越えてみないと、
実のあることは言えないなと思ってるんです。
武田 そうですか。
糸井 でもさ、日野原先生もそうだけど、
「長生きする気まんまんの人」の話を聞いてると、
うれしくなるじゃないですか。
武田 うん、なる!(笑)
糸井 親鸞とかも91歳まで生きてるんですよ。
みんなが30代で死んでいく時代に。

法然だって、80歳を過ぎてたらしいし。
武田 宗教家は長命ですよね。
ちなみに書道家も長いんですよ、なぜか。
糸井 ああ、そうなんだ。
武田 あらゆる職業のなかでも
「絵描き」と「書家」がいちばん長命だって、
なにかで読んだ気がする。

そう考えると、たしかに
書家で有名な人って
90歳くらいは当たりまえなんだよなぁ。

なんでなのかは、わからないですけど。
糸井 まぁ、何歳まで生きるにしろさ‥‥、
死ぬときは、横を向いてたいね。
武田 ボルトみたいに(笑)。
糸井 もうすぐ死ぬってときに、
横を向いて、「おーい、みんな!」って。
武田 いいなぁ、それ(笑)。
糸井 最高の最期(笑)。
武田 でも、糸井さんって
すごく楽しく生きてそうに見えるし、
あっという間だったって言うのかと思ったら、
「この先も長いぞ」って。

今日は、なんだか意外で、嬉しかったです。
糸井 まあ、武田さんも33歳になったんなら、
この先、何をやっても、大丈夫だよ。
武田 ぼく、20代のときには何をしてもいいんだって
思ってやってきたんだけど、
30代でも‥‥やっぱりそうですか?
糸井 30歳でやっと成人式ですから。
武田 そうか、ようやく大人になったのか。
糸井 まだ3年生。これからでしょう。
武田 そうですね、成人してから3年がすぎて、
やっと自力で歩きはじめたくらい‥‥なのかもしれない。

自分自身のことを、考えてみても。
糸井 これからは、
20代のうちには見えなかったものが
どんどん見えてくるよ。
武田 楽しみ。
糸井 悩んじゃうときは、悩んじゃうよ。
武田 うわ(笑)。
糸井 なんというかさ‥‥この先、長いぞー(笑)。

<おわります>

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2008-12-31-WED

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