糸井 |
1970年代だったかなぁ、
中野の駅前に電話ボックスがあったんです。
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タモリ |
うん。
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糸井 |
その電話ボックスに電線が引いてあって、
明かりがともってるんですよ。
‥‥あきらかに不自然でしょう?
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タモリ |
不自然。
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糸井 |
そこでね、ちょっと勇気を出して
なかをのぞいたら‥‥
地面にしゃがんでる人がいたんです。
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タモリ |
へぇ。
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糸井 |
で‥‥電話がなくて、位牌があった。
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タモリ |
うわ。
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糸井 |
たぶん、暮らしてた‥‥。
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タモリ |
ふつうの一家が住んでる家の2階に
まったく別の一家が住んでることなんて
けっこう、ありましたもんね。
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糸井 |
あ、つげ義春のマンガにあった。
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タモリ |
そうそう、『李さん一家』だっけ。
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糸井 |
最近、ちょっと思うんですけど‥‥、
所属とか所有の関係が
あまりにハッキリしすぎてることに
疲れてるんじゃないでしょうか、われわれ現代人は。
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タモリ |
ことしは問題を提起するなぁ。
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糸井 |
ぼくがよく例に出すのが
「道ばたに落ちてるギンナン」なんです。
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タモリ |
ほう、ギンナン。
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糸井 |
あれって「誰のものでもない」ことに
なってるじゃないですか、一応。
落ちてるのを集めたら、商品になるのに。
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タモリ |
ホームレスの人たちは、拾ってたりするよね。
上野やなんかで。
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糸井 |
そう、でも「道ばたのギンナン」のほかに
「誰のものでもないけど、糧になるもの」って、
ちょっと見当たらないんですよ、現代では。
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タモリ |
うーん。
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糸井 |
ぜんぶ、誰かのものじゃないですか。
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タモリ |
‥‥銚子の漁港のこっちっかわにね、
「急なカーブ」があるんですけどね。
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糸井 |
ほう。
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タモリ |
そこ、秋になると、よく落ちてるらしい‥‥
サンマが。
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糸井 |
あはははは(笑)。 |
タモリ |
カーブが急で、サンマが。
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糸井 |
あはははは、おもしろい(笑)。
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タモリ |
近所の人らが、拾って食べてるんだって(笑)。
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糸井 |
いい話だなぁ。
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タモリ |
でも、まじめな話、
最近じゃあ「ノラ犬」も見かけないでしょ。
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糸井 |
ああ、見ない見ない!
つまり「所有関係から自由な犬」のことですね。
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タモリ |
ノラネコはいっぱいいるんだけど。
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糸井 |
ああ、そうか、だから「ネコ」を見ると
「むかしが偲ばれる感じ」がするんだ。
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タモリ |
あの‥‥うちの近所にある裏道をね、
ある日の夕方に、散歩してたんです。
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糸井 |
うん。
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タモリ |
そしたら、
ちーん
‥‥って音が
かすっかに、聞こえてくるんですよ。
うしろのほうから。
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糸井 |
ほう。
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タモリ |
なんだろう、かすかに聞こえる‥‥。
ちーん
なんか金属をたたいてる音なんだけど、
なんだかよくわからない。
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糸井 |
ほう。
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タモリ |
その音がね、
うしろから、だんだん近づいてくる。
ちーん ちーん ちーん
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糸井 |
うん、うん。ちょっとコワいですね。
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タモリ |
ふっとうしろを振り返ったら、
遠くのほうから自転車がやってくるんです。
どうやら、その自転車に乗ってる人が
ハンドルのところを
金属の棒で叩いてるみたいなんですよ。
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糸井 |
はぁ‥‥。
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タモリ |
とおくのほうから、薄暗い裏どおりを
ちーん ちーん ちーん
と、だんだん近づいてきて‥‥。
とつぜん、暗闇のなかからスゥーっと、
自転車に乗った
かなりの歳のおじいさんが出てきて、
オレの横を、
そのままスゥーっと、通りすぎてった。
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糸井 |
うわー‥‥。
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タモリ |
オレは、なぜだかわからないけど、
小走りでね、
そのじいさんを追っかけたんです。 |
糸井 |
ほう!
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タモリ |
そしたら‥‥100メートルぐらい先で
最後に一回、「ちーん」と鳴らした。
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糸井 |
うん‥‥!
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タモリ |
そしたら、しゃしゃしゃしゃしゃーっと
7〜8匹のノラネコが出てきたんですよ。
‥‥どこからともなく。
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糸井 |
ははぁー‥‥。
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タモリ |
で、そのじいさん、呼び出したノラネコに
となりの空き地でエサをやってんですよ。
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糸井 |
つまり、合図だったわけですね。
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タモリ |
そう、エサが来たぞーと。
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糸井 |
自転車についてる鈴じゃなくて。
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タモリ |
うん、叩いてた。
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糸井 |
ハンドルを。
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タモリ |
そう。
ちーん
って。 |
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<つづきます> |