祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第2回
猟奇的で行こう。
糸井 伸坊は、スカイツリー、行ったことある?
南 うーん、あるにはあるんだけどね。
糸井 あるにはあるんだけど?
南 順番を追って説明するとね。
糸井 うん。追おう、順番を。
南 正月にさ、退屈したんで、
ちょっと散歩でも行くかってなった。
糸井 退屈したんで、散歩にね。
わかりやすいね。
南 そう。
退屈したんで、散歩に出かけた。
糸井 彼は散歩に出かけた。
なぜなら、退屈したからだ。
南 話、進めていいかな。
糸井 進めよう、進めよう。で、どうした。
南 都電に乗った。
糸井 都電に乗った。
都電なんて、いま、あるところはあるからね。
南 あるよ。あるところにはまだあるんだ、都電が。
糸井 ないところには、ぜんぜんないんだけどね。
南 話、進めていいかな。
糸井 進めよう、進めよう。で、どうした。
南 ま、大塚だからウチ。大塚から乗ってね。
三ノ輪とか、そういうあたりまで行こうと。
昔、荒木(経惟)さんちがあったりした。
糸井 下駄屋が、あったりして。
南 そうそうそう。
荒木さんの実家、でっかい下駄の看板があった。
駅のそばに浄閑寺っていう
「投げ込み寺」って呼ばれてたお寺があって。
糸井 いまの人は知らないだろうね。
南 まぁ、ずっと昔のことだね。
遊女の屍体が門の中に投げ込まれた、
ってところから「投げ込み寺」だ。
糸井 すごい話だね、よく考えると。
南 うん。
糸井 そもそも力持ちだな。
南 え? ああ、投げ込むほうがね。
糸井 ずるずる引きずるんじゃなくて、
投げ込むんだからね。
投げ込み1回につき、男が二人は必要だろう。
こう、上半身と、下半身を持って。
南 せーので、投げ込むわけだ。
糸井 しかも女は裸だろ?
南 いや、着物は着てていいと思うけど。
糸井 裸に着物を着せてるんだな。
南 そういう言い方をすれば、まあ。
糸井 猟奇的だね、ちょっとさ。
南 猟奇的? そうかな。
糸井 オレたちの会話、猟奇的とかないからさ、
ちょっと入れていこう、猟奇的な要素を。
南 あー、なるほど。
じゃ、今回の「黄昏」は猟奇的な感じで。
糸井 「黄昏 猟奇編」だよ。
猟奇とか、エロティックとか、入れていこう。
昔の少年探偵団シリーズみたいな
挿絵も入れたりしてさ。

南 路線変更だね。いいねぇ。
糸井 うん。大人っぽくいくよ。
劣情をもよおしたりするんだ。
南 劣情をね。
劣情の「劣」っていう字には
「少」っていう字が入ってるね。
糸井 入ってるね。
「少々、劣情をもよおす」なんていうと
「少」っていう字が3回も出てくる。
南 なんの話だっけな。
糸井 正月の話だったね。
南 そうだ、そうだ。
糸井 伸坊が、正月早々、退屈だからって、
都電に乗って、女を投げ込んだわけだ。
南 いや、それは無理だ。
だって、ひとりじゃ投げ込めない。
糸井 はははははは。
南 ぼくが上半身を持つから、
キミ、足のほうを持ってくれたまえ。
糸井 せーの!
はははははは。
南 ええと、都電に乗って行ったんだな。
糸井 たぶんね、スカイツリーの話をしてたんだよ。
南 そうそうそう。
その投げ込み寺のそばのバス停からね、
ドデーンと見えるんだよ。
すごくデカく!
そしたらさ、バスが来た。
糸井 スカイツリー行きの。
それは、乗らざるを得ないね。
南 うん、でまぁ、スカイツリーの方へ行ったの。
ところが、正月のスカイツリーというものは
もう、たいへんな人混みなんだ。
糸井 ああ、そうかもしれないね。
南 人が何重にも並んだりなんかしてて。
どういうわけか、そういう、
ものすごく大勢、人がいるところに
わざわざ行っちゃったんだな、正月早々。
糸井 行っちゃったんだね。
ただ退屈してただけなのにね。
南 そうそう。まるで、
「正月だから、スカイツリーにでも行くかぁ!」
って言って出かけた人みたいな感じになっちゃって。
糸井 はははははは。
そうは思われたくないね。
南 うん、まぁ。
そんなこと、考えたこともないんだから。
糸井 でもさぁ、なんの違いもないじゃない。
初詣のあとに
「スカイツリーに行くぞ!」
って言ってる人と、
退屈で都電に乗ってやって来た人はさ。
南 まぁ、そうなんだよ。
でね、ともかくスカイツリーに来たんだから、
スカイツリーにのぼるかって思っても、
そうは問屋が卸さない。
糸井 え、そうなの。
南 なにしろ、すごい人数だからさ。
ロープが張ってあって、
こう、ぐねぐねと、腸のように並んでる。
糸井 腸のようにね(笑)。
南 結論として、断られたってことですね。
スカイツリーに。
糸井 そんな、裸の女を投げ込むような人は
のぼらせてあげませんよ、と。
南 投げ込んでないけどね。
糸井 そうか。
でも、退屈しのぎにやって来たってことは
ばれてたかもしれないね。
南 ああ、それはあるね。
「退屈しのぎに来られても困ります」
糸井 「退屈だからって都電で来たような人を
 スカイツリーにのぼらせたら、
 しめしがつかないですよ」
南 ハハハハハ。


(こういう話がまだまだつづくコンテンツです)
2014-06-16-MON
このコンテンツのトップへ 次へ
 
感想をおくる ツイートする
写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN