黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第22回 朴歯で自転車に乗る。
南 なんかそういう、
クラブ活動とか、してなかったの?
糸井 オレ? うーん、入ってないんだよなぁ。
南 ああ、そう。
糸井 だから、つまんないですよね。
ぜんぜん、弁論部以下なんですよ。
なにもないんですよ、ほんとに。
南 でも、なんだっけ、
一本歯の下駄つくって履いてたって
言ってなかったっけ?
糸井 ああ、それは高校のときね。
高校に入ったときに、
わざわざ、一本歯の下駄をつくったんだよ。
近所の下駄屋でさ。
南 それは、流行りで?
糸井 流行りというよりは、
オレが行った高校は
そういうのが売り物だったのよ。
バンカラなテイストがさ。
もう、そういう風土っていうか、風土病で。
南 「風土病」(笑)。
糸井 風土じゃなくて、風土病(笑)。
そういうのがいいとされてたんだよ。
応援団の人が、ロウで固めたような
変な帽子をかぶってたりさ。
南 はいはい。
糸井 わりとふつうの真面目な子でも、
帽子を汚したり、
汚い手ぬぐいを腰にぶら下げてみたり。
だから、ほかに目指すべき
ファッションがないわけ。
南 変わったことやりたいやつは、
バンカラに行くしかないと。
糸井 そうだね。あと、あのころって、
「なんかしたいと思ったら、
 そういうことをするべきだ」
っていう風潮があったような気がする。
「そういうことをしていい権利が
 ひとりひとりにある」みたいな。
南 ああ、なるほどね。
糸井 だから、高校に入ったら
そうするんだって決めてたもの。
新しい自転車を買ってもらうことと、
それから、朴歯(ほおば)、
朴歯っていうのは
下駄のごついようなやつね、
その朴歯を履くこと。
そのふたつは、オレの中で、高校に入る前に
やるって決めてたことだった。
南 じゃあ、高校生の糸井さんは、
一本歯の朴歯を履いて
自転車に乗ったわけ?
糸井 乗ったよ。
南 すごいじゃん。
糸井 あ、いや、そうでもない。
一本歯ってね、意外に便利なの(笑)。
南 あ、そうか、そうか、
べつに一本歯のところで
ペダルこぐ必要ないんだ(笑)。
糸井 そうそうそう。
その意味では、二本歯の方が不便。
南 はははははは。
糸井 「T」の、横棒のところを
ペダルに当てればいいわけだから。
南 横から見たときにね(笑)。
糸井 そうそう、一本歯の朴歯は「T」だからね。
ふつうの二本歯は横から見ると、
いってみれば「π」だからさ。
南 はははははは。
たしかに、「π」の歯と歯の間に
ペダルが入っちゃったりすると、
こぎにくそうだね。
糸井 そうそう。「π」でペダルを踏むのは、
けっこう面倒だよ。その点、「T」は、
平らなところの面積が広いからね。
南 (笑)
糸井 それから、「T」だと、
サドル高くしても足がつくじゃない?
南 ははははは。歩きにくくはなかった?
糸井 慣れたら、なんでもないよ。
南 あー、そうか。ほら、オレはさ、
天狗のときに一本歯を履いたんだけど。
糸井 そうだった、そうだった(笑)。
南 それまで履いたことないのに
天狗になった途端に履いたもんでさ、
いきなり、こう、コケッとなってね。
糸井 足首のところで。
南 そうそうそう。
最初、いきなり、斜面に
立っちゃったということもあってね。
糸井 迦葉山だからね。
南 そう。迦葉山だからさ。
もう少し平らなところで
慣れとけばよかった。
あれはちょっと失敗だったな。
糸井 でも、ま、天狗だからね。
南 うん。天狗だから、
いろいろいってられないんだけど。
(ご心配なく。まだつづきます)

2009-10-25-SUN

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