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敬子さんのお話がすごすぎて
取材が、あらぬ方向へ向かっております。
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茂さん |
そうみたいですね。
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── |
でも、本当にご苦労されたんだなぁと。
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茂さん |
ただね、運もいいんですよ。
家出したって拾ってくれる人が現れたりとか。
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敬子さん |
わたし、3回、轢かれてるんですよ。
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── |
‥‥何にですか。
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敬子さん |
車に。しかも一回は「トラック」だし。
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それって運がいいのか、悪いのか‥‥。
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敬子さん |
いいと思う。だってぜんぶ「無傷」だから。
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── |
‥‥(この人、不死身なんじゃ‥‥)。
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茂さん |
トラックに轢かれたときは
さすがに、すごかったみたいですけどね。
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敬子さん |
原付のバイクに乗っていたら
左折するトラックに巻き込まれたんです。
左足の上に原チャリが乗って、
その上に
2トントラックのタイヤが乗っかって、
50メートルぐらい引きずられて‥‥。
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── |
‥‥それで無傷?
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敬子さん |
お医者さまに、
よく骨が折れなかったなって驚かれて。
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── |
ほんとですよ。
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茂さん |
ホラ、骨太だから(笑)。
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── |
‥‥(茂さん、そういう問題では‥‥)。
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敬子さん |
わたし、400ccのバイクに乗るのが
ずっと夢だったんです。
16歳のとき、
『バリバリ伝説』にハマって以来。
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── |
『バリバリ伝説』というと、
あの、しげの秀一さんの、バイク漫画の。
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敬子さん |
ただ『バリバリ伝説』好きなら
ヘルメットは「SHOEI」なんですけど、
わたしは
「アライ(Arai)」派だったんです。
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── |
それは、ヘルメットのメーカーの話ですか?
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敬子さん |
そう。
当時はまだ
「ヘルメット着用」が義務付けられて
なかったんですけど
買ったんです、バイク屋で。
アライのフルフェイスを、3万円で。
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── |
フルフェイス。
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敬子さん |
ヘルメット被る必要ない原チャリで
フルフェイスのヘルメット被ってる人なんて
当時、ひとりもいなかったの。
でも、どうしても被りたくって。
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── |
ははぁ。
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敬子さん |
おかげで、トラックに50メートル引きずられても
顔も傷つかなかったし、頭も無事だったんです。
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なるほど、そこにつながるわけですか。
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敬子さん |
その代わり、つぶされて変形しちゃって、
脱げなかったんですけどね。
「ウィーン!」って電ノコみたいなので
割ってもらって、助かりました。
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ちなみに、あと2回轢かれてるんですか。
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敬子さん |
うん。
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── |
そっちも、おケガなく。
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敬子さん |
全然。
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── |
なんたる強運‥‥。
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茂さん |
だから、あの震災で生き残ったというのも
やっぱりな‥‥というかね。
たまたま、配達で内陸のほうにいたのでね。
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ああ、そうでしたよね。
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敬子さん |
でも、あれから何度も想像してみるんです。
もしもあの日、工場にいたら‥‥って。
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はい。
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敬子さん |
絶対、車に乗って逃げたと思うんです。
だって、そのほうが早いと思うし、
わたし、気仙沼の道、
ふだん車で通ってる道以外は知らないから。
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でも、車で逃げてたら、津波に‥‥。
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敬子さん |
のまれてたと思う。
工場にいた父ちゃんが逃げたのだって
車で通る道じゃないから。
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茂さん |
中学校時代の通学路なんですよ。
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つまり、気仙沼で生まれ育った茂さんだから
知っていた道へ逃げられた、と。
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敬子さん |
東京で育ったわたしには、わからない道。
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ははー、本当に運がお強い‥‥。
でも、そうですか、敬子さんは
お嬢さまのわりにはバイク好きだったと。
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敬子さん |
クルマも好き。
さっきの会社を経営してた20代のころは
「スープラ」に乗ってたんです。
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── |
‥‥それって、いっとき「最強」と呼ばれた
スポーツカーじゃないですか?
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敬子さん |
そう。トヨタの、直列6気筒のね。
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── |
レーシングゲームの「グランツーリスモ」で
よく選んでいた記憶があります。
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敬子さん |
がむしゃらに会社を経営してたころ、
唯一の道楽というか、若気のいたりというか。
最初に乗ったのがトヨタのMR2なんだけど、
そのあとに、スープラ。
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── |
なんとなく、敬子さんという人のジャンルが
わかってきたというか、
予想どおりだったというか‥‥。
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敬子さん |
本当は「(セリカ)XX(ダブルエックス)」に
乗りたかったんだけど、
当時、もう生産してなかったんで
しょうがないから、スープラにしたんです。
でも、気に入っちゃって
それから3台、乗り換えたくらいハマって。 |
── |
はー‥‥。
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敬子さん |
ただ、どうしてもGTーRに乗りたい夢は、
諦めてないんですけどね。
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── |
じゃあ、再建して、事業を成功させた暁には。
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茂さん |
まぁ、当分は工場のほうで資金がかかるから
そっちのほうは、ちょっとねぇ‥‥。
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敬子さん |
あちこちに段差ありますしね、気仙沼は。
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── |
段差?
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茂さん |
ほら、シャコタン系だから。
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あ、ああー‥‥。
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敬子さん |
ただ、それだけ好きだったスポーツカーも
父ちゃんのところへ
お嫁に来るときに、潔く手放したんですよ。
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── |
おお。
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敬子さん |
紙製品の会社で使ってた軽トラに
家財道具を、いっさいがっさい詰め込んで
東北道を突っ走ってきたんです。
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それって、つまり「嫁入り」ですか?
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敬子さん |
そう。
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茂さん |
ただ、あれは‥‥見た目的に言うと
「嫁入り」というより
「夜逃げ」みたいな感じだったけど。
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はははは(笑)‥‥いや、すみません。
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敬子さん |
わたしが東京、父ちゃんが気仙沼の
遠距離恋愛だったから、
会うのにも
いちいち時間とお金がかかっちゃうんです。
だから、とりあえず
わたし、東京を引き払って、越してくから、
気仙沼で仕事を見つけるから‥‥って。
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── |
あてはあったんですか?
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敬子さん |
行きゃあ何とかなるだろうと思ってた。
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── |
じゃあ、儲かってた会社も、たたんで。
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敬子さん |
はい。
父ちゃんのとこに、転がり込んだんです。
<つづきます> |