河野 |
去年(2014年)の秋、
陸前高田に、
最初の災害公営住宅が完成したんです。
オートロックのマンションなんですが。
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糸井 |
ええ。
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河野 |
それまで「鍵をかけない家」に住んでいて、
その家が流され、
長屋みたいな仮設住宅の人間関係のなかで
暮らしていた人たちが
いきなりオートロックになったもんだから、
となりの音が聞こえない、
他の人のようすがわからない‥‥と言って、
孤立する問題が起きてるんです。
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糸井 |
その段階なりの問題が、起こるんですね。
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河野 |
仮設での人間関係が断ち切れないと言って、
仮設に戻った人もいるくらい。
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糸井 |
そうですか、うわあ‥‥。
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河野 |
へんな話に聞こえるかもしれませんけど、
仮設住宅に住んでいるときは
「となりのいびきがうるさい!」と
文句を言っていても、4年も暮らせば
いびきが聞こえてこないと
眠れないようになったって言うんです。
仮設にいたときには
つながってる安心感があったんですよね。
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糸井 |
うん、うん。なるほど。
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河野 |
それまで「つながっていたもの」が
津波で、いったんはバラバラになったけど、
長屋ができて、みんなで軒先に座って、
お年寄りは話したり
畑を耕したりしはじめていましたから。
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糸井 |
それを見越した設計が必要なんですよね。
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河野 |
資産価値を長いスパンで考えたときには
「重量鉄骨」のほうがいいと、
行政の考えではそうなるんでしょうけど。
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糸井 |
斉吉商店さんの新しい家は
うまく、昔の雰囲気を残していますよね。
ぼくらの「気仙沼のほぼ日」をつくった
三角屋の三浦史郎さんが
斉吉さんに、さんざん話を聞いて、
白菜だの魚だのを
勝手に置いとく土間があって、
あっちのほうでは
おじいさんが見張りしていて‥‥って家。
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河野 |
ええ、ええ。
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糸井 |
あんまり居心地がいいもんだから、
おじいさん、
早起き、遅寝になったそうですよ。
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河野 |
目の前に店があるし、楽しいでしょうね。
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糸井 |
はじめから、ご家族全員に
「おじいさんを、いちばん大切にする家」
というコンセプトがあったから
おじいさんの部屋にたどりつく経路は
「ひのき」なんです。
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河野 |
え、それは気付かなかった。
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糸井 |
三浦さんは目玉をきょろきょろ動かして、
短い時間で
ものすごい質量の取材をしているんです。
で、実現してる。
バーベキューやれる「土間」があったり、
そういう「あいまいな領域」を
うまいこと活かしたつくりになってる。
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河野 |
常識からは外れているかもしれないけど
住みやすい家なんでしょうね。
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糸井 |
だから、これから先のことを考えると、
ソフトとアイデア、
つまり、農家で言えば「耕してる時間」が
大切になってくる気がします。
早くやろう、早くつくろうという声に
急かされてやる仕事っていうのは、
醸造でいえば
酵母になんか頼ってたら埒が明かないから
化学的に醤油つくっちゃえって話で。
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河野 |
うん、そうですね。
陸前高田では、復興まちづくりを
外の独立行政法人に、委ねているんです。
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糸井 |
そっちのほうがスピードも早いし。
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河野 |
これは、ある意味しかたがないことで、
行政機能を担うべき優秀な若手の4分の1が
津波で亡くなってしまったので
通常以上のことを望むのは、不可能なんです。
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糸井 |
震災直後、
高田自動車学校の田村社長のおっしゃってた
「海水をかぶった土地で羊を飼って
肉質をやわらかくしよう」
みたいな話が
みんなの目を輝かせていましたけど、
あれって、その後、どうなったんですか?
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河野 |
交付金でやることについては
勝手はできないってことで、頓挫しました。
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糸井 |
そうか‥‥あの「輝き」に変わるものって、
いま、何かありますか?
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河野 |
昨年の秋にオープンした「箱根山テラス」は、
規模はちいさいんですが
「木と人を活かす」ことをテーマにした
宿泊もできる、滞在施設です。
代表の長谷川建設の長谷川社長なんか
そこに、ほとんど「住んでる」ような状態。
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糸井 |
愛せる場所を、つくれたんですね。
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河野 |
炭おこしをやってますね。毎日、無報酬で。
「わたくし、代表取締役用務員です」って
お客さんに自己紹介しながら(笑)。
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糸井 |
いいですねえ(笑)。
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河野 |
森をきれいにするために、
長谷川社長は、間伐材を燃やしたいんです。
で、せっかく火があるから肉を焼いてると、
人が寄って来るわけです。
だーれも、そこの社長だとは、つゆ知らず。
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糸井 |
用務員さんだと思って‥‥(笑)。
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河野 |
代表取締役用務員、なんで(笑)。
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糸井 |
長谷川社長のキャラクターも含めて(笑)、
ソフトやアイディアが、
これからを支えるんですよね、きっと。
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河野 |
そうですね。箱根山テラスには
若い人が、そうとう行ってるみたいです。
長谷川建設にも
優秀な若手がたくさん入ってきてますし。
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糸井 |
そのあたりの話、
もっと、みんなに知ってほしいですよね。
<つづきます> |