糸井 |
ぼくら「ほぼ日」の仕事のやりかたって、
「何でやるんだっけ?」とか、
「そのままじゃ、おもしろくないよねえ」
とか言ってる時間、
つまり、開墾した土地で石拾いをしたり、
肥料をまいたりしてる時間が、
ものすごく長いんです。
たまには「早くやろうぜ」という仕事も
あるにはありますが、
だいたい、よその人があきれるくらいに
「うーん、おもしろくない!」
とか唸ってる時間が、ほとんどなんです。
|
|
河野 |
そうなんですか(笑)。
|
糸井 |
本質的なことばっかり、話してるんです。
「この仕事を実現できたら
どうして、お客さんはうれしいわけ?」
とか、
「どうしてやりたいと思ったんだろう?」
とか。
|
河野 |
へえ。
|
糸井 |
進んだと思ったらまた戻りの連続なので
いつまで経っても、
いちばん最初に「火を起こした場所」から
進んでないように見える。
でも、ちょっとは進んでるんです。
|
河野 |
いや、そうでしょう。
|
糸井 |
で、ここからは一気に行けるねという場面で
ポーンと前進したりしてるんです。
よその会社の人は
「どうしたら、はやく仕事を片付けられるか」
についてのノウハウを
たくさん持っていると思うんだけど
うちには、それがない。
今日だって河野さんと「対談」してますけど
テーマも決めないまま
話をしはじめちゃってるじゃないですか。
|
河野 |
たしかに(笑)。
|
|
糸井 |
お互いに「会いましょう」と、それだけで。
さっきの話に戻ると、
「オートロックのマンションに移ったら
人とのつながりが途切れた」
みたいなことって
どんな場面でも起こりうると思うんです。
とくに、本質的な話のないままに進めて、
急いで図面を描いて、
コンセプトも適当にはじめちゃったら
早くできるかもしれないけど
「あ、これじゃなかった」ってなるので。
|
河野 |
そうですね。
|
糸井 |
そういう意味で、八木澤商店さんは
それまでのやり方を変えずに
一歩ずつ、歩いてるじゃないですか。
|
河野 |
変えられるほど、器用でもないので。
|
糸井 |
あの「まどろっこしさ」は、もう‥‥。
|
河野 |
醤油ができるまで2年かかりました。
|
糸井 |
2年で、満足いくように、できた?
|
河野 |
できました。
|
糸井 |
おいしかったもんね、新しいお醤油。
|
河野 |
ありがとうございます。
私たち八木澤商店の新しいお醤油は
「奇跡の醤(ひしお)」と、名づけました。
ベースになっているのは
昔から売ってる「生揚(きあげ)醤油」で、
そのお醤油、
震災直後にオークションで
「1万5000円」で取引されていたんです。
|
糸井 |
え、そうなんですか。
|
河野 |
「八木澤は復活できない」と思われたのか。
でも、オークションに出さず、
八木澤商店にお送りくださったお客さまが
全国に、たくさんいたんです。
「この味を、忘れるなよ」と言って。
|
|
糸井 |
涙が出ますね。
|
河野 |
ええ、ほんとうに。
封を切らなければ5~6年は大丈夫なので、
お送りいただいたお醤油は、
大切に大切に、保管しておきました。
そして、新しいお醤油ができたときに、
送っていただいた「生揚醤油」を開封して、
新しい「奇跡の醤」を開封して、
みんなで味をくらべて
「よかったね」という話ができたんです。
|
糸井 |
いいなあ。
|
河野 |
ぼくたちプロの感覚で判断しても、
よくここまで、
一度で味を寄せられたなあと思ったんですけど、
いちばんうれしかったのは、
かみさんが
何も言わずに「奇跡の醤」を料理に使ったとき、
うちの子どもたちが
「生揚醤油に変えたでしょ」って言ったんです。
|
糸井 |
うわあ。それは、すごいね。
|
河野 |
その言葉を聞いて「ああ、よかったなあ」って、
ほんとうに、心から思ったんです。
|
糸井 |
ぼくの知り合いのお寿司屋のご主人も
「あれはうまいです、いいです」って。
|
河野 |
そうですか。うれしいです!
|
糸井 |
おいしくないものは絶対に褒めない人ですけど、
「おいしいですね」って言ってましたよ。
|
|
河野 |
‥‥よかった。
|
糸井 |
河野さん、うれしいですね。
|
河野 |
はい、うれしいです。
<つづきます> |