東北の仕事論。続続・八木澤商店篇
 
第3回ほぼ日の仕事、八木澤商店の仕事。
糸井 ぼくら「ほぼ日」の仕事のやりかたって、
「何でやるんだっけ?」とか、
「そのままじゃ、おもしろくないよねえ」
とか言ってる時間、
つまり、開墾した土地で石拾いをしたり、
肥料をまいたりしてる時間が、
ものすごく長いんです。

たまには「早くやろうぜ」という仕事も
あるにはありますが、
だいたい、よその人があきれるくらいに
「うーん、おもしろくない!」
とか唸ってる時間が、ほとんどなんです。
河野 そうなんですか(笑)。
糸井 本質的なことばっかり、話してるんです。

「この仕事を実現できたら
 どうして、お客さんはうれしいわけ?」
とか、
「どうしてやりたいと思ったんだろう?」
とか。
河野 へえ。
糸井 進んだと思ったらまた戻りの連続なので
いつまで経っても、
いちばん最初に「火を起こした場所」から
進んでないように見える。

でも、ちょっとは進んでるんです。
河野 いや、そうでしょう。
糸井 で、ここからは一気に行けるねという場面で
ポーンと前進したりしてるんです。

よその会社の人は
「どうしたら、はやく仕事を片付けられるか」
についてのノウハウを
たくさん持っていると思うんだけど
うちには、それがない。

今日だって河野さんと「対談」してますけど
テーマも決めないまま
話をしはじめちゃってるじゃないですか。
河野 たしかに(笑)。
糸井 お互いに「会いましょう」と、それだけで。

さっきの話に戻ると、
「オートロックのマンションに移ったら
 人とのつながりが途切れた」
みたいなことって
どんな場面でも起こりうると思うんです。

とくに、本質的な話のないままに進めて、
急いで図面を描いて、
コンセプトも適当にはじめちゃったら
早くできるかもしれないけど
「あ、これじゃなかった」ってなるので。
河野 そうですね。
糸井 そういう意味で、八木澤商店さんは
それまでのやり方を変えずに
一歩ずつ、歩いてるじゃないですか。
河野 変えられるほど、器用でもないので。
糸井 あの「まどろっこしさ」は、もう‥‥。
河野 醤油ができるまで2年かかりました。
糸井 2年で、満足いくように、できた?
河野 できました。
糸井 おいしかったもんね、新しいお醤油。
河野 ありがとうございます。

私たち八木澤商店の新しいお醤油は
「奇跡の醤(ひしお)」と、名づけました。

ベースになっているのは
昔から売ってる「生揚(きあげ)醤油」で、
そのお醤油、
震災直後にオークションで
「1万5000円」で取引されていたんです。
糸井 え、そうなんですか。
河野 「八木澤は復活できない」と思われたのか。

でも、オークションに出さず、
八木澤商店にお送りくださったお客さまが
全国に、たくさんいたんです。

「この味を、忘れるなよ」と言って。
糸井 涙が出ますね。
河野 ええ、ほんとうに。

封を切らなければ5~6年は大丈夫なので、
お送りいただいたお醤油は、
大切に大切に、保管しておきました。

そして、新しいお醤油ができたときに、
送っていただいた「生揚醤油」を開封して、
新しい「奇跡の醤」を開封して、
みんなで味をくらべて
「よかったね」という話ができたんです。
糸井 いいなあ。
河野 ぼくたちプロの感覚で判断しても、
よくここまで、
一度で味を寄せられたなあと思ったんですけど、
いちばんうれしかったのは、
かみさんが
何も言わずに「奇跡の醤」を料理に使ったとき、
うちの子どもたちが
「生揚醤油に変えたでしょ」って言ったんです。
糸井 うわあ。それは、すごいね。
河野 その言葉を聞いて「ああ、よかったなあ」って、
ほんとうに、心から思ったんです。
糸井 ぼくの知り合いのお寿司屋のご主人も
「あれはうまいです、いいです」って。
河野 そうですか。うれしいです!
糸井 おいしくないものは絶対に褒めない人ですけど、
「おいしいですね」って言ってましたよ。
河野 ‥‥よかった。
糸井 河野さん、うれしいですね。
河野 はい、うれしいです。

<つづきます>
2015-03-13-FRI
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