糸井とみうらの長い年月。
糸井 この前、テレビ番組の収録現場で偶然
山田五郎さんに会ったんだけどさ。
みうら ええ、ええ、ええ、聞きました。
糸井さんが山田さんに
「みくびった」とおっしゃったと
聞きました。
糸井 ちがう、ちがう、
「みそこなった」
だよ。
みうら 「みそこなった」ですか。
糸井 会ったとたん、
「山田さん、ホントのこと言って
 オレはみそこなったよ」
と言ったんだよ。
「なに、あのギターは?
 あきらかに、
 あたまに毛のある人の弾き方だろ、
 あれは!」


みうら しかも、特に
毛が長くないと弾けないギターです。

2009年3月、SHIBUYA-AXにて
みうらじゅんさんと安斎肇さんの
「勝手に観光協会」ツアーの
東京公演が開催されました。
豪華ゲストを迎えつつ、
全47都道府県のご当地ソングを
2日間にわたって演奏するという内容でした。
山田五郎さんは1曲目で
エレキギターを演奏されました。
公演終了後、糸井は
「ずっと音楽だった」という感想を
述べていました。
糸井 そうそう。
長い髪で、首振り回す弾き方だよね?
そして、しかも
あのステップは、足の長い人用ですよね?
そうですよね?
みうら それはそうです。
糸井 それをさぁ。
みうら そうなんですけどね。
糸井 そしたら、山田さんは
「それは濡れ衣です」
「そんな、笑わせるようなムードだったと
 思いますか?」
と言いはじめたんだよ。
まるで大岡越前守の前で
農民が顔をあげるように
「年貢のことをご存じでしょうか!」
と、オレに訴えたわけ。
みうら はい、はい、
直訴ですね。


糸井 「笑わせてはいけないムードだったんですよ」
「みんなが二枚目でなくちゃ
 いけなかったんですよ」
その犯人は‥‥
オレはみうらだと思う。
みうら ちょ‥‥(笑)、
ま、そうなりますよね。
糸井 オレは、山田さんにこう言いました。
「まるで吉田拓郎が降りてきたかのような
 みうらの歌う姿勢については、
 オレは前々から批判的だったんだよ」
みうら (開き直ったように)
まぁ、そうですね。
たしかにそうです。
30年ぐらい前から、そうです。
糸井 歌詞の中に笑いを入れてすませてる、
だから二枚目に歌ってもいいと思ってるんだ、
まったく。
みうら まぁ、そうですね。
そうでした、正解です。すみません。
糸井 あのロジックは
オレは受け入れられない、
そして、山田五郎よ、
君たちまでがそういう振る舞いにおよんだ。
みうら うははは。


糸井 オレは民衆を代表してそう訴えたわけ。
みうら そっちが民衆なんですね? 
はい、はい。
糸井 「山田さんは
 ヨーロッパ帰りかもしれないけども、
 いいかげんにしろよ!」
彼は彼で、
「ほんとうの悪は、みうらさんですよ」と。
みうらの歌う姿勢に対して
ずっと思ってた心が
山田さんに会ったことで、
爆発しました。
みうら しかも、あのライブで
1曲しか出てない、山田さんにね?
ビデオで見返して改めてわかったんですけど、
ギター弾くとき、山田さんは、
ものすごく震えてたんですよ。
糸井 そうなんだ。
みうら 山田さんは
「震えの山田」と呼ばれるくらい、
ギター持ったときにロックが降りてきて
最高の震えがくるんですよ。
糸井 つまり、
やぎが生まれて立ち上がるとき‥‥


みうら そう、プルプルって震えるでしょ?
あれですよ。
音楽に対する恐れが、出てる。
そんな50代は、そうそういないですよ。
糸井 50代ですよね。
みうら 50代ですから。
糸井 オレは、彼がやってきたことについて、
認めてるから、こそね。
みうらがどんなに
二枚目の歌を唄ってもいいけど──つまり、
おまえらよ、どうして
おもしろいことの
ふた言が言えないんだ!
みうら わー。
糸井 オレは目を閉じるよ。
みうら 目を閉じるよ。
糸井 あのー、昴よ。
みうら 昴は歌ってない、
一曲もその歌は出てない。
糸井 目を閉じて‥‥
みうら ええ。客席に、よく最後まで
がまんしてずっと座ってらっしゃった、
ぼくはそう思いました。



(つづきます)

2009-08-03-MON