糸井 |
あのね、まだオレは 穏やかに欲かいてるよ。 |
みうら |
あ、そうなんですか。 穏やかに欲を? |
糸井 |
暇になるのが怖くてしょうがないんだ。 オレは、バードウォッチングに行くのは、 まだちょっと無理なんだ。 |
みうら |
「ほぼ日」をやっている糸井さんって、 歳とったと思えないから、正直言って オレはちょっとつらいんですよ。 オレだって、 「あーあ」とか、家で言ってみたい。 「もうオレもなぁ」なんて言ってると、 糸井さんはいろんなとこに出てるし、やってるし、 もう何にも言えなくなっちゃう。 だらけられないですよ。 |
糸井 |
オレはだらけてるよ。 |
みうら |
そうですか。 もっとたっぷり言ってくださいよ。 「だらけてる」って。 |
糸井 |
でも、上手にやりすぎちゃってるから。 |
みうら |
ぐ、そんな‥‥ |
糸井 |
ただ、みうらが何十年もオレを見てて いちばん忙しかったと思ってる時期が あったとして、 そんときより、 いまのほうががはたらいてるよ。 |
みうら |
うん、そう思いますよ。 |
糸井 |
それが「気の毒になぁ」って ちょっと、自分に思うことはある。 オレの歳で、 このくらいの零細企業の社長さんだったら、 昔はみんな、 ゴルフに行ってたんじゃないかなぁと思う。 |
みうら |
もう、叙々苑杯とか出てるでしょ、それは。 ぼくが糸井さんと知り合った頃は、 糸井さんは若かったし、 無茶苦茶忙しいといっても できる範囲だと思ってました。 でも、いま糸井さんがいっぱいやってることって、 歳だけ考えるとできないはずです。 つまるところ、オレは 体力だと思うんですよ。 滅茶苦茶体力があるんですよ、 糸井さんって。 |
糸井 |
ない。 |
みうら |
いやー、ありますね。 まちがいなく、あります。 これは、ものすごい体力だと思う。 |
糸井 |
体力はね、ない。 |
みうら |
気力もふくめてぜんぶ、体力です。 |
糸井 |
それもない。 |
みうら |
そうですか。 たのしいことをやってると 寝なくていいから‥‥? |
糸井 |
それはもう無理。 |
みうら |
もう無理ですか。 寝ますか、ちゃんと。 |
糸井 |
寝る。 寝なくても、寝る。 |
みうら |
そうですか。 |
糸井 |
体力は、大事なんだけどね。 なんだろうなあ‥‥ さっきの機嫌みたいなことだよ。 |
みうら |
機嫌がいいか、悪いか。 |
糸井 |
機嫌がいいか、悪いかだよ。 すべて。 |
みうら |
うーん。 |
糸井 |
いまは、周囲の人たちの機嫌かいいか悪いか、 ということが、オレの機嫌だよ。 |
みうら |
うん。 わかります。 |
糸井 |
みうらのやってた連載だって、 機嫌よく、たのしかったでしょ? |
みうら |
あの連載は、ホントにいい塩梅でした。 47都道府県じゃなくても、 アメリカでも語れますよ、もう、いまなら。 |
糸井 |
みうらがあんなにできるようになったのって、 この10年だよね。 |
みうら |
確実にそうです。 勢いだけじゃできないんですよ。 |
糸井 |
仕込んでたネタを 出すだけじゃないみうらじゅんが、 ついに登場したんだよね。 |
みうら |
それは、いちばんうれしいです。 仕込んでたネタは全部尽きましたので、 |
糸井 |
ははは。 |
みうら |
瓶(かめ)見ても、もう 水の一滴も入ってません。 そういう状態になって、 それが、10年どころかもう、 20年ぐらい前からあって、 糸井さんはそれに 気づいてたんですよ。 |
糸井 |
いくらネタがあっても、 みうらの「思う」がなくて出しちゃったら 人にばれちゃうんだ。 だけど、あの47都道府県には、 みうらの「思った」っていう分量があるから。 |
みうら |
そうです。 |
糸井 |
テクニックがあるんだから、 出してればいいんで。 |
みうら |
「思い」は前よりは強くなったと思うんです。 |
糸井 |
思ってる分量が多い人は、 ずっと、大丈夫なんだよね。 口だけうまいヤツとはちがうんだ。 |
みうら |
この数十年、ずーっと、 長い歴史の長い時間、 糸井さんとおんなじ話をしてるみたいです。 ぼくは変わったけど、 糸井さんはぶれてない。 ぼくが会った頃は、 糸井さんは30歳ぐらいですよ。 |
糸井 |
そのときのオレには、 「ちょっとそこに座れ」と言って、 意見してやりたいことはある。 |
みうら |
あ。そうですか、そうですか。 |
糸井 |
そのときのオレは、 やっぱり、まずいよ。 |
みうら |
まずいですか。 そうかなぁ。 オレにとって糸井さんはぜんぶセーフです。 |
糸井 |
後輩に対してはそうだったかもしれないけど、 自分に対しては、まずい。 |
みうら |
あ、なるほど。 |
糸井 |
でも、若いときはまちがいがないと パワーが出ないからね。 ノーパワーで、 悟ったようなことを言ってる30歳がいても、 しょうがない。 |
みうら |
それは、根底を知ってて、 わざとまちがえたりしてませんでした? |
糸井 |
そういうこともあった。 |
みうら |
え?! やっぱり! |
糸井 |
そういうこともあったけど、 でも、それは、ダメだよね。 自分でやったことだからね。 |
みうら |
そうなんだ、うーん、 わかったようなわからないような‥‥ またこういう機会があるとは思うんで、 教えてもらいますけどね。 |
糸井 |
そう言えば、みうらは オレに、メールとか電話番号とか 教えてくんないんだよ。 |
みうら |
メールというものができてから 糸井さんに、そんなに会ってないからですよ。 しかも、いつも悩み相談みたいなことで 事務所に来てるから、 そんなに「メールしましょうか」ってことが ないんです。 |
糸井 |
電話番号も知らないんだよ。 |
みうら |
たしかに、そうです。 ぼくも糸井さんの番号は知らないし。 |
糸井 |
だからある意味では、 ほんとうには、まだ、なかよくない。 |
みうら |
わはははは。 |
糸井 |
ちょっと心残りなのは、そこだな。 だから今度、みうらともう一回会って なかよくなったら、交換しようかな、と思う。 |
みうら |
よく言いますよ、 いま、してくださいよ、そんなの。 糸井さんにかければいいんでしょ、ぼくが。 じゃ、かけますよ。 ‥‥‥‥。 |
糸井 |
早くしろ。 |
みうら |
ちょっと待ってくださいよ‥‥。 いま電源を入れてましてね、 「now loading」になって、 時間がかかるんです。 (シャリラリーーン♪) |
糸井 |
二枚目の音楽がするな。 |
みうら |
ははは‥‥えーっと、 糸井さんの番号は‥‥ |
糸井 |
早くしろ。 |
(おしまい) |
2009-08-17-MON
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