糸井 | みうらがすごいのはね、 かつて労力をかけたものがどんどん出てくる というところです。 エロスクラップにしても、 冷凍されてるわけだから、 人に見せるときは解凍するだけでいい。 |
みうら | うん。 |
糸井 | 過去に仕組んだ部分でかけた手間があるから、 簡単に出しているようでも、おもしろいんです。 だけどまぁ、くり返しだけだと 飽きることは飽きる。 |
みうら | はははは、飽きる、ええ、飽きますね。 |
糸井 | みうらは、オレが エロスクラップにあたることを してた時代を知らないもんね。 オレにだって、そういう時期はあったんだけど、 みうらと会った頃は、ちょうど 若いヤツのいろんな錯覚が見えてくるときだった。 つまり、 「ああ、みうらはいま、 ここをこういうふうに思い込んで こうしてるんだな」 というのが、オレにはわかったわけです。 |
みうら | うん。 |
糸井 | だけど、オレも若かったから、 一気にあわてて 「もう高円寺を出たほうがいいぞ」 というようなことを、 やたらに言ったりしました。 「早い話が」ということばかりだったから、 みうらはきっと困ったと思う。 |
みうら | だけど結局、 糸井さんの言うことを ぼくは聞いてきました。 |
糸井 | うん‥‥ みうらって、無理にすることでしか、 変わんないんだもん。 |
みうら | ああ、そうです(小声)。 なんも言えないです。そのとおりです。 |
糸井 | みうらの原作の、今度公開の映画、 (「色即ぜねれいしょん」) 観たんだけど、 すごくおもしろかったよ。 みうらは放っとくと、 気持ちいいところに行くタイプでしょ? |
みうら | ええ、行くのが得意です。 |
糸井 | 気持ちのよいところに行って、 やがて、ケツの穴から 根を出しちゃうんだ。 |
みうら | そうです。 |
糸井 | あの映画を観てても思ったけど、 みうらはホントに、学生の時分から そうだったんだね。 映画の中で、隠岐島に行くけど、 あれだって、主人公自身が 言い出したことじゃなかったよね。 |
みうら | 友だちに誘われたんです。 |
糸井 | 「行きたいな」「冒険したいな」という気持ちと 「怖いな」という気持ちがあって、 「怖いな」を振り切るときに、 自分の何かが変化するわけでしょ? |
みうら | うん、うん。 |
糸井 | 島で女の子と知り合うんだけど、 それも、自分からは声を掛けてないんだよね。 女の子のほうが、 そうなってもいいという感じの 道をつくってくれたんです。 だけど、そこに踏み出すだけでも、 十分勇気がいるんだよ。 なぜなら、男はけっこう 受け身なもんだから。 |
みうら | うん、うん。 |
糸井 | なぜならそれは、母親対自分の関係で、 ずっと受け身だったからなんだよ。 |
みうら | ああー、そうなのか。 |
糸井 | そこで一歩前に出るところに、すごい変化がある。 その人の感受性が強ければ強いほど、 それはすごいことになるんだと思う。 |
みうら | ホントにオレは 自分で決めたことなんて ほとんどなかったですもんね。 糸井さんが「髪の毛切れ」って言うから 切ったりして。 |
糸井 | はははは。 |
みうら | 言われなかったら、切ってないと思う。 だって、気に入ってたし。 |
糸井 | そういうことなんだよね。 みうらは、いつも「気に入ってる」んだよ。 |
みうら | そうなんです。 ぼくは、いつも、 その状態がわりと気に入ってるんですよ。 「そこまで気に入るか?」と みんなに言われてはじめて気づく。 新しいことに踏み出そうという気持ちが ないのかもしれません。 |
糸井 | それはね、みうらだけじゃない。 みんなそうだよ、ほんとうは。 みうらは、そこをなんとなく 感じさせてくれるから、 みんなが、みうらのことを好きなのかもしれない。 |
みうら | うーん‥‥。 |
糸井 | みうらは、人生で「そんなはずはない!」って これまで言わずにすんできたんですよ。 無理していきがってるわけでもないし。 |
みうら | 怒る原因がなさすぎて、 原因をつくる気もない。 不幸になるために、 仕組んだりすることもないですからね。 |
糸井 | だけど、被害者意識が強かったら 「オレの人生はみんなが滅茶苦茶にした」 って言えると思うよ。 あらゆる人間は、言えると思う。 |
みうら | そうですね、言ったら言えますもんね。 |
糸井 | でも、みうらの場合は 「ああー、こうなったか」って それだけなんだ。 色即是空なんだ。 そこがごちゃごちゃになって、 ちがう人になっちゃう機会も きっといままであったような気が するんだけどね。 |
みうら | はい。なにかあっても、一瞬だけ‥‥ 一瞬だけ、ひとりになりますけど、 そのあとは大丈夫です。 ものすごく劇的なことが起こって 急に変わることにも 若いときに憧れたりはしました。 だけど、そんなこと、一度もないし。 「だったら、なんにも表現することないんだ」 と思ってます。 |
糸井 | それがたぶん、 長つづきした理由じゃないでしょうか。 怒って、機嫌が悪くて、 一気に自分の勢力を 拡大するなんてことしたら、 それで終わったかもしれないよ? |
みうら | まったくそんな気もなく ここまで来ましたが、 そうかもしれない。 |
(つづきます) |
2009-08-07-FRI