糸井とみうらの長い年月。

第10回 なにかでこうやって糸井さんに会えてます。
みうら 何年も前の話ですが、
糸井さんは以前、ぼくを
助けにきてくれたことがありました。
それは、あるときのスライドショーの
1週間ぐらい前のこと。
「みうら、今度スライドショーあるだろ」
「はい」
「機嫌よくやんなきゃなんないんだからな!」
糸井さんはそうおっしゃいました。
それにはすごく驚きました。
そうだ、オレは機嫌よくいなきゃいけない。

糸井 オレ、そんなこと言ったっけ?
みうら 言いました。
もう、いま
涙出そうですよ、ホントに。
糸井 そういうことって、愛情じゃないんだけど、
みうらをずっと
見てなきゃいけないっていう、
オレにとっての義務感なんだろうな。
みうら そんな人をね、
二枚目の歌で困らせたりすることは、
ぼくはできないなと今日は思いました。
糸井 恩を気取りで返された、
そんな気分だな。
「それは、おまえだけの機嫌がいいだろう」
みうら はははは、一所懸命歌ったんですよ、
‥‥ま、もう言い訳しません。
糸井 いままでそれなりに長く生きてきてさ、
みうらは、どのへんが
いちばんおいしいところだったの?
みうら どうですかねぇ。
糸井 「いま」っていうのもありだよ?

みうら ぼくはいま、自分でそう思ってないから、
そうなのかもしれません。
ぼくはこれまでずっと「いまがいちばんだ」
と思ってきました。
だけどそれは、はずれてたのかもしれないです。
いま、自分のことは、
あんまり考えなくなったんで、
「そう言われたらそうかも」って思います。
糸井 うん。他人のオレにも、
ちょっと、そういうふうに見えるんです。
みうら オレ、もっと鼻息荒かったし。
糸井 いまは、なんかいい感じで、
霜降りが入ってるね。
みうら 前はなにをするにももっと
むきになってやってたかもしれないけど、
いま、わりと引っかかってない感じがします。
糸井 それは、まるっきりOKじゃないでしょうか。
きっとぜんぶがつながったんじゃないかな。
みうら 糸井さんは去年、
ぼくに「損しろ」って
言ってくれましたよね。
糸井 知らない。
みうら 言ってましたよ。
糸井 そう。
みうら 「みうらは損してないから、
 これからがんばって損をするんだ」

糸井 「村」かと思った。
みうら 「村」じゃない、「損」、
「損得」の「損」です。
糸井 ふーん。
みうら 「あんがいお前は損してないから、
 仕事を頼まれたときにも
 いくらぐらい損したらいいんですか?
 と自分から言え」って。
糸井 ああ。
みうら 糸井さんにそう言われて
オレはそれを考えながら家に帰りました。
よく考えてみると、
『アウトドア般若心経』とか、しっかり損したものは、
おもしろいんですよね。
糸井 うん。損してるね。しっかりとね。
みうら ですから、いまでは飲み屋で、若いやつに
「これからは、損ブームだ!」
と得意気に言ってます。
糸井 そういうこと言うタイミングだったのかもね。
みうら それでまた、ほんとうに楽になりました。
助けてくれる人がいるってすごいし、
幸せだと思いました。
糸井 オレは無意識だけどね。

みうら オレは糸井さんを見てきて、
いまから考えるとゾッとする
ひどいことをやったし、言ったし、
こうして映画を褒めていただいたり、
ライブをけなしていただいたりする──
それがとても重要なんですよ。
糸井 ははは。
みうら 糸井さんが「ほぼ日」を
はじめられたのが11年前。
オレの歳です。感慨深いですよ。
糸井 考えてみればご苦労な話だな。
みうら ぼくは何年か前、
ともすれば、もう安泰だとか
楽なことを考えてました。
だけど、そうはいかない。
糸井さんは、あの歳で平気で立ちあがって、
違うことをやった。
それは、すごいですよ。
わりと、オレって
糸井さんの節目のときにも、
偶然、近くにいたりするんですよ。

糸井 ああ、それはそれは‥‥
ありがとね。
みうら ‥‥いやあの、偶然だと思いますけども、
いいときに、オレは
糸井さんのところにいるんですよ。
糸井 それはそんなに何人もいないね。
おまえは、呼ばれやすいからな。
みうら 昔はよく呼ばれてたけど、
いまは、別に呼ばれてない。だけど、
なにかでこうやって糸井さんに会えてます。
そんなことがまだあるんだと思って
うれしいです。
  (つづきます)


2009-08-14-FRI