みうら | 何年も前の話ですが、 糸井さんは以前、ぼくを 助けにきてくれたことがありました。 それは、あるときのスライドショーの 1週間ぐらい前のこと。 「みうら、今度スライドショーあるだろ」 「はい」 「機嫌よくやんなきゃなんないんだからな!」 糸井さんはそうおっしゃいました。 それにはすごく驚きました。 そうだ、オレは機嫌よくいなきゃいけない。 |
糸井 | オレ、そんなこと言ったっけ? |
みうら | 言いました。 もう、いま 涙出そうですよ、ホントに。 |
糸井 | そういうことって、愛情じゃないんだけど、 みうらをずっと 見てなきゃいけないっていう、 オレにとっての義務感なんだろうな。 |
みうら | そんな人をね、 二枚目の歌で困らせたりすることは、 ぼくはできないなと今日は思いました。 |
糸井 | 恩を気取りで返された、 そんな気分だな。 「それは、おまえだけの機嫌がいいだろう」 |
みうら | はははは、一所懸命歌ったんですよ、 ‥‥ま、もう言い訳しません。 |
糸井 | いままでそれなりに長く生きてきてさ、 みうらは、どのへんが いちばんおいしいところだったの? |
みうら | どうですかねぇ。 |
糸井 | 「いま」っていうのもありだよ? |
みうら | ぼくはいま、自分でそう思ってないから、 そうなのかもしれません。 ぼくはこれまでずっと「いまがいちばんだ」 と思ってきました。 だけどそれは、はずれてたのかもしれないです。 いま、自分のことは、 あんまり考えなくなったんで、 「そう言われたらそうかも」って思います。 |
糸井 | うん。他人のオレにも、 ちょっと、そういうふうに見えるんです。 |
みうら | オレ、もっと鼻息荒かったし。 |
糸井 | いまは、なんかいい感じで、 霜降りが入ってるね。 |
みうら | 前はなにをするにももっと むきになってやってたかもしれないけど、 いま、わりと引っかかってない感じがします。 |
糸井 | それは、まるっきりOKじゃないでしょうか。 きっとぜんぶがつながったんじゃないかな。 |
みうら | 糸井さんは去年、 ぼくに「損しろ」って 言ってくれましたよね。 |
糸井 | 知らない。 |
みうら | 言ってましたよ。 |
糸井 | そう。 |
みうら | 「みうらは損してないから、 これからがんばって損をするんだ」 |
糸井 | 「村」かと思った。 |
みうら | 「村」じゃない、「損」、 「損得」の「損」です。 |
糸井 | ふーん。 |
みうら | 「あんがいお前は損してないから、 仕事を頼まれたときにも いくらぐらい損したらいいんですか? と自分から言え」って。 |
糸井 | ああ。 |
みうら | 糸井さんにそう言われて オレはそれを考えながら家に帰りました。 よく考えてみると、 『アウトドア般若心経』とか、しっかり損したものは、 おもしろいんですよね。 |
糸井 | うん。損してるね。しっかりとね。 |
みうら | ですから、いまでは飲み屋で、若いやつに 「これからは、損ブームだ!」 と得意気に言ってます。 |
糸井 | そういうこと言うタイミングだったのかもね。 |
みうら | それでまた、ほんとうに楽になりました。 助けてくれる人がいるってすごいし、 幸せだと思いました。 |
糸井 | オレは無意識だけどね。 |
みうら | オレは糸井さんを見てきて、 いまから考えるとゾッとする ひどいことをやったし、言ったし、 こうして映画を褒めていただいたり、 ライブをけなしていただいたりする── それがとても重要なんですよ。 |
糸井 | ははは。 |
みうら | 糸井さんが「ほぼ日」を はじめられたのが11年前。 オレの歳です。感慨深いですよ。 |
糸井 | 考えてみればご苦労な話だな。 |
みうら | ぼくは何年か前、 ともすれば、もう安泰だとか 楽なことを考えてました。 だけど、そうはいかない。 糸井さんは、あの歳で平気で立ちあがって、 違うことをやった。 それは、すごいですよ。 わりと、オレって 糸井さんの節目のときにも、 偶然、近くにいたりするんですよ。 |
糸井 | ああ、それはそれは‥‥ ありがとね。 |
みうら | ‥‥いやあの、偶然だと思いますけども、 いいときに、オレは 糸井さんのところにいるんですよ。 |
糸井 | それはそんなに何人もいないね。 おまえは、呼ばれやすいからな。 |
みうら | 昔はよく呼ばれてたけど、 いまは、別に呼ばれてない。だけど、 なにかでこうやって糸井さんに会えてます。 そんなことがまだあるんだと思って うれしいです。 |
(つづきます) |
2009-08-14-FRI