糸井とみうらの長い年月。

みうらは、あんまり偲んだりしないのね。
みうら いまだに、自分に
誰が心をかけてくれているのか、
わからないときがあるんですよ。
糸井 ‥‥‥‥いい話だねぇ。
みうら 51歳にもなりましたけど、
「あの人は、あなたのこと、
 すごく思ってくれてるんだから」
ということが、まだあるんですよ。
なかなか気がつかないです。

糸井 ‥‥ほんとにいい話だねぇ。
男、女、仕事、もの、趣味、
自分発のものは、
「マイブーム」で解決できるんだけど
向こうから来るものについては、
わかんないんだよねぇ。
みうら わからないです。
糸井 そういうのって、オレもそうだけど、
わかんないもんなんだよね(しみじみ)。
みうら いや、糸井さんは、
わかってますよ。
わかってる人だもん。
糸井 いや、そういう成分はオレの中にもあるんだよ。
だけどオレは、
もうちょっと疑い深いところがある。
‥‥なんていうのかな、
相手もうれしくないと困る、
という気分ってあるでしょ?
みうら ええ。
糸井 オレはけっこうそれを考える。
どちらかというと、みうらより複雑に
わかんなくなっちゃってるだけなんじゃないかな。
みうら そうなのかなぁ。
糸井 だけど、他人のことになると、わかるわけです。
この『色即ぜねれいしょん』の監督もね、つまり、
田口トモロヲさんはわかっています。
すごいよ。
ほんとうは、島の子のほうに
重心があることを描いています、
原作者以上に。

みうら え‥‥あの体験をしてるのは
オレなんだけど‥‥
糸井 みうらは、原作だよね?
みうら 「ほんとの原作」ってやつですよ。
糸井 生きることで、原作をした。
みうら そうです。
糸井 それはそれで、貴重なんだよなぁ。
みうら トモロヲさんが、そこから
いろんなものを発掘してくれたんですね。
ぼくは、あの小説を書いたとき、
その要素に気がついてなかったですもん。
ストーリーを書いてるだけなんです。
糸井 うん。映画はもう、
ぜんぜん言うことなすび。
みうら あ‥‥そんなおやじギャグが飛び出す。
そこまで言っていただけますか。
糸井 ええ、言います。
まず、あの映画は邪念がないですよ。
みうら そうですね。
それは、トモロヲさんにないからですね。


©2009「色即ぜねれいしょんズ」
田口トモロヲさん。
糸井 「ここであの人が褒めてこんなふうに賞を取って」
とか、そういうことがまったくありません。
若い人たちだって、どこかで
褒められたいところを
作ったりするもんなんだけど、それがない。
「作りたいように作ったら、こうなりました」
「ぼくらこれしかできません」
そういうものを、
ものすごく気持ちよく出してると思います。
みうら うん。それはほんとうに
トモロヲさんそのままですね。
糸井 ああ、そうなんだ。
オレは、トモロヲさんを知らないのに
「この人はいい人なんだろうなぁ」
と思っています。
みうら いい人ですよ。やさしい人です。
邪念は、あることはあるんだろうけども、
嫌いでしょうね、きっと。
糸井 なるほどね。
みうら 『アイデン&ティティ』のときもそうでした。
ただ好きなようにやるということでも
ないんですけどね。

映画『アイデン&ティティ』は、
みうらさん原作、
田口トモロヲさん初監督作品。
2003年公開。


『アイデン&ティティ』
DVD発売中 ¥2,625(税込)
発売・販売元:東北新社
(c)2003『アイデン&ティティ』製作委員会
糸井 そうですよね、
ちゃんとサービスもしてましたし。
だけど、つき合ってていい人なんだろうなぁ、
ということは思います。
みうら そうですよ、それはホントです。
糸井 この映画、観に行くとしたら
誰がいちばんいいのかな。
みうら うーん。逆に、童貞の子たちは、
ピンとこないところがあるかもしれない。
糸井 うん。これは、大人の映画だよ。
みうら そうですね。大人向けです。
糸井 なんかがなくなっても、惜しんだりしない。
そのあたりがすごく大人っぽいし、
それはみうらのよさでもあると思った。

みうら ああ、たしかに
そういうところはありますね。
糸井 みうらは、あんまり偲んだりしないのね。
みうら 人から「わりと冷たいね」と言われるぐらい
ないほうです。
偲んでる人を見ると
「オレは偲ばなくて悪いなぁ」と
思うときもあります。
糸井 要するに「そういうもんだ」と
思ってるのかもしれない。
みうら あ、そうそう、
「そういうもんだ」と思ってます。
糸井 偲んでる人が
その帰りに、そばを食って、
普通の顔に戻ったときに、
「あんまり偲んでなかったんじゃないかな?」
と、言いたくなるときもあったり。
みうら はいはい、そうですよね。
そんなには、ね?
糸井 だったら、
偲ぶときにちょうどよく偲べばいいじゃない、
と思ったりするよね。
オレも、わりと偲ばないタイプです。
ま、冷たいですよ。
だけど、偲んでるんだよ、オレなりに。
偲んでる人より
偲んでるときもあるかもしれない。
みうら ええ。
糸井 だけど「そういうもんだ」と思ってるんだよ。
みうら うん、うん、わかります。

  (つづきます)


2009-08-11-TUE