鶴瓶 |
古今亭志ん朝師匠は、ほんとにすごい。
お父さんより、すごいんちゃうかな……。
志ん生より、すごいと思う。 |
糸井 |
ぼくも、さかんに言ってるんですよ。
志ん生さんっていうのは
「俺をいちばん
のびのびさせる世界をやるぞ」
っていうことで、
もちろんすごいことはすごいけど、
志ん朝さんはそれの上をいっていますよね。 |
鶴瓶 |
志ん朝師匠には、
もっと長生きしてもらいたかったけど。
いろんなことで、ぼくも
ようかわいがってもらいましたからね。
ふだんも、あんな人ですよ。 |
糸井 |
そうみたいですね。 |
鶴瓶 |
ふだんも、やさしい。
ぜんぜん、イヤなこと
言われたことないんですよ。
誰からもそんなにイヤなことを
言われるわけではないけど、
志ん朝師匠は特にそうですよ。
心地がよくて、
そばにいときたいっていう……。
|
糸井 |
昇太さんも、同じことを言ってたね。
志ん朝さんが楽屋にいるときに、
小っちゃい子なりにずーっと見てたら、
ときどき、なんか言ってくれる……
それを聞くだけでうれしいんだって、
宝物みたいに言いますね。 |
鶴瓶 |
うん。
いいのと悪いのと
波のある落語家のかたもいるけど、
志ん朝さんは、
やっぱり、なにも悪いものがないです。 |
糸井 |
ほんとにそうです。
志ん朝さんのことは、
これから年を重ねたら、
もっとよくなるんだと思って、
たのしみにしていたわけだから……。
こないだ、昇太さんと話したときにも、
そういう話になったんだけど。 |
鶴瓶 |
笑福亭仁鶴兄さんも、いいんですよ。
ぼくは、
仁鶴兄さんが何言うてもおかしいんです。
うちのいちばん上の兄弟子ですから、
めちゃ怒られますし、
一時はかなわんなぁと思うたことも
あったんですけど、
でもやっぱりすごい人で……。
志ん朝師匠と、二人会を、
ずーっとやってはったんです。 |
糸井 |
志ん朝さんと仁鶴さん、
おたがいが、選びあったんだ……。 |
鶴瓶 |
それが終わったから、
ぼくらが頼みにいっても、
出てくれないんです。
「もうあれで終わった。
俺は志ん朝さんと一緒に
二人会をやれたことで終わった。
あの人がいなくなったら、
ぼくはする気はない」と……
最低限、一門会と独演会だけをやると。
今度、しつこう頼みにいって、
ようやく一度、やってくれるんですけど、
仁鶴の落語はほんとにいいですよ。
おもろい。
ノドを悪くして自信がないとかって
言いますけど、ぼくは仁鶴は好きですね……。 |
糸井 |
へぇ。そう思って今度見てみます。 |
鶴瓶 |
志ん朝師匠の落語の中に出てくる人物は、
絶対にいい人物たちです。
ぼくは、そこにちょっとでも近づきたいし、
うちのおやっさんの
松鶴が残した落語を、どれくらい
自分のものにできるかなぁという……。 |
糸井 |
なるほど。
話が飛んでしまうのですが、
芸人さんとしては、
トクな面もあるんだけど、
鶴瓶さんは声が悪いじゃないですか。
そのことについては、
落語をはじめてどう思っていますか? |
鶴瓶 |
うちのおやっさん(笑福亭松鶴さん)、
声悪かったんです。
それから、ぼくがめっちゃおもろいと思ってる
柳家小のぶという人は、もっと声が悪いですよ。
だけど、クセになる。ヘンな間やし……
それで、いいんですよ。
たいしたもんだなぁと思います。
声が悪いのは何がええのか言うたら、
古典にぴったりなんです。
うちの師匠の「らくだ」には、
ものっすごいイイのがあるんです。
「なにしゃべってけつかんねん、おい!
どぶさってけつかるねんな……」
「何じゃい! どぶさっとぉる思たら、
ゴネてけつかる。このガキャ……」
酒飲みの噺の中での迫力だとか、
泥棒に居直るオッサンの迫力は、
声が悪いほうがいいんです。 |
糸井 |
ということは、
声の質によって、
得意なネタが、変化するんですね。
志ん生さんって、
声の使いわけがちゃんとできない人だから、
結局ぜんぶ、
志ん生の声を出してるわけですよね。 |
鶴瓶 |
そうそう。 |
糸井 |
そうすると、登場人物が
ぜんぶいい人だなって思えるっていう……
もう自動的に、そうなってるんですよ。
ただ、若いときの志ん生さんは、
苦労したろうなと思いますよね。
あれが若い声だったらダメでしょうから……。 |
鶴瓶 |
志ん生は60過ぎてかららしいですよ。
よぉなったんは。 |
糸井 |
そういう噂は、
ぼくは知らなかったんです。
結局ぼくはラジオで落語を聞いて
育った子どもですから、
そこで落語も聞いていたんだけど、
年取ってから病気になって復活して、
志ん生が何を言ってるかわかんない、
っていうものを聞いたことがあるんです。
あれは、テレビだったかなぁ……
正月に、新春なんとかで出てきて。
志ん生さん映って、
「あぁ〜、はぁ……」
って言ってるだけなんですよ。
何を言ってるかわからないけど、
おもしろいんです。
だけど、若いときの
レコードが出てきたりすると、
やっぱりダメなんですよね。 |
鶴瓶 |
ぼくは、
若いときの志ん生、聞いてないんですよ。 |
糸井 |
落語の年齢の境目を、
ぼくは知らないですけど、
声が若いやつはダメですよ。
やっぱりつまんないんです。 |
鶴瓶 |
年とった人って、
間をこわがってないんですよ。
ま、本人ももう
そんな意識もないんでしょうけども。
さっき言った小のぶ師匠も、
なんか、ものすごい長い「間」なんです。
ずーーーっと黙っていて…………
え? マイク入ってないのん?
というぐらい待って、カーンとくるからね。 |
糸井 |
もちろん、
今の鶴瓶さんがその間を真似したら、
きっとアウトですよね。 |
鶴瓶 |
うん。
いろんな打法があんねんな、
と思うのを見てるんです。
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(明日に、つづきます) |