笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。




糸井 北海道の雨のなかで、
まるでキューを出したかのように出てくる
関西のおばちゃん、いいなぁ。
鶴瓶 その関西のおばちゃんの前に会ったのが、
車に日本地図が描いてあるクルマだったんです。
そのクルマの人らに話を聞いたら、
夫婦で山口県から走ってまわっている人で。

ご主人がジョギングで走って10キロ行くと、
奥さんがその近くの駐車場に止めると。

64歳でリタイアをして、
日本全国をまわってる夫婦なんです。
偶然、その人の家の隣の隣が、国近さんいうて、
今度オリンピックに出るマラソンの選手なんです。
えぇ? いうて。
こんなもんね、キュー出しとんちゃうかと……。
糸井 その偶然、いいなぁ。
鶴瓶 いいでしょう?
そんなん、まったく知らないのに。

ま、ええ話や。
ほんだら奥さんは
「こうやってリタイアしてから、
 だんだんこの人のこと好きになりました」
いうて泣いてんのよ。
雨、バーって降ってるのよ?
糸井 うん、うん。
鶴瓶 感動してるそこに、
大阪のオバはんが、ボーンて来よる、

「文珍さん! 写真撮ってや!」

「……え? なに?」
「文珍さん! 写真撮ってぇ!」
「……なんや?」

「文珍さん、写真撮ってや!」
「……おお、わかった、わかった」て。

こっちも、しつこく聞くの。
「なに?」
「文珍さん! 写真撮って!」

で、むこうからおんなじ旅行団体の人が、
バーッと走ってきて、
「鶴瓶ちゃ〜ん! 撮ってぇ〜!」ていう。
おんなじ団体やからね、近くにおって。

「俺、だれ?」
「鶴瓶ちゃん!
 鶴瓶ちゃん、写真撮って!」
「……ああ、わかった」て。

で、さっき来た人と交互に、

「だれや?」
「文珍さんやっ!」

「だれ?」
「鶴瓶ちゃん!」

「……ああ、そう」
もう、わかれへん状況。

「だれ?」
「文珍さんやろっ!」

「だれ?」
「鶴瓶ちゃんやがな!」

そういうところで写真撮ってね。
こんなね……ふつう、そんなん、成り立つ?

糸井 引力だねぇ。
鶴瓶 引力ですよ。

次に、クルマで走っている夫婦が
「行く」いうから、ふたりにあわせて
「猿払村」いうところに行ったんです。

漁港で、
誰もいないなぁゆうて歩いていると、
たまたま、クレーンの
こんなに大っきいのの研修をしてて、
ぎょうさん、人がおったんや。
日頃、そんなとこ、誰もおれへんの。

でもそれが、今まで研修せんでええのに、
国が免許を発行するようになったから、と。
だから、みんな運転はできるのに、
あらためて運転技術の
免許を取っているという……
それで、ぎょうさん、集まっていて。

そのなかに、なんか
旅役者みたいなやつがおって。
これがまた、ええ人やねん。

「こんど、新しい船をおろしてさ」
「その船、見さしてよ」
「来てくれるか?」

あとでいくことにして、
他の漁港の人たちに、
ホタテの工場を見せてもらった。

中に入ったら、
また旅役者みたいな人がおるの。
そしたら、そこの工場長で、
船をあたらしくした人の兄弟やねん……
ありえないやろ?

「あんたの兄さんのところ、
 今、船を見にいくのよ、これから」と。

船を見にいったら、キュー出しのように、
その旅役者の息子までやってきて。
「こんないいオヤジはない」とか言う……
これはもう、できあがっとる。
糸井 一座だね(笑)。
鶴瓶 いつもこうなるのは、なんやろね。
糸井 すごいなぁ。それは鶴瓶さんの力だよね……。

  (月曜に、つづきます)


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2004-08-06-FRI

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