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糸井 |
映画のプロデューサーと監督というのは、
よく意見がぶつかるものだといいますが、
重岡さんと三谷さんの場合は、
意見の衝突とかありました?
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重岡 |
まぁ、そういうこともあります。
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三谷 |
いや、普通はそんなにぶつからないんですよ。
だいたい妥協しちゃうんです、どっちかが。
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糸井 |
あ、そうですか。
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三谷 |
まぁ、大人の解決、みたいな。
で、結果的にあまりいい作品じゃないものが
生まれてしまうケースも多いんですけれども。
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糸井 |
妥協の果てに。
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三谷 |
ええ。 その点、この方は、まず妥協をしない。
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糸井 |
なるほど。
三谷さんはどうですか。妥協に関しては。
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三谷 |
僕の場合、
すべては妥協からはじまります。
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一同 |
(笑)
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三谷 |
ま、そこから、
ただの妥協に終わらずに、
なにかいいものをひねり出す、
というふうにして。
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糸井 |
はいはいはい。
「逃げたんじゃなくて、身を潜めただけだ」
というような。
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三谷 |
うん。そうですね。
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重岡 |
あの、三谷さんのそういった面について
言わせていただくと、
「これほど頑固な人はいない」というのが
私を含めた周囲のスタッフの感想です。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
ああー、そうですか(笑)。
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重岡 |
やっぱり、三谷さんが映画を監督する場合、
ご自分で脚本も担当されるので、
「これをつくりたい!」という
気持ちが強いんだと思うんです。
それはスタッフにもわかるので、
そっちへなんとか近づけていこう
ということになるんですけど。
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糸井 |
と、おっしゃってますけども。
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三谷 |
ふーむ、つまり、
自分が妥協してるっていうことは、
なかなか相手に伝わらないっていうことですね。
こんなに妥協しているのに!
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一同 |
(笑)
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糸井 |
まあ、おにぎりひとつにしたって、
食べる人間と、握る人間のあいだには、
互いに、見えない種々の妥協があると。
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三谷 |
ずいぶん突然、
おにぎりが出てきましたね。
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糸井 |
その唐突さについては妥協してください。
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三谷 |
わかりました、妥協します。
こういうふうに、妥協していることが
しっかりと伝わっていると、
妥協していても気持ちがいいですね。
妥協のしがいがあります。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
やはり、妥協する側としては、
結果的に妥協するとしても
妥協したことは伝えたい。
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三谷 |
ぜひ、伝えたいですね。
「しょうがねぇなぁ」と歩み寄っている
僕をきちんとわかってほしい。
むしろ、評価してほしい。
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糸井 |
なんていうか、妥協したとき、
妥協しながらなにかを言ってるときに、
妥協してますっていうサインがあるといいですね。
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三谷 |
ああ、いいですね。
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糸井 |
歯医者さんにおける
「痛かったら右手あげてください」
みたいなお約束が。
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三谷 |
思えば、その歯医者さんのシステムが既に
ちょっと妥協してますからね。
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糸井 |
そうですね(笑)。
いろんな意味で妥協の落としどころが、
あの右手なわけですよ。
だから、今後、なにか妥協したときも
「あ‥‥それでもいいです」
(こっそり右手で合図)、みたいな。
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一同 |
(笑)
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三谷 |
それは最高じゃないですか
(こっそり右手で合図)。
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一同 |
(笑)
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重岡 |
あの、私たちからすると、
いまの糸井さんはあまり妥協せずに
お仕事に取り組んでらっしゃるように
見えるんですが、実際はどうなんでしょう?
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糸井 |
あっ、ぼくですか。
うーん‥‥そうですね。
ぼくは、仕事に関しては、
けっこう妥協せずにすんでます。
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重岡 |
そうですよね。
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糸井 |
というのは、最初から、
できる規模のことしかやってませんから。
つまり、妥協が必要だぞっていう仕事には
はじめから手を出してないんです。
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重岡 |
ああ、うーん。
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糸井 |
たとえば、それこそ映画とかね。
勝手な想像になりますけど、
きっと映画って、
「一番いいのはこれだけど、
こうやるしかないな」
っていうことの連続だと思うんですよ。
そういう場所には、
なるだけ行かないようにしてるから。
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重岡 |
うーん、そうですか。
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糸井 |
妥協って、
まず高い理想があってのものですから。
だから、なんていうか、いつも
身の丈に合ったビジョンしか持ってないから
がんばればなんとかそこに届くというか。
それで妥協せずにすんでるんじゃないでしょうか。
たとえば、いま、こうやって座ってる、
このベニヤ板っぽいセットだって、
「こういう風に組んでやろうぜ」って
ぼくが思ってこうなってるわけじゃないんです。
だから、「こうじゃないんだよな」って
妥協しなくてすむんですよ。
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三谷 |
ん? それはどういうことですか?
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糸井 |
ほら、この、しつらえた、これが。
(座ってるセットをバンバン叩く)
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三谷 |
すいません、これって、
いつもあるわけじゃないんですか?
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糸井 |
ないです、ないです(笑)。
だって、ここ、会社ですから。
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三谷 |
会社なのに、なんで、
こんなものができてるんですか。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
だから、つくりたい人がいたんですよ。
うちの会社の、社員のなかに。
三谷さんが来るぞ、というときに。
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三谷 |
そうなんだ。
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糸井 |
たぶん、いちおう、テーマとしては、
ドラマのセットの裏側ってことに
なってるんじゃないかなぁ。
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三谷 |
あぁ、そうなのか。
それでなんかちょっと、ものが置いてあったり、
ベニヤ板だったりっていう。
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糸井 |
うん。そういうふうにしたいなぁって
うちの誰かが思ったんでしょう。
で、もしも仮に、先に高いビジョンがあってね、
理想に基づいた仕様書を書いて、
「セットの裏側っていうシチュエーションで
三谷さんと話すから、がんばれよ!」
って言って、部長印、課長印みたいなの押して、
しかるべき業者がこれをつくってたら、
「そうじゃなくて、もっとさぁ!」
ってなったりもするんだろうけど、
なにせ、勝手にやってることですから。
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一同 |
(笑)
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三谷 |
はぁはぁ、なるほど、そうですね。
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重岡 |
ああ、そういうことなんですね。
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糸井 |
そういうことなんですよ、うん。
だから、ぼくが「妥協してない」というのは、
いわゆる完璧主義のそれと違って、
もっとこう、適当なものなんです。
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重岡 |
逆にいうと、こういうシステムで
やってらっしゃるということは、
それは妥協するのが嫌いだっていう‥‥。
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糸井 |
そうです。
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三谷 |
うん。そうなりますね。
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糸井 |
あのー、なんていうんだろう。
えばりたくはないんだけど、
上司がいるのもいやなんですよ。
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重岡 |
はい、ええ、ええ。
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糸井 |
だから、えばらずに、
自分で「それでいいよ」って
いえることばっかりにしたくて。
だから、なんていうのかな、
ちっちゃいお城であろうが、
すぐに崩れちゃう砂のお城であろうが、
「自分で決めた」っていう状態を作っておけば、
気持ち的には健全でいられますよね。
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重岡 |
ああ。
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三谷 |
ふーん。
(つづきます) |