三谷幸喜脚本の8時間ドラマ 『わが家の歴史』を、 観ると決めた。

糸井 昭和のことって、
なまじ、覚えている人が多いぶん、
「オレの記憶だと、そうじゃなかったぞ」って
突っ込む人も多いですよね、きっと。
重岡 はい、それは想定しました。
糸井 時代考証なんかもしつこくやったんですか?
三谷 台本の段階で、かなり厳しくやりましたね。
事実からあえて離れるとしても、
「こういう解釈でやりました」と
きちんと答えられるように。
糸井 なるほど、なるほど。
重岡 ですから、まず三谷さんに書いていただいて、
それをもとに、実在の人物であれば許諾、
事件や事故でも関係者の了承をとりまして、
入れる話が決まったあとで、
そこから時代考証の先生に
見ていただくという感じで。
時代考証については、そうですね、
一夜の話につき、だいたい100箇所くらいは
チェックが入るような感じでした。
糸井 そんなに。
重岡 このころは豆腐の配給がありませんとか
この言葉はありませんとか。
あとは、うちの報道局にも相談して、
事件の解釈が報道的に間違ってないかとか、
いちいち確証を得ながら。
弁護士の方にも相談しましたし。
糸井 はぁー。
つまり、ドラマだけど、
ドキュメンタリー成分も強い。
重岡 そうですね。
ですから、さきほどのオズワルドの話のように
ぎりぎりで入れられない話も出てくるんです。
糸井 なるほど。
三谷 そういうこともあって、今回、あて書き
(出演する役者さんに合わせて脚本を書くこと)
は、ほとんどしてないんですよ。
とくに、実在の人物に関しては。
糸井 それはつまり、先に台本ができてないと、
ドラマに登場させる許諾ももらえないから。
三谷 そうなんです。
だから、まぁ、役者が決まってから
その人に合わせて本を修正する、
みたいなことはやりましたけど、
「この役はこの人!」と決めて
書いてはいないですね。
ただ、唯一、吉田茂役の角野卓造さんだけは、
僕のなかで完全に決まってました。
一同 (笑)
糸井 はははははは。
三谷 以前、角野さんとお仕事したときに、
「この人で吉田茂をやりたい!」って、
思ったんです。10年くらい前かな。
糸井 そんなに昔から(笑)。
三谷 そうなんです。
ずーっと夢だったんですよ。
あの人に吉田茂を演じてもらうのが。
糸井 ご本人も得々として
やってらっしゃいましたよね。
三谷 この10年でますます似てきた。
特に髪型が。
ノーメイクでもOKなくらい。
糸井 はははははは。
西田敏行さんは、あて書きですか?
三谷 西田さんは、かなりあて書きです。
糸井 そうですよね(笑)。
あの、西田さんの、ちょうどよい、
おもしろさとずるさっていうのは
あの時代にぴったりですよね。
三谷 そうですね。
糸井 絶妙の加減なんですよね。
気持ちよく生きられますようにって、
いつも心から願ってる純粋さが根っこにあって、
屈託がないんだけど、人から見たら、
それはずるいじゃないかって言われそうな
不真面目さもあって。
三谷 ああいう人って、あの時代に
いっぱいいそうな感じがするんですよね。
バイタリティがあって、
とかく夢見て事業を起こして、失敗して、
家族に迷惑かけるんだけど、懲りない。
憎めない男なんだけど、
意外に憎めたり。
糸井 うん、うん(笑)。
三谷 客観的にみると、ほんと、
どうしようもない人ですからね。
それでも嫌いになれないっていう加減は、
西田さんじゃなきゃできない気がします。
糸井 いや、そのとおりだと思います。
さて、長く話してきましたけど、
そろそろ時間が来てしまいました。
ま、ぼくはおもしろく観たのでいいとして、
まだ観ていないぼく以外の方に、なにかあれば。
三谷 そうですね‥‥
最初、この企画をもらったときに僕は、
それは、3夜連続なのか、
毎日なのかわからなかったんですけど、
とにかく連続したものをやりたいんだ、
っていう話をしたんです。
けっきょく3夜連続になったんですけど、
その、やっぱり、1日目を観て
で、1日置いて、2日目を観て、
また、1日経って、3日目を観る。
3日間かけてこれを観ることが
なんか、僕にとって大事な部分というか、
やってみたかったことだったんですね。
まぁ、糸井さんは2日で観ちゃいましたけど。
糸井 すいません(笑)。
一同 (笑)
三谷 まぁ、それはしかたないとして、
これから観る人は、この3日間を
この一家といっしょに過ごしてほしいなと。
なんか、それが僕の目標みたいなものなので、
それが達成できれば、いちおう、僕は満足、
みたいなところはあります。
あとは、あのー、
この『わが家の歴史』という
8時間のドラマをつくって、
僕はテレビドラマが好きなんだな、
っていうことを再確認しましたね。
糸井 ああ、そうですか。
三谷 はい。映画も好きだし、
舞台も大好きなんだけども、
なにかひとつだけやれって言われたら
たぶん、僕はテレビドラマを
選ぶんじゃないかなぁ。
糸井 興味深いですね。
三谷 やっぱり、なんていうかな、
これくらいの時間がなきゃいけないというか。
今回、8時間でも短いぐらいなんですけど、
こういう連続した物語っていうのを
丁寧に紡いでいけるのは、
テレビドラマしかないんじゃないか
っていう気がするんです。
糸井 うん、うん。
三谷 だから、テレビドラマそのものが持つ
力みたいなものも再確認しましたし、
そこに大きな可能性も感じましたし。
僕にとってすごい久々の
テレビドラマだったんですけども、
もし機会があれば、やっぱり、
ドラマ、やりたいなと思いましたね。
糸井 いや、それは、なんていうか、
いいですね。制作後の感想として。
三谷 映画の宣伝の時は、
まったく別のことを言うと思いますけど。
糸井 プロデューサー的にはなにかありますか?
重岡 いえ、もう、多くの方に
受け入れてもらえるようにと願うばかりで。
糸井 なんか、現場で激しく苦労した話とか、
あれば最後にどうぞ。
重岡 いえ、まぁ、そんなには。
あの、現場としておもしろかったのは、
この『わが家の歴史』って、
ふだんは主役をやってらっしゃる方が
たくさん出てらっしゃるじゃないですか。
糸井 ものすごい顔ぶれですよね。
うちのスタッフは発表されたキャストだけで
けっこう盛り上がってましたよ。
重岡 ありがとうございます。
で、役者のみなさんは、ふだん、
主役クラスを演じてらっしゃいますから、
撮影現場では、だいたい出ずっぱりで、
待ち時間なんてほとんどないんです。
それがこのドラマでは、意外にヒマで(笑)。
糸井 (笑)
重岡 そういう豪華な人たちが、
待ち時間に仲よくおしゃべりしているのが、
現場としてはとてもおもしろかったです。
まぁ、苦労はいろいろありましたが、
終わってしまえば‥‥。
三谷 誰かを殴ったとか、
そういうのはないんですか。
重岡 今回は大丈夫でした。
殴ってないです!
糸井 それはよかった。
三谷 うん、よかったです。
一同 (笑)
(最後まで読んでいただき、
 ありがとうございました!)


2010-04-11-SUN