オバマ新大統領は、
本当にブッシュ前大統領と違うのか。
オバマ氏は大統領就任直後から、
ブッシュ時代との決別を宣言するかのような政策を
次々と打ち出している。
しかし就任から2日後に国務省で行った演説に、
はっとさせられた人は少なくないだろう。
「はっきりさせておきましょう。
アメリカはイスラエルの安全を守るために
全力を尽くします。イスラエルが自国を
防衛する権利を常に支持します」
さらにオバマ大統領は、
パレスチナ側の強硬派ハマスに
ロケット攻撃をやめるよう要請、
イスラエルへの批判の言葉は
最後まで聞くことはできなかった。
その時点で、イスラエル側の死者が13人、
パレスチナ側の死者は1300人を超えていた。
イスラエル側もオバマ大統領に呼応するかのように、
就任式のタイミングでガザから撤退してみせた。
オバマ氏がイスラエルへの強い支持を表明したのは、
この時だけではない。
それどころか、もっと踏み込んだ発言をしている。
去年の6月4日、在米ユダヤ人の組織AIPAC
(アメリカ・イスラエル広報委員会)の
年次総会でのことだ。
選挙戦を戦っていたオバマ候補は
アラブ側に大きなショックを与える発言をする。
オバマ候補が
イスラエルへの最大限の支援を約束した上で、
「エルサレムはイスラエルの首都として維持され、
分割されることはない」と述べると、
会場に集まったユダヤ人たちから
スタンディングオベーションが起きた。
エルサレムがイスラエルの首都だと主張しているのは
イスラエル自身だけで、他の国々はこれを認めていない。
エルサレムは、ユダヤ教だけでなく、
イスラム教、キリスト教の聖地でもあるため、
1947年に、
国連はエルサレムを国際管理下に置くことを決めた。
ところがその後、イスラエルが武力で
エルサレムを支配下におき、首都であると宣言、
しかし国際社会がこれを認めるわけもなく、
日本も含め各国は、今もテルアビブを
首都とみなして大使館を置いている。
オバマ候補の発言が波紋を呼んだのは無理もない。
世界でイスラエルの最も強力な
保護者であるアメリカですら、
エルサレムをイスラエルの首都と認めたことはないのだ。
これに対してアラブ側は強く反発、
オバマ候補は翌日CNNのインタビューを受け、
「これらの問題は関係諸国次第だ。
エルサレムも交渉の対象となるだろう」と、
あわてて発言を軌道修正した。
アメリカで暮らしていると、この国はなぜ
ここまでイスラエルに加担するのだろうと
不思議な気持ちになるときがある。
9・11同時テロの時のニューヨーク市長で、
その後大統領候補の座も狙っていた
ジュリアーニ氏にインタビューした際のことだ。
準備のためジュリアーニ氏に関する資料に集め、
彼が9・11テロの経験などを書いた著作にも目を通した。
そこにはテロの一報を受けた時の思いや、
その後の市長としての判断など、
当事者でしか語れない生々しい内容が記されていた。
ところがその中に、
日本人である私には理解できないものがあった。
乗っ取られた航空機が
ワールド・トレード・センターに突っ込み、ビルは崩壊、
警察と消防を束ねるニューヨーク市の市長として
陣頭指揮をとったジュリアーニ氏は、翌12日の未明、
くたくたになってアパートに戻り、ベッドに横になる。
そしてふと、枕元にあった読みかけの
ウィンストン・チャーチルの伝記を手に取り、
チャーチルがイギリスの首相になった時の章に
しばらく目を通した。
当時ロンドンは、ドイツ空軍の爆撃を受けていた。
ジュリアーニ氏は次のように記している。
「私はロンドンの人々のことを思った。
彼らは容赦ない爆撃に耐え、生き抜いたのだ。
そして現在のイスラエルの人々も、
どれだけ同じことを強いられているかを思った」
チャーチルの伝記をきっかけに、
当時のロンドン市民の思いと
テロを受けたニューヨーク市民を重ね合わせたのは
わかるような気がしたが、
私にはその後に続くイスラエルへの共感が
ひどく唐突なものに思えた。
さらにジュリアーニ氏は、イスラエル市民が
受けている苦痛に思いを馳せたあと、
つかの間の眠りにつく。
著書を読み進むと、さらに驚いた記述があった。
12月のはじめ、9・11テロから3ヶ月ほどあとに、
ジュリアーニ氏はエルサレムを訪れていた。
「私は、ニューヨーク州のパタキ知事と、
次のニューヨーク市長になる
ブルームバーグ氏とともに、エルサレムに向かった。
エルサレムのベン・イエーダショッピングモールと
スバロピザ店で起きた自爆テロに対して、
連帯の意思を示すためだった。
知事も私も忙しかったが、
訪問が、イスラエル、エルサレム、
そして長い友人でもあるオルメルト・エルサレム市長を
支えるために、とても大事なことだと思った」
ブルームバーグ氏はユダヤ人だが、
ユダヤ人でもないジュリアーニ氏が、
同時テロから3ヶ月という忙しいときに、
わざわざエルサレムに行ったのだ。
さらに9・11のテロの後すぐに、
イスラエルのシャロン首相とオルメルト市長から
電話をもらったことも明らかにしている。
(オルメルト市長は、現在のイスラエル首相)
ニューヨークには有力なユダヤ人が多く、
地元の政治家にとってはその支持が欠かせないにしても、
ジュリアーニ氏のこれほどの気の遣いようは
私の想像を超えていた。
ニューヨークを地盤にする政治家ばかりではない。
アメリカ政府がイスラエルに
不自然なほど加担している例は枚挙にいとまがない。
アメリカは毎年30億ドルほどの援助を
イスラエルに与えている。
その額はアメリカが行っている
すべての援助の2割近くを占める。
もちろんアメリカにとって、
世界一、援助をたくさん与えている国だ。
普通は分割して支給する援助も、
イスラエルに限っては会計年度の初めに、
一括で現金を支払うという気前の良さだ。
さらにイスラエルを非難する国連安保理の決議に、
アメリカはこれまで40回以上、拒否権を発動、
世界の世論などお構いなしに、
どんなときもイスラエルを守り続けている。
アメリカの政治家がイスラエルを擁護する姿は、
みなさんもテレビで目にしたことがあるだろう。
それではなぜ、アメリカはこれほどまでに、
イスラエルに加担するのか。
そして、その理由は、
黒人初の大統領となったオバマ氏とて、
逃れられないものなのだろうか。
(続く) |