「白いシャツをめぐる旅。」、
今回はSTAMP AND DIARY(スタンプアンドダイアリー)の
アトリエにおじゃましました。
STAMP AND DIARYは、
アパレルにたずさわって約30年の吉川修一さんが、
いまから2年前、2013年に立ち上げたブランドです。
海外ブランドのディレクションや、店舗開発など
服にまつわる仕事全般をやってきた吉川さんが、
ブランディングとおおまかなデザインを担当、
製品化にあたっての緻密なデザインは、
立ち上げメンバーでもある女性のかたが担当。
そして、ありとあらゆる糸・織物に精通している
“生地のスペシャリスト”の男性を加えて、
3人体制で服づくりをしています。
△こちらが吉川修一さん。
吉川さんたちの服づくりにおいて
原点となったコンセプトは、
欧米の“ふつうの”大人たちのファッション。
これまでの仕事を通し、幾度も渡欧・渡米し、
いろいろなブランドとつきあい、
服飾の多様な世界を見てきたなかで、
「彼らって、すごく、かっこいいなあ」
ということを強く思うようになったそうです。
たしかに、パリジェンヌやマダムたち、
あるいはアメリカの都会の女性たち、
イタリアのおじさん、イギリスの紳士──、
それぞれスタイルのちがいがありますが、
アパレルに関係している人じゃなくても、
ふつうに生きるいろいろな職業の人たちが、
とてもかっこいいんですよね。
ちゃんとみんな個性的で、その個性を、
服がサポートしている。
そのために、たいせつなことは、
まず、素材。
そして、かたち。
2013年、ブランド立ち上げのときには、
ドイツ製の、いまはもうつくられていない
低速の織機で織られたリネンの、
やわらかな風合いに一目ぼれ。
1日15メートルしか織れないという布の
独特の「ゆるさ」を知り、
「これで服をつくろう!」と
気持ちが固まったのだそうです。
△最初につくったリネンのかずかず。旧式の織機でゆっくり織ったもの。いずれも赤耳がついています。
肩に力を入れすぎずに、ゆったり、ふんわり、
でもいっぽん通ったまっすぐな芯をもち、
日々をくらす。
ブランド名のSTAMP AND DIARYには、
「日記をつけるように、たいせつな日々を暮らす」
という意味がこめられています。
だから、家のなかでもきちんと、
そのまま外に出てもおかしくない着方。
そんなライフスタイルを、
服をとおして提案していきたい──。
お話をきいていて、
吉川さんたちが実現させたいことって、
きっとそういうことなんだろうなあ、と思いました。
そんな吉川さんたちの考える「白いシャツ」、
いったいどんなものなんでしょう?
▶STAMP AND DIARYのウエブサイトはこちら
白いシャツをつくりはじめたのは、
立ち上げの翌シーズンからです。
スイスコットンのタイプライター生地で、
とても上質なものに出合ったんですよ。
スイスは精密機械が発達していて、
紡績の技術も優れているので、
こまかく、しなやかで、とても品のある生地ができる。
そこに惚れちゃったんですね。
その後、エジプトの「ギザ」と呼ばれる綿を使ったり、
ハイカウントポプリンという密な織り方をしたり、
シャツの素材にはいわゆる
“高級”と言われるものを使ってきました。
それは、いたずらに高級にしたいわけではなくて、
そういう製品のほうが、体にやさしくて、
ぼく自身も着るものを選ぶときに気持ちがいいからです。
△STAMP AND DIARYの製品は、シャツのほかにも、着心地のよいものがいっぱいあります。
今回のシャツは、原点にもどって、リネンを使います。
リネンのなかでも細番手の、上質な糸を探して、
国内で生地を織るところからスタートしました。
細いリネンを密に織るのって、
じつはとてもたいへんで、
たとえば乾燥しすぎた環境ですと
織っているときのテンションで糸が切れるので、
ミストを噴射しながら織ったり、
機械織りであっても
ずっと人が見ていないといけないんですね。
そうしてていねいに、ゆっくり織りあげたリネンの生地は、
最初、触ると、ちょっと硬いなと
思われるかもしれませんが、
洗っていくうちに、とてもしなやかになりますし、
けれども、だらしない感じにはなりません。
△これが今回のシャツ。ラインナップのなかで、いちばんフェミニンな印象かもしれません。
前身ごろにピンタックをほどこして、
裾にはドレープをつけました。
着ていただくと、ウエストのあたりに
しぜんな「くびれ」がうまれます。
とても、女性的なスタイルです。
△タック+ドレープ。ウエストからふんわりひろがります。
イメージのヒントになったのは、デンマークに
「レ・クリント」という照明器具があるんですが、
もともとは真っ白な紙を手で折ってつくっていたんです。
その美しさが、ピンタックに似ているなあと。
それから、フランスを訪れたときに出かけた
アンティークのマーケットで見たピンタックのシャツ。
あちらの昔のシャツって、とても手がこんでいて、
その手仕事にたいする、愛おしさがあるんですね。
これだけの仕事を、お針子さんがやっているんだなあ、
って。
襟は、スタンドカラーです。
これも、パリを歩いていた時に、
すれちがったマダムが着ていたシャツがあまりにも素敵で、
その印象をもとにしました。
△スタンドカラーに、前身ごろはきっちりとピンタック。
△カフスは短めで、とてもシンプルです。こういった細かな仕様も、アンティークのシャツがヒントに。
△後ろ身ごろは、切り替えなしの一枚仕立て。
サイズは、ワンサイズです。
SMLでいうと「ML」にあたります。
胸まわりが100センチありますから、
ちょっとふっくらしたかたでも
着ていただけるサイズだと思いますし、
前ボタンをあけて、羽織るようにしてもいいですよね。
重ね着をするなら、
濃いめの色の、薄手のカーディガンとか、
ちょっとハイゲージのニットなんていいかもしれませんね。
家の中にいてもおしゃれができて、
そのまま外にも行けるっていうのが、
STAMP AND DIARYのひとつのコンセプトでもあるので、
そんなイメージで着てもらえたら。
全体的に、とてもフェミニンな印象な
シャツになったと思います。
吉川さん、ありがとうございました。
今回のシャツのなかでは、
いちばん女性的な印象のシャツかもしれませんね。
さて次回は、もうちょっと知りたい
「リネン」のことについて、
イタリアのメーカーのかたに、お話を聞きます。
おたのしみに!