ほぼ日 | おとうさんのプレハブの話、 もっと聞きたいところなのですが、 『株式会社 家族』に登場した 「おじい」の部屋もまた、 すごかったようですね。 おじいは、かおりさんが 大阪ではじめて店を開いた際、 ビルの管理人だった方です。 おじいの部屋は、どうなってたんですか。 |
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おじいの部屋は、 プレハブじゃなかったです。 木でできた、手作りっぽい小屋でした。 |
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うん。 | ||||
ほぼ日 | たしか、ビルの上に建ってたんですね? | |||
そうです。 おじいの小屋は、 自分が管理しているビルのいちばん上に 建ってました。 入居者は、契約のとき、 その部屋に通されるんですけれども、 そこで、まるでお茶のかわりというように、 バナナを出されるんですよ。 真っ黒になったバナナです。 なすび級に黒いんです。 |
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ほぼ日 | はぁ。 | |||
まぁ、出してくれはったんやし、と思って わたしはバナナを食べつつ、 契約書にサインしました。 そのおじいのビルは、 入居を断られることがあると聞いてたので。 |
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ほぼ日 | 断られるんですか。 | |||
はい。 ところが、わたしはまったく大丈夫でした。 あとになって 入居を断られた人に確認したら、 「そりゃあ、そのバナナやな」 という結論に。 |
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ほぼ日 | では、もしかして、 その真っ黒のバナナを 食べるか食べないかが分かれ道‥‥? |
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そうやと思います。 | ||||
ほぼ日 | それはおもしろいおじいさんですね。 | |||
おじい、いつもぼろぼろの服着てたなぁ。 すごいロングヘアーで ふだんはひとつにキッてくくって ちっちゃーいお団子にしてました。 あとは、ぼろぼろの布を頭に巻いてた。 |
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ほぼ日 | なにしろぼろぼろで、 黒いバナナを出されると、 たしかにちょっとひるみますね。 |
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おじいは、 成立した契約書を「写真で撮れ」 っていうんですよ。 |
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ほぼ日 | コピーしないんですか? | |||
コピーを信用してないんです。 「複写しろ! 写真で撮れ!」 |
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ほぼ日 | あ‥‥これが、もしかして? | |||
おじいです。 | ||||
右側が、ちょうど 契約書を持っている写真です。 |
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全 員 | (たまらず) はははは。 |
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おじい小屋の中にはお布団が敷いてあって、 いっぱいロープが下がっていました。 こっちを引っ張ると、あっちの電気がつくとか 動かなくてもいろんな操作ができるような 仕掛けになってました。 ビルは3階建てだったんですが、 階段にも、ロープがたらしてありました。 |
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ほぼ日 | ロープが、1階から3階まで? 1本のロープですか? |
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途中で、結ばれてた。 | ||||
ほぼ日 | 何かを井戸みたいに引き上げるため? | |||
そう、引き上げるんですよ。 野菜とかを結びつけて、 つるつるつると上から引っ張るんです。 |
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ほぼ日 | 野菜を。 | |||
野菜が階段をポンポンポンポンって こすりながら上がっていきます。 |
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ほぼ日 | ボロボロじゃないですか。 | |||
ボロボロになるんですよ。 | ||||
全 員 | (笑) | |||
ほぼ日 | かおりさんのお店は 階段の途中にあったんですか? |
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わたしは2階でした。 ボンボンボンボン、 キャベツが上に行くのが見える場所です。 屋上の小屋の横には、 鉄棒のようなものがありまして。 |
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ほぼ日 | はい。 | |||
おじいはよくそこで、 ぶら下がって 光合成みたいなことをしてました。 |
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ほぼ日 | ‥‥肝心なことを訊いていいですか。 | |||
はい。 | ||||
ほぼ日 | おじいの、その 野菜をロープで引っ張り上げたり 鉄棒にぶら下がる行為について、 ご近所のみなさんは、 どう思ってらっしゃったんでしょうか。 |
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おじいのビルの隣には、 大きいビルがありました。 |
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ほぼ日 | はい。 | |||
そこにはマガジンハウスとか いろんな会社が入ってたんですけど、 昼休みになると、 みんなが光合成してるおじいを見たり、 写真撮ったりしてました。 |
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ほぼ日 | やっぱり名物に。 | |||
鉄棒のわきには桶とかもありました。 いちど、マガジンハウスに用事があって 隣のビルに行ったとき、 はじめてそこからおじいを見ました。 おじいは桶でシャンプーしてました。 |
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全 員 | (笑) | |||
人魚みたいになってた。 みんな、そりゃ写真撮るわ と思いました。 |
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ほぼ日 | おじいは何歳ぐらいですか? | |||
90ちょい、でした。 めっちゃ自転車乗ってた。 |
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うん。 元気やったなぁ。 |
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おじいは 100近くかなんかで、死にました。 自分に何かあったときには、 自分には姉がいるから ここに電話してくれ、という 電話番号を書いたメモを わたしは預かったんです。 おじいの姉とか、 絶対死んでるやろう、って思ったんですけど。 |
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ほぼ日 | そりゃまぁ‥‥。 | |||
でも、一応電話してみました。 誰も出ないけど、 ずっと呼び出し音がするんです。 |
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ほぼ日 | 回線が生きてるんですね。 | |||
うん。でも、誰も出ない。 年に2、3回 思い出してはかけてるんですけど。 |
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ほぼ日 | へええ。 | |||
出たら怖い、と思いながら 電話してるんですよ。 |
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ほぼ日 | すごい話だなぁ。 | |||
そうそう、おじいがお正月に、 うちらにお料理作ってくれたこともありました。 |
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ほぼ日 | へぇ。 | |||
おじいは生肉を瓶から出して 食べてなかった? |
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食べてた? | ||||
瓶から生肉出てきて、うちら めっちゃ怖がってたやん。 |
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怖かったけど、調理はしてたんちゃう? | ||||
そうかなぁ。 おじいはとにかくお肉が好きでした。 肉、肉、っていつも言ってた。 行きつけの肉屋もあるし。 |
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ほぼ日 | お正月のときは、お肉のほかに 何か出たんですか? |
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おじいが作ったお餅です。 自分で餅ついてたよなぁ。 |
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ほぼ日 | うそ! | |||
お正月が近い頃、 めっちゃビルが揺れたんですよ。 餅つきが原因やと思う。 |
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ほぼ日 | すごいなぁ‥‥。 ところで、今日の取り調べの成果は、 かつ丼じゃなくて、やっぱり おじいの黒いバナナで 決まりですね。 |
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バナナをあそこまで黒くするには そうとうな時間を要するので いっそ、なすでもかまわないです。 |
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ほぼ日 | え? わ、わかりました、では なすでいかせてください。 なす級のバナナを自然に食べられるかどうか、 けっこう難しい関門のような気がします。 |
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(取り調べは、つづきます) | ||||
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2010-06-08-TUE |