山岸 | ああ、そうそう、最近やった実験で、 おもしろいことがわかったんですよ。 |
糸井 | ほう。 |
山岸 | ある心理学的なテストをして、 被験者が「どれくらい日本的であるか」を 測定してみたんですね。 で、なかでも「日本人度」が高いとされた人たちは、 「何か、ものごとを決めるときに、 自分で決めたいか、 誰かに決めてもらいたいか」という質問に対して、 どう答えたかというと‥‥。 |
糸井 | ええ。 |
山岸 | 圧倒的に「誰かに決めてもらいたい」んだって。 |
糸井 |
へぇー‥‥。 |
山岸 | つまり、日本という国は 「倫理」や「モラル」でしばる考えかたが 受けやすい土壌かもしれない‥‥と、 そういうことは、言えるのかもしれません。 |
糸井 | なるほど。 |
山岸 | それとね、また別の話なんですけど、 「独裁者ゲーム」という 心理学的な実験をやったんです、先日。 |
糸井 | はい、はい。 |
山岸 | これは、ふたりでやるゲームなんですけど、 実験の主催者から 1000円を、もらえることになっている。 |
糸井 | 1000円。 |
山岸 | で、その1000円を 相手とどのように分けるか‥‥の実験なんです。 |
糸井 | ほおー‥‥。 |
山岸 | 相手と自分、ふたりのうち、 どちらかが「分けるほう」、 どちらかが「分けられるほう」になります。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
山岸 | その際、分ける役割の人は、 勝手に分けていいことになっている。 そうすると、半分半分で平等にしたり、 ぜんぶ取っちゃったり、 その分けかたは、バラバラなんですが‥‥。 |
糸井 | うん。 |
山岸 | そもそも、あなたは 「分けるほう」になりたいですか、 それとも 「分けられるほう」になりたいですか、と 質問してみるんです。 |
糸井 | ああー、なるほど、なるほど。 簡単だけど、おもしろいなぁ。 |
山岸 | わたし自身、このゲームをやるまえには、 「分けられるほうになりたい」って人がいるなんて、 思ってもみなかったんですね。 |
糸井 | え、そうなんですか? |
山岸 | ところが、かなりの人が、 「分けるほう」より、 「分けられるほう」になりたいって言ったんです。 |
糸井 | じゃ、オレは「かなりの人」だわ。 |
山岸 | あ、そうですか。 |
糸井 | 山岸先生自身は「分けるほう」? |
山岸 | ええ、自分がこうしたいと思ったら そうできたほうがいいし、 「分けられるほう」の立場を望む、ってことが、 ちょっと、よくわかんなくて‥‥。 いや、もう少し理由をうかがっても? |
糸井 | うーん‥‥そうですね、 「あなたに500円、わたしに500円」にしても、 「300円」と「700円」にしても、 強くそうしたい動機が、まず、ないんですよ。 |
山岸 | ああ‥‥。 |
糸井 | どういう分けかたをするにしろ、 やってみないと、 どういう感情を持つかわからないし、 逆に言えば、 「だったら‥‥どうでもいいか」って気持ちが まず前提として、あるんですよね。 |
山岸 | なるほど、ええ。 |
糸井 | 強く「こうしたい!」って思うほど、 「1000円」というものが それほど力を持っていないというかな。 |
山岸 | うーん。 |
糸井 | でも、たとえば、山岸先生に分けてもらって 「ぼくが0円、先生が1000円」と決められたときに、 「はぁ‥‥なんでだろ」と はじめて、ぼくに問題意識が芽生えてくるんです。 |
山岸 | うん、うん。 |
糸井 | 山岸先生は、オレに1円も渡せないってほど、 なぜそんなに1000円がほしかったんだろう‥‥とか。 |
山岸 | あはは(笑)。 |
糸井 | あとから、そういうふうに決めたことを、 後悔するんだろうか‥‥とか、 逆にしめしめと思ってるんだろうか‥‥とか。 |
山岸 | うん、うん。 |
糸井 | なんというか、ぼくの文学が始まるわけです。 そこから。 |
山岸 | なるほどね。 |
糸井 | その山岸先生の決定をじいーっとながめたり、 ひっくり返したりしながら、 「じゃ、2問目はオレに考えさせてくれる?」って コミュニケーションのリレーを始められる。 |
山岸 | ふん、ふん。 |
糸井 | レシーブが問題意識をつくっている、というか。 |
山岸 | うーん。おもしろい。 |
糸井 | そうですか? |
山岸 | おもしろいですねぇ。 |
糸井 | さっきの「倫理」や「モラル」の話でも 「そうやって押しつけられるのは、 誰だってイヤだろうし、 少なくとも、オレはイヤだね」って ストレスを感じたあとに、頭が動き出す。 それが、ぼくの思考方法なのかもしれません。 |
山岸 | なるほど。 |
糸井 | じゃ、はんたいに、 先生はどうして、分けるほうなんです? |
山岸 | まぁ、もちろん「1000円」ですからね、 たいした額じゃないけど、 それでも、相手にぜんぶ取られちゃったら、 なんかイヤだろうと思うんです。 自分は平等にしたいと思ってるわけだし、 だったら、 自分で分けたほうがいいだろう‥‥と。 |
糸井 | はぁ、なるほど‥‥。 理由を聞いてみると、おもしろいですね。 きっと「イヤだろうな」の部分が ぼくには薄いんでしょうね、そうかそうか。 |
山岸 | だから、すごく「イヤな金額」にしたら? ‥‥って言う学者もいるんです。 ぼくはね、それ自体がイヤなんですけど。 |
糸井 | つまり、もっと「賭博」にしていく? |
山岸 | 同じルールの独裁者ゲームを、 たとえば、途上国で実験してみるんです。 日本で、ちょっと多めの金額を出せば あちらでは給料の何ヶ月分かですから。 |
糸井 | すごいな。 |
山岸 | でも、こうした実験をした経済学者の結論は、 給料の数カ月分をかけた実験でも、 数百円をかけた実験でも たいして行動は変わらないということです。 <つづきます> |
2009-01-16-FRI |