糸井 | 先生の「正直は最大の戦略である」というお話は ある意味「ほぼ日」の指針となっているんですが。 |
山岸 | ええ。 |
糸井 | これって、反対側からいうと、 「人はウソをつくものだ」という人間理解でも あるわけじゃないですか。 |
山岸 | ええ、そうですね。 |
糸井 | お話していて、ふと思ったんですが、 ウソって、心理学的な見地からしたら、 じつは、ずいぶん複雑というか 難しいことなんじゃないでしょうか? |
山岸 | でしょうね。 |
糸井 | このあいだ、亡くなっちゃいましたけど、 三浦和義という人が、 「ウソ発見器」に まったく引っかからなかったんですって。 |
山岸 | ほう、そうですか。 |
糸井 | 実際、ウソをついていたんだとしたら、 すごいことですよね、それは。 |
山岸 | 演技してたってことですからね。 |
糸井 | でも、ウソとは意識しないウソなら、 だれでも日常的についてると思うんです。 |
山岸 | はい。 |
糸井 | たとえば、人の家でごちそうしてもらったとき、 こう‥‥「ん?」ってこと、あるでしょう。 それでも「おいしいですねぇ」と、言いますよね。 |
山岸 | ああ、でもそれは、難しいですけど(笑)。 |
糸井 | その「おいしいですねぇ」の ちょっとした抑揚で‥‥バレちゃいますからね(笑)。 |
山岸 | わたし、アメリカにいたときには、 よく「interesting」って言ってました。 |
糸井 | え、「興味深い味」と? |
山岸 | けっして「おいしい」とは言ってないから、 ウソはついてません。 |
糸井 | たしかにそうですが。 |
山岸 | でも「まずい」とも言ってないわけですよ。 あくまで「interesting」ですから、 非常にユニークで興味深い味ですね‥‥と。 |
糸井 | でも、言外に「おいしくはない」と 言っていますよ、それは‥‥。 |
山岸 | んー‥‥それはね、バレてるんでしょうけど。 まぁ、そうだとしてもですよ、 「お宅のお料理がマズいだなんて、 わたし、面と向かって言う気はないです」と 伝えているつもりなんです。 |
糸井 | ‥‥先生、それは、かなり激しい発言です。 |
会場 | (笑) |
山岸 | あ、そうですか。 |
糸井 | あの、一般的に言いますとですよ、 赤ん坊を見たときに、 「かわいい」以外の褒め言葉って、 「見ためはかわいくない」という意味にとられても いたしかたないといいますか。 |
山岸 | 「interesting」じゃダメですか。 |
糸井 | ダメです。 |
会場 | (笑) |
山岸 | なるほど‥‥それじゃあ 今までずいぶん失敗してますね、わたし。 |
糸井 | 山岸先生に、意外な落とし穴が(笑)。 |
山岸 | わたし、そういう方面は あんまり得意じゃないみたいです。 |
糸井 | どうも、そのよう‥‥ですね(笑)。 |
山岸 | でもね‥‥これ、おもしろい実験があるんですよ。 |
糸井 | たいがい実験してますねぇ(笑)。 |
山岸 | 最近、よくやっている実験のひとつなんですが、 利己的な行動をとった人間と 利他的な行動をとった人間を 見分けることができるか‥‥というのがあって。 |
糸井 | へぇ。 |
山岸 | 結論からいうと、これ、見分けられるんです。 |
糸井 | え、どうやって、ですか? |
山岸 | その人がしゃべってる写真を撮っておいて、 利己的な行動をとった人でしょうか、 利他的な行動をとった人でしょうかと聞くと‥‥。 |
糸井 | うわー、わかるのかぁ、それで。 |
山岸 | けっこう、当たるんですよ、これが。 |
糸井 | ちょっと話がズレちゃうかもしれないんですけど、 あれは‥‥歌舞伎の坂東三津五郎さんだったかな、 テレビ番組でお会いしたときに、 ご自身の芸能について 「型で表現するんだ」と言ってたんですね。 |
山岸 | ええ。 |
糸井 | 西洋の演劇の場合は、 「こころの内面をどう表現するか」なのかも しれないけれど、 「わたくしたちは、そうじゃない」と。 「型でやるんだ」と。 |
山岸 | ほう、ほう。 |
糸井 | ですから、「たとえばね」っていったら、 もう、すぐにできるんです。 なにしろ「型」ですから。 「わたくしがお墓参りに行ったとしたら、 こう、拝むでしょう」って 演技をしてくださったんですが‥‥。 |
山岸 | はい。 |
糸井 | その姿が、つくづく「拝んでる」んです。 |
山岸 | ほおー‥‥。 |
糸井 | 「じゃあこんどは、 悲しみを表現してみましょう」と言って 「こうなふうにね‥‥」という姿が もうね‥‥みごとに「悲しんでる」んです。 |
山岸 | うん、うん。 |
糸井 | もう、その演技にKOされまして。 日本的な「型」というもののすごさに そのときに、気づかされたと言いますか。 |
山岸 | 歌舞伎役者さんとか俳優さん以外でも そういうのが、すごくうまい人、 知ってますよ、わたし。 |
糸井 | へぇ、それは‥‥? |
山岸 | サギ師。 |
糸井 | は? |
山岸 | うまい。サギの人たちは、うまいです。 |
糸井 | ああ‥‥「サギの人たち」って(笑)。 |
山岸 | ふつう、われわれが 他人の感情を理解したいなと思ったときに いちばんコストがかからないのは、 「自分がその立場だったら」と こころのなかでシミュレートする方法。 これが、いちばん効率がいいんです。 でも、その一方で、この方法だと 自分のなかの感情を波打たせてしまうので、 相手がかわいそうになってしまって、 悪いことをできなくなってしまうんですよ。 |
糸井 | なるほど‥‥だますには向いてないのか。 |
山岸 | そこで、サギ師の場合は「型」なんです。 |
糸井 | つまり、こころごと動かそうとすると、 かえってうまくいかないんですね、サギの場合。 |
山岸 | 逆に「型」どおりにやれば、 自分のなかの感情が波打ちませんから、 相手を悲しませるようなことも 平気でできる‥‥だいぶ話がズレましたが。 |
糸井 | いや、おもしろいからいいです(笑)。 <つづきます> |
2009-01-19-MON |