やっぱり正直者で行こう! 山岸俊男先生のおもしろ社会心理学講義。

第9回 ウソをつかなきゃいいだけです
糸井 いま、山岸先生は、研究者として、
あるいは講演会の講師として
いろんなところに招かれてますよね。
山岸 ええ、おかげさまで。
糸井 たとえば、先日、地域振興を考えている
若いベンチャー経営者みたいな人が
先生をお招きしました、
というようなブログ記事を見たんですね。
山岸 はい。
糸井 くわしくは追いかけなかったんですが、
自分たちの仕事に自信を持ちたい経営者が、
先生の『安心社会から信頼社会へ』という考えかたに
なにか光明やヒントを見いだして、
お呼びしたりしてるんだと思うんですけど‥‥。

山岸 ええ。
糸井 いま、先生は、どういうところに
呼ばれることが多いんでしょうか。
山岸 うーん、そうですね‥‥。

最近では、
経営スクールのようなところからのオファーが、
けっこう、多いかもしれませんね。
糸井 経営スクール。
山岸 でも、そういうオファーって
わたし自身は、わりと困っちゃうんです。
糸井 ほう。
山岸 なんでかっていうと、
経営スクールで学ぶ人たちにとって、
わたしの話は
そんなに役に立たないだろうと(笑)。

まぁ、それでもいいっていうのであれば、
わたしが考えてることを
お話しさせていただきますので‥‥と言って
おじゃまするんですけどね。
糸井 経営スクールが多いっていうのは
ぼくは、なんとなく、わかる気がしました。
山岸 そうですか。
糸井 つまり、いま「ブランド論」みたいな話が
さかんになされているときに、
「信頼とは、なにか」を考えるのは
企業としては、当然、重要じゃないですか。

自社のブランドを強固にしていくためにも。
山岸 そうでしょうね。

だから、まぁ、そういうオファーが来たら
役に立たなかったらごめんなさいって
まず謝ってから、お引き受けするんですよ(笑)。
糸井 具体的に講演のテーマを
提示されることもあるでしょう?
山岸 うーん、よくあるのは、やっぱり
「信頼」の研究をやってるので
「どうしたら信頼してもらえるのか」について
話をしてくれっていうケースかな。
糸井 ああ、ありそうですね。
山岸 それについては、
基本的にお断りすることにしています。
糸井 それは、なんだか、安心しました。
山岸 だって、他人から信頼してもらう方法なんて
じつにカンタンなわけです。

ウソつかなきゃいいだけですから。
糸井 正直は最大の戦略である‥‥ですね。
山岸 そうじゃなくて、ウソはつくんだけど
でも信頼してほしいのなら、
サギ師を講師に雇ったほうがいいです。
糸井 あはははは、なるほど!(笑)
山岸 そんなテクニックを知りたいんだったら
わたしなんかに聞くより、
サギ師のほうがよっぽど詳しいでしょう。
糸井 これは‥‥本日の総まとめとして
なんとも見事なフレーズが出ました(笑)。
会場 (笑)
糸井 それでも、やっぱり
「ウソをつきながら儲けたいんですけど
 信頼の話をしてくれませんか」というホンネが
見え透いちゃってるようなオファーは‥‥。
山岸 もちろんね、そんなふうには
ハッキリとおっしゃいませんが。
糸井 言わないでしょうけど。
山岸 まぁ、ないことはないですよね(笑)。
糸井 やっぱり。
山岸 だから、断りきれないときは、
もう、スパッと言っちゃうんです。
糸井 ほう。
山岸 他人からうまく「信頼」してもらえる
テクニックなんて
そんなの、ぼく知らないです、と。

ですから、コンサルタントをお雇いなさい‥‥と。
糸井 はい。
山岸 だけど、答えはあるんです‥‥と。
糸井 うん、うん。
山岸 ウソつかなきゃいいだけです‥‥とね。
糸井 スッキリしますね。
山岸 でしょう。
糸井 たったの1行で言えちゃうんですもんね。
山岸 それ以外、ないんですよ。
糸井 ウソつかずにやって、でも失敗しちゃったら、
それ相応に落ち込んで、
もう一回「ウソつかずにやり直す」んですね。
山岸 それがいいと思います。
糸井 なるほど‥‥ありがとうございました。

最後に1行で言えちゃうようなお話が
聞けるとは‥‥すごく、おもしろかったです。

どうも、ありがとうございました。
山岸 こちらこそ。
会場 (拍手)。
糸井 今日はもう本当に「interesting」な‥‥。

いや、あの、本来の意味で(笑)。
山岸 あはははは(笑)。よかったです。
糸井 ありがとうございました。
山岸 ありがとうございました。


<おわり>
2009-01-22-THU




(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN