糸井 ヤマトの社員になりたくなるくらいに、
ぼくを洗脳する木川さんですが(笑)。
木川 はい(笑)。
糸井 昔からそんな感じの人だったんですか。
木川 いやいや、ぼくはこんな人じゃなかった。
何だかしらないけど、
ヤマトに来たら
こういうふうになっちゃったんです。
糸井 木川さんは金融関係のご出身ですよね。
木川 銀行出身です。
30年ほど金融の世界にいました。
糸井 数字を見て創造するお仕事から、
一気に「現場」のお仕事に。
ずいぶん違う職種のような‥‥
木川 それがですね、
ぼくはヤマトに来て6年なんですが、
銀行員時代に見ていたヤマトの印象と、
実際に中に入って感じている印象、
ここにほとんど差がないんです。
糸井 ほぉ。
木川 外から見るとかっこいいけど
中へ入るとぐじゃぐじゃとかね、
そういうケースって多いじゃないですか。
それがヤマトの場合は、
お客様に対するサービスとかスタンスについて
表に出して言ってることと
内部で目指していることに差がない。
つまり、言行一致なんですよ。
ですから、
「銀行からまったく別の世界に来られると
 ギャップが大きくてたいへんでしょう」
とよく言われたんですが、
それはね、あんまりなかったんです。
糸井 なるほど、なるほど。
木川 言行一致で、お客様第一。
糸井 はい。
木川 いや、ですからね、
これまた自慢話になっちゃいますけど、
寄付のこととか‥‥。
糸井 ああー、あれもみごとです。
木川 宅急便1個につき10円の寄付。
これを1年続けます、と。
去年の荷物の数が、約13億個なので、
たぶん130から140億の寄付になると思います。
糸井 すばらしい。
木川 で、この130億という数字、
これはぼくらの、年間純利益の4割なんです。
一民間企業が
純利益の4割を寄付に回すって、
これは前代未聞のことです。
糸井 それは、
最初に予算組みをしたんですか。
木川 予算組みというより‥‥
何をすべきかを考えた結果です。

社員は自発的にやってくれた。
ボランティアで一個人として
がんばっている社員たちもいる。
そんななか、会社として何をすべきか。
やっぱり、お金なんです。

じゃあ、そのお金はどこにどう寄付をするか。
申し訳ないけれども、
日本赤十字に寄付することはできないんです。
なぜならば、われわれは一企業だから。
株主が理解してくれる寄付でなければならない。
糸井 ぼくら「ほぼ日」では、
いろいろな方法があるかもしれないけど
「赤十字に決めました」と言って、
みんなに呼びかけたんですよ。
木川 いや、それはもちろん尊いことです。
日本赤十字への寄付は
国民から集められたものとして、
被災地全体で有意義に
つかわれていくのだと思います。

ところが、われわれ企業は、
株主が納得してくれる寄付でなければならない。
それは何かと考えると、
やっぱりわれわれを育ててくれた宅急便。
とりわけこの地方では、クール宅急便です。
ここには、水産業、漁業にたずさわる人が
ものすごくたくさんいらっしゃる。
みな、クール宅急便を育ててくれたお客様です。
この方々の生活を復活させるということは、
雇用をつくるということです。
ですから、水産業、漁業の再生のために
われわれの寄付をつかっていただきたい、と。
糸井 なるほど。
木川 それから、
その地域の農業の再生にもつかっていただきたい。
また学校であったり、病院であったり、
失われてしまった生活基盤の復旧にも、
つかっていただきたい。
糸井 つかいみちをはっきりさせる。
木川 そうです、
この目的以外には
ぜったいにつかわないでください、と。
しかも、
130から140億になるであろうお金をすべて、
寄付する先を指定できるようにして、
なおかつ、何につかわれているかを
ちゃんと見えるかたちにしてください、と。
糸井 見えることはたいせつですね。
木川 はい。
災害に遭った人のための募金と言っても、
被災地には何割が届くんだろう?
経費で何割がなくなるんだろう?
そういうことを、みなさんが思いますよね。
糸井 そうですねぇ‥‥。
木川 できるだけ無駄なく、お金をお渡ししたい。
糸井 ええ。
木川 というわけで、
最後にきわめつけの、ぼくらの希望が‥‥
全額無税にしてください。
糸井 ‥‥‥‥それがねぇ。
木川 寄付分については、無税にしてください。
糸井 ‥‥‥‥すごいなぁ(笑)。
ほんとうに驚かされたんですけど、
できてしまうんですかね?
そんなすごいことが。

(つづきます)


2011-08-24-WED