糸井 |
ここまで木川さんと、
自慢してくださいとか、自慢しますよ、
というやり取りをしていて気づいたんですが、
木川さんのお話は、
ひじょうに自我が薄いんですよ。
「自慢」っておっしゃってるのに、
聞いていてちっとも嫌じゃないんです。
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木川 |
もっと自慢しないと、
いけなかったですかね(笑)。
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糸井 |
自己実現の話はひとつもないんです。
「ぼくには夢があるんです」
というのは何もなくて、
何ていうんでしょう、
動いてるものに対して手伝いをしてるというか、
役に立ってよかったというか、
主役は完全に‥‥
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木川 |
自分ではない。
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糸井 |
他人なんですよ。
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木川 |
たしかにぼくは、自分がこんなにやったぞと
アピールするのはものすごく下手ですね。
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糸井 |
どう見ても、そうですよね(笑)。
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木川 |
だから広告宣伝も下手なんです。
それで電通から、この丹澤さんに来てもらった。
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丹澤 |
同席させていただいています、
広報の丹澤と申します。
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広報ご担当の丹澤秀夫さん
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糸井 |
そうですか、電通からいらした。
どうでしょう、
電通のメソッドで
ヤマトの広告を上手にやるのは、
むずかしくはないでしょうか。
この会社にもともとあるメソッドの方が、
実はいいですよね?
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丹澤 |
そうですね、
ぼくはもう25年前からお付き合いがあって、
どちらかというと
洗脳されたクチですから(笑)。
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糸井 |
25年ですか。
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木川 |
ぼくなんかよりも
はるかにヤマトのことを熟知してる人です。
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糸井 |
電通がつくる上手な広告っていうのは、
「どんな物でも売ってみせる」
というすごさですよね。
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丹澤 |
はい、わかります。
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糸井 |
でも、ヤマトにそれは必要ない。
木川さんのお話を聞いていると、
お客さんがよろこぶ仕事をやっているだけで、
そのこと自体が
もう広告になっているのを感じるんです。
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丹澤 |
ええ、まさしく。
ですからヤマトの場合は
事実をそのままという方法が
最も適していると思います。
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木川 |
だから今回もね、
「宅急便ひとつに、希望をひとつ入れて。」
ていう広告、
あれは彼がいなかったらできなかったんですよ。
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糸井 |
読みました。
そうですか、あの広告は丹澤さんが。
冷静に見てますねぇ。
いや、みごとな広告でした。
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丹澤 |
ただ、あの広告を出したときは
とにかく怖かったんですよ。
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糸井 |
ああ、そうでしょうね。
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丹澤 |
震災後1カ月目で、
まだ現地は大混乱しています。
そんなときにあの広告を出して本当に大丈夫かと。
「こんな状況下で、ただのマーケティングだ」
と言われるのではないかと、
その恐怖心がすごくありました。
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糸井 |
なるほど。
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木川 |
「民間企業が本気でこういう活動をしてます」
っていうことをね、
やっぱりちゃんと見せるべきだと思ったんです。
それによって、
「いや、これは儲けるためにやってるんだろう」
というふうに言われるかもしれない。
でもそれが怖くてやめてしまったら、
全部がなくなっちゃいますから。
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糸井 |
疑いの目っていうのは、あるものですよね。
「5%はかならずあります」
という言い方を、
西條剛央さんという方がされてました。
被災地支援のプロジェクトを次々に立ちあげている
本業は学者さんなんですけど、
「まあ、消費税分ぐらいは疑われてます」と。
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丹澤 |
なるほど‥‥。
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糸井 |
その5%のほうが目立つんですよね、
ついつい気になってしまう。
ですから、うなづいてくれている
95%の人々のことを忘れないよう、
ぼくは気をつけるようにしているんです。
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木川 |
震災から1カ月後にね、
新聞であの広告を出して、発表をしたでしょう。
そうしたら、
ツイッターに書き込みがすごかったんです。
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糸井 |
世論が。
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木川 |
ぼくは1日中、画面を開けて、
ずーっと見ていたんです。
好意的な書き込みがほとんどなんですけど、
そんななかにポンッと、
きわめて冷静に、
「これはヤマトの高等な戦略だ。
商売のためのマーケティング戦略なんだ」
っていう書き込みが出たんです。
そしたら、
もう、集中砲火ですよ。
「そんなことしか考えられないあなたは
たいへん心の貧しい人だ」とか。
そういうのがバーッと。
これはすごいなと思いましたねぇ。
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糸井 |
「高等戦略だ」と言った人が、
べつに悪いわけでもないんですよね。
ですから、
まあ、そんなに叩かないでって思いますよ。
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木川 |
書いた人は、
あんなに叩かれるとは思わなかったでしょうね。
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糸井 |
うーん‥‥。
近ごろこんなに頭の中が忙しくなった理由は、
そういうことを両方想定してないと
いろいろなことが
できなくなっちゃったからだと思うんですよ。
つまり、「いいこと考えた!」ってなっても、
「高等戦略だ」と言われることを想像してないと
動けなくなっちゃった。
天使と悪魔を抱えながら、
手をきれいにしておくような‥‥。
こりゃ忙しい時代ですよ(笑)。
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木川 |
その覚悟がないと、いまは仕事ができないですね。
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糸井 |
そうですね、
広報の分野なんかは
ぜんぶを考えておかなくちゃならないので、
とくに大変だと思いますよ。
(つづきます) |