糸井 その新聞広告、
「宅急便ひとつに、希望をひとつ入れて。」
あれをいまここで読むことは‥‥。
木川 コピーでよろしければ、ここに。
(紙を広げる)
糸井 ありがとうございます。
‥‥はいはい、これです。

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木川 こうやってね、
文章のプロの方が書いてくれたものは、
やっぱりうれしいもので。
糸井 ‥‥はい。
いまあらためて読んだんですが、
やっぱり、いいですね。
木川 これはぼくらの心情そのままですから。
糸井 広報の丹澤さんはいかがでしたか、
制作のご苦労などは。
丹澤 社長の修正が厳しかったです(笑)。
ここは直したほうがいいっていうのを何度か。

広報ご担当の丹澤秀夫さん
糸井 そうですか、
具体的にはどこを直しました?
木川 いやいや、直したのはほんのすこしですよ。
糸井 教えてください。
木川 どこだったかな‥‥。
糸井 木川さんが直したポイントにはたぶん、
何かがあると思うんですよ。
木川 そうでしょうかねぇ。
ぼくが直したのは、やっぱりこの‥‥。
糸井 どこでしょう。
木川 「もちろん宅急便の運賃表は変えません。
 しかしそのお金はまぎれもなく、
 全国のみなさんの力で生まれるお金です。」
というくだりは、最初の原稿になかったんです。
値上げをするんじゃないんです、
ということを主張したかったんです。
糸井 それで、そのくだりを加えた。
つまり、
「私たちはゼロですけれど、
 あなたがやってくださった善意は
 ちゃんと加わります」
っていうことですよね。
木川 そうです。
糸井 主役は‥‥
木川 主役はあなたですね。
糸井 あとは、どこを‥‥?
木川 文章の最後に、
「この活動は、
 どんな困難があってもやり続けます」
と書いてありましたので‥‥
糸井 ああー、はい。
木川 それは違うんじゃないかと。
自分たちが困難の中でどうこうっていうのは、
そんなのはいま、関係ないんだと。
糸井 ほら、あったでしょう、何かが(笑)。
ここでも自我を消すんですよ。
木川 そこは削除してもらいました。
困難を乗り越えるのは
自分たちではありませんから。
ほぼ日 (思わず小声で言ってしまう)‥‥かっこいい。
糸井 そうなんだよ、かっこいいんだよ。

もう、いっそのこと、
ぼくらをヤマトの子会社にしてください!(笑)
木川 いやいや(笑)。
糸井さんに言われて初めて気づきました。
たしかに主語が変わってますね。
最初は「ヤマト」が主語の印象でした。
糸井 ‥‥つくづく思います。
何でぼくはこんなに前のめりになって
お話を聞けるのかというと、
やっぱり自己主張がまったくないからなんです。
木川さんは自己主張をしないことを
ものすごく鍛錬してきたという気がします。
ふつうは「うちに任せてください!」って、
大声で言いたいのが商売ですから。
それを言わなくても
任せたくなるように動いていれば、
自然と信頼は集まります。
同時に自信も感じます。
だから、広告屋的な言い方をすれば、
そうやってつくったブランドイメージが
いちばん強い、ということなんです。
木川 ぼくらはリスクのなかでね、
ただ一所懸命にこの広告を出しただけです。
糸井 そうだと思います。
で、たぶん、どういったらいいのかな‥‥
約束は守らなきゃいけないということと、
簡単にできない約束をしちゃいけないということ、
このふたつの問題が
企業ではいつもせめぎ合ってますよね。
木川 そうですね、どこまで約束するか。
糸井 広告屋っていうのは、
できない約束をし続けることが
仕事だった時代が長かったんです。
だからぼくは
「ひとつだけ自分にできる約束をする」
みたいなことを
いつも心がけるようになりました。
ヤマトさんのやり方っていうのは、
ぼくが心がけているその分量と
ちょうど同じくらいに思えたんですよ。
木川 そうですか。
糸井 この広告を読んで、
ていねいにつくってあるなぁと思いました。
これは昔で言うと、広告じゃないですよね。
事実だけを書いている。
木川 読んだ人に、「いかにもヤマトらしい」
と思っていただければいいなと。
糸井 そうですね。
あえてテクニックがあるとすれば、
マークとロゴしか入れないで、
縦書きでゆっくり読んでもらうスペースを取った。
それだけが作為です。
その作為は表現をするための
ネクタイみたいなもので、「礼」なんですよね。

ぼくはこれが、理想的な広告だと思います。
丹澤 最初は15段(1面全部)の横書きだったんですよ。
「15段はでかい、7段でいいよ」って。
糸井 さすが! 知り尽くしてますねぇ。
はあー、15段の横書きでしたか‥‥。
デザイナーは、やっちゃいますよね(笑)。
丹澤 ぎりぎりのところで、こう直してもらいました。
糸井 (拍手)すばらしい。
でもこれはね、
賞をとれないタイプの広告なんです(笑)。
丹澤 そうですね(笑)。
糸井 上手だとも言われないんですよ。
だからこそ、
今のほんとうの広告は、これだと思いますね。
おたのしみの広告は
それとはべつにいっぱいつくれますから。
木川 これを出して、
いろんな方からお手紙を頂戴しました。
ぜんぶにすごく気持ちがこもってるんです。
糸井 そうでしょうねぇ‥‥。

ぼくは、企業のかたとこういうふうに
広告論みたいな話をしたのは、
生まれて初めてかもしれない。
木川 僭越なことをしてますね(笑)。
糸井 そんなことはないです。
「広告は変わったんだよ」って言ってから、
企業の人とその話をする機会がなかったんですよ。
広告が変わったとは言うものの、
利益はほしいし宣伝をしたいのが、
企業ですからね。
「上手にやらない」という
「広告の上手さ」を語ることって、
相当むずかしいことなんです。
それを今日はここまでしゃべれた。

たぶんこれを「ほぼ日」に載せたときに、
ふつうの人が読んでくれると思うんです。
「広告に憧れてます」という人たちなんかは、
「ええーー?!」ってなりますよ。
木川 そうでしょうね。
糸井 それは、なんというか‥‥
ぼくらのできる、
ちょっとしたいいことのような、
そんな気がするんです。

(つづきます)


2011-08-30-TUE