矢沢 |
最近、よく思うのはね、
音楽のつくり手と聴き手のあいだに
決定的な違いが
できてるんじゃないかってことでね。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
わかりやすくいうと、アレンジね。
音楽をずっとやってるとね、やっぱり、
アレンジってすごいなと思うわけ。
おなじメロディーなのに、アレンジひとつで、
イメージが大きく違う。形がガラッと変わる。
「アレンジって、すげーな」ってね、
当然、ぼくも魅了されましたよ。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
それを突き詰めていくとね、
オレたち、バンドやってる人間は
やっぱり海の向こうに目がいくわけ。
で、海外で録音したり、アレンジを極めたり。
もう、すごいミュージシャンを集めたり、
演奏のテクニックを追求したりね。
でもね、それってぜんぶ、つくる側の話でね。
聴いてる人たちがどういう感覚で
聴いてるかつったら、そんな、
どんだけ複雑なアレンジなのかとか、
どんだけすごい演奏なのかとか、
そんなのぜんぜん関係なかったりするもんね。
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糸井 |
ああ、うん。
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矢沢 |
つくる側からすると、追求すればするほど、
もっと奥があるんじゃないかと思うんだよ。
だから、スネアの鳴りがどうしたとか、
もっとギターのリバーブをとか、
もう、どんどん突き詰めちゃうんだよね。
それで、いちばん肝心要の、
リスナーがどういうポイントで聴いてるのか、
っていうことが、考えられなくなってる。
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糸井 |
自分がリスナーじゃなくなるんだろうね。
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矢沢 |
そう。つくってるうちに。
自分も、もともとリスナーだったのに。
もう、ビートルズ聴いて、
「♪Can't Buy Me Love?」ってきたとき、
「かっちょいい!」って泣いてたくせによ。
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糸井 |
いいねぇ(笑)。
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矢沢 |
それが、自分で、つくりはじめたら、
「あのさ、スネアの革がね‥‥」
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一同 |
(笑)
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矢沢 |
スネアの革が張っただ、張らねえだ、
だから、どうしたんだよ、みたいな。
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糸井 |
ああー。
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矢沢 |
いまは、そこじゃないってことが、わかるね。
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糸井 |
もちろん、
「スネアの革が」って言ってるときには、
すごく真剣にやってるんだよね。
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矢沢 |
真剣。真剣すぎるくらい真剣。
でも、やってることが、
ぐるっと一周まわったときに、
「あれ?」って気づくんだ。
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糸井 |
それって、だいたいいつごろの話?
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矢沢 |
まぁ、うすうすはわかってたけど、
ものすごくはっきりとわかったのは、
この4年、5年ぐらいね。
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糸井 |
最近だ。時間かかったねぇ(笑)。
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矢沢 |
かかったねぇ(笑)。
だってぼく、デビューして、
もう36年とか37年でしょ。
キャロルでデビューして、2年半やって、
ガンガンガンガン、ガンガンガンガン、
ってもう、ロックンロール。
それから、「♪アイ・ラヴ・ユー、OK?」って、
「オレのメロディー、コード進行、すげぇだろ?」
ってところをとことんいって、
それで、今回の『ROCK'N'ROLL』ですよ。
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糸井 |
つまり、途中でやめてたら、
ここには戻ってこなかったってことだね。
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矢沢 |
そう。途中でやめてたらね。
途中で引退かなんかしてたら‥‥。
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糸井 |
「スネアの張りが」って言ったまま。
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矢沢 |
そう、そう。
「音楽は奥深いんだよ」で終わってたわけよ。
ところがやめずにずっとつづけてきたもんだから、
「ちょっと待てよ?」と。
ひと回りして、
「リスナーってどのへんで聴いてんだ?」
ってなったんだよね。
それはやっぱり技術や理屈じゃないんだよ。
理屈抜きに、歌や音楽がストーンと入ってきて、
メロディーと詞の内容が
スコーンと入ってくる歌いかたがあって、
それで、ゾクッとくるわけですよ。
いちばん大事なのは、そこなんだよね。
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糸井 |
うん、うん。
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矢沢 |
そういうアルバムを
もう一回ちゃんとつくろうと思ったのが、
今回のアルバムですよ。
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糸井 |
やっぱり、去年、いったん動きをとめたのが
その発見につながったのかな。
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矢沢 |
それもあると思う。
けど、もう4年ぐらい前から、わかってた。
だから、『YOUR SONGS』っていう、
自分の曲をミックスダウンしなおしたアルバムを
出したんだけど、それもある種の実験だったから。
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糸井 |
ああ、なるほど。
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矢沢 |
その実験のあと、結果的に3年間、
アルバムを出さなかった。
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糸井 |
矢沢を見てた時期があったっていうことだね。
自分が自分をね。
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矢沢 |
かもしれないですね。
それで、よし、もういいだろうと。
つかんだこと、気づいたことを
最初からコンセプトの中にがっつり入れて、
4年ぶりにつくったニューアルバムが
この『ROCK'N'ROLL』ですよね。
だから、よく言われるんだけど、
理屈抜きで入りやすいと思う。バーンと。
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糸井 |
うん。だから、それがさっきぼくが言った
「若くなった」ってことでね。
昔から、こういうことしてたよな、
っていう気がしたんだよ。
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矢沢 |
ああ、はいはいはい。わかる。
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糸井 |
理屈抜きのところへ、ぐるっと戻ってね、
でも、歌の迫力とかは昔よりぜんぜんあるから、
どういったらいいんだろうな、
昔の永ちゃんに、いまの永ちゃんが
聴かせてるみたいな感じがするんだよ。
ちょっと、親子みたいな関係でさ。
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矢沢 |
ああー。
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糸井 |
だから、親のロックンロール(笑)。
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矢沢 |
親のロックンロール(笑)。
前は子のロックンロール。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
それいいねぇ(笑)。
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糸井 |
きっと、キャロルのころの永ちゃんを見て、
「ヘタじゃん」って言ってた娘さんも
これはすごいって言ってるくれると思うよ。
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矢沢 |
(笑)。
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(つづきます) |