ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第4回
 なんでオレが矢面に?

糸井 今日はね、ひとつ、裏のテーマとして、
「ひとり立ち」っていうことについて
訊きたいなと思って来たんだけど。
矢沢 ほー。「ひとり立ち」。
糸井 ほら、このアルバムから、
もとのレコード会社を離れて
自分のレーベルをつくった形になってるでしょ。
そういうことも含めて、
「自分で決裁する立場」に
どんどんなっていく永ちゃんに、
いま、「ひとり立ち」することについて訊いたら
おもしろいんじゃないかなぁと思ってさ。
矢沢 あのー、この、ほぼ日刊イトイ新聞っていうのは、
いつも、非常に、はっきりした色があるから、
ぼくは取材をいつもたのしみにしてるんですけど、
今回は、そういうテーマってことね。
糸井 うん。
矢沢 OK。
じつはね、それについては、ぼくは、
あるとき本気で考えたことがある。
糸井 ほう。
矢沢 たしかにぼくは、昔から、自分で、
自分のプロジェクト、自分の会社、
自分を取り巻いてること、自分で決裁してきた。
で、いつから、決裁してきたんだろう、
どこで決心したんだろう、
最初からこうだったっけ?
って考えたことがあるの。
糸井 おもしろいね。
矢沢 そしたらね、わかったんだ。
決して、ほんとうに、決して、
自分から進んで決裁したことなんか、
ありゃしないんだよ。
糸井 はーー。
矢沢 で、ずっと考えて、自分なりに出した結論。
正直なことをいうとね、
たぶん、ぼくだけじゃなくて、誰も彼も。
それこそ総理大臣みたいな人も。
すべてとは言わないけど、
かなりの多くの人たちがそうだと思うんだけど、
最初から「オレが決裁しよう」と思って
決裁した人なんかいないんじゃないかな。
糸井 ああー。
矢沢 すべてとは言わないけど、
かなりの多くの人は、いっしょなんだよ。
できれば楽したいし、
できれば責任を負いたくないし、
できれば影に隠れていたいの。
隠れるつもりはないにしても、真正面に立って、
「なんかあったらオレに言ってきてください」
とは言いたくないのよ。
それはもう、本能のようなものだと思う。
糸井 ああ、ボディーがそう感じるんだ。
矢沢 うん。つまり、リスクの高さとか、可能性とか、
そういう、計算するようなことじゃなくて、
本能的に、「矢面には立ちたくない」
っていうのが人なんじゃないの?
ぼくは、そんな気する。
糸井 うん。
矢沢 ところが、あるときにね、
あるときに、自分の身に、
あるいは自分の身のまわりに、
なにかが起きるわけ。あるときによ。
なんか、こう、そうせざるをえない、
こう、ところてんが押し出されるみたいに、
気がついたら前に出てるときがあるわけ。
出されちゃうのか、
出なきゃいけなくなっちゃうのか、
なんか、わからないけど、
やらなきゃいけない。こういうときが来るのよ。
糸井 うん、うん。
矢沢 それは、その人の運命なのか、
選んだのか、選ばれたのか、
ぼくはよくわからない。
糸井 うん。
矢沢 わからないけど、押し出されちゃうのよ。
自分が自分を押したのか、まわりがやったのか、
神様がやったのか、知らないけど、とにかく
「え? なに、なに? ウソだろ?
 オレがやんなきゃいけないのかい?」
っていうときが来るんだ。
糸井 うん、うん。
矢沢 だから、最初から
「あ、わたくしですね、やりましょう」って、
スパーンとはじまるわけじゃないんだよ。
だって、もともと人は本能的に、
矢面に立ちたくないんだもん。
ぼくはそう思うんだよ。
なにかの拍子に、自分が前に押し出されててね、
「オレ?」って最初は戸惑って、
「え、マジかよぉ」って言いながら、
でも、どう見ても、キョロキョロ見回しても、
「オレしかやるやついねぇよな‥‥」
ってことを、悟るんですよ。
糸井 それが、はじまり。
矢沢 うん。
「イヤだなぁ、なんでオレが矢面に?」
みたいなことではじまるんだよ。
で、義務感とか、やらざるを得ないってことで
ずっとそういうことをやってるとね、
なんというか、慣れるというのかな、
慣れるつもりはないのに慣れてくるんだよ。
糸井 ああ、わかる気がする。
なんなんだろうね、あれは。
どこかから、ちゃんと自分の動きになるんだよね。
矢沢 なんつーのかな、たとえば、
流れが悪かったりして、頭にきたりするんだよ。
で、頭にきたときに、
「なんでスムーズにいかないんだ!」
って叫んだそのときに、
その人は矢面に立つことに慣れるんだよ。
糸井 ああーーー。
矢沢 わかる?
糸井 わかる(笑)。
そのとき、まわりのみんなが
そのことばを聞くんだよね。
矢沢 そう。
こっちは慣れるつもりなんてないのに、
流れがよかったり悪かったりするのを見ていると
ときどき腹が立ってね、
「なんで流れが悪いんだよ、流れよくしろ!」
って言ったときに、
もうそこで社長になってるんだよね。
会社の経営者なんかでもね、
最初から、がっちりわかってやったやつ、
あんまりいねぇんじゃねぇかって思う。
糸井 うん。そうだと思う。
(つづきます)




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2009-08-10-MON

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN