糸井 |
今日はね、ひとつ、裏のテーマとして、
「ひとり立ち」っていうことについて
訊きたいなと思って来たんだけど。
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矢沢 |
ほー。「ひとり立ち」。
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糸井 |
ほら、このアルバムから、
もとのレコード会社を離れて
自分のレーベルをつくった形になってるでしょ。
そういうことも含めて、
「自分で決裁する立場」に
どんどんなっていく永ちゃんに、
いま、「ひとり立ち」することについて訊いたら
おもしろいんじゃないかなぁと思ってさ。
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矢沢 |
あのー、この、ほぼ日刊イトイ新聞っていうのは、
いつも、非常に、はっきりした色があるから、
ぼくは取材をいつもたのしみにしてるんですけど、
今回は、そういうテーマってことね。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
OK。
じつはね、それについては、ぼくは、
あるとき本気で考えたことがある。
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糸井 |
ほう。
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矢沢 |
たしかにぼくは、昔から、自分で、
自分のプロジェクト、自分の会社、
自分を取り巻いてること、自分で決裁してきた。
で、いつから、決裁してきたんだろう、
どこで決心したんだろう、
最初からこうだったっけ?
って考えたことがあるの。
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糸井 |
おもしろいね。
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矢沢 |
そしたらね、わかったんだ。
決して、ほんとうに、決して、
自分から進んで決裁したことなんか、
ありゃしないんだよ。
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糸井 |
はーー。
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矢沢 |
で、ずっと考えて、自分なりに出した結論。
正直なことをいうとね、
たぶん、ぼくだけじゃなくて、誰も彼も。
それこそ総理大臣みたいな人も。
すべてとは言わないけど、
かなりの多くの人たちがそうだと思うんだけど、
最初から「オレが決裁しよう」と思って
決裁した人なんかいないんじゃないかな。
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糸井 |
ああー。
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矢沢 |
すべてとは言わないけど、
かなりの多くの人は、いっしょなんだよ。
できれば楽したいし、
できれば責任を負いたくないし、
できれば影に隠れていたいの。
隠れるつもりはないにしても、真正面に立って、
「なんかあったらオレに言ってきてください」
とは言いたくないのよ。
それはもう、本能のようなものだと思う。
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糸井 |
ああ、ボディーがそう感じるんだ。
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矢沢 |
うん。つまり、リスクの高さとか、可能性とか、
そういう、計算するようなことじゃなくて、
本能的に、「矢面には立ちたくない」
っていうのが人なんじゃないの?
ぼくは、そんな気する。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
ところが、あるときにね、
あるときに、自分の身に、
あるいは自分の身のまわりに、
なにかが起きるわけ。あるときによ。
なんか、こう、そうせざるをえない、
こう、ところてんが押し出されるみたいに、
気がついたら前に出てるときがあるわけ。
出されちゃうのか、
出なきゃいけなくなっちゃうのか、
なんか、わからないけど、
やらなきゃいけない。こういうときが来るのよ。
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糸井 |
うん、うん。
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矢沢 |
それは、その人の運命なのか、
選んだのか、選ばれたのか、
ぼくはよくわからない。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
わからないけど、押し出されちゃうのよ。
自分が自分を押したのか、まわりがやったのか、
神様がやったのか、知らないけど、とにかく
「え? なに、なに? ウソだろ?
オレがやんなきゃいけないのかい?」
っていうときが来るんだ。
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糸井 |
うん、うん。
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矢沢 |
だから、最初から
「あ、わたくしですね、やりましょう」って、
スパーンとはじまるわけじゃないんだよ。
だって、もともと人は本能的に、
矢面に立ちたくないんだもん。
ぼくはそう思うんだよ。
なにかの拍子に、自分が前に押し出されててね、
「オレ?」って最初は戸惑って、
「え、マジかよぉ」って言いながら、
でも、どう見ても、キョロキョロ見回しても、
「オレしかやるやついねぇよな‥‥」
ってことを、悟るんですよ。
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糸井 |
それが、はじまり。
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矢沢 |
うん。
「イヤだなぁ、なんでオレが矢面に?」
みたいなことではじまるんだよ。
で、義務感とか、やらざるを得ないってことで
ずっとそういうことをやってるとね、
なんというか、慣れるというのかな、
慣れるつもりはないのに慣れてくるんだよ。
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糸井 |
ああ、わかる気がする。
なんなんだろうね、あれは。
どこかから、ちゃんと自分の動きになるんだよね。
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矢沢 |
なんつーのかな、たとえば、
流れが悪かったりして、頭にきたりするんだよ。
で、頭にきたときに、
「なんでスムーズにいかないんだ!」
って叫んだそのときに、
その人は矢面に立つことに慣れるんだよ。
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糸井 |
ああーーー。
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矢沢 |
わかる?
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糸井 |
わかる(笑)。
そのとき、まわりのみんなが
そのことばを聞くんだよね。
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矢沢 |
そう。
こっちは慣れるつもりなんてないのに、
流れがよかったり悪かったりするのを見ていると
ときどき腹が立ってね、
「なんで流れが悪いんだよ、流れよくしろ!」
って言ったときに、
もうそこで社長になってるんだよね。
会社の経営者なんかでもね、
最初から、がっちりわかってやったやつ、
あんまりいねぇんじゃねぇかって思う。
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糸井 |
うん。そうだと思う。
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(つづきます) |