糸井 |
けど、ほかの人が言うならまだしも、
「自ら進んで矢面に立ちたがる人なんていない」
って、永ちゃんが言うのはおもしろいね。
だって、たぶん、永ちゃんのことを
「生まれついての、前に出て行く人」
としてとらえている人は多いと思うよ。
|
矢沢 |
でもねぇ、本人にしてみりゃ、
「いつからこうなっちゃったんだ?」
って感じだからね。
|
糸井 |
できれば、矢面になんて、立ちたくない。
|
矢沢 |
決して矢面に立ちたかったわけじゃない。
オレ、できればね、誰かが、
がっつり、オレをプロテクトしてくれて、
もう、税務署の話も考えなくていい、
印税計算もしなくていいよ、って
言ってくれたらどんなにラクかって思ったよ。
ある日、だれかがオレの肩を
トントンって叩いてね、
「メロディーだけつくってて」
って言ってくれたらって。
|
|
糸井 |
ああー。
|
矢沢 |
「メロディーとステージだけ
やってくれりゃいいから」ってさ。
「あとのことはぜんぶオレがやるから」
っていうやつが、ものすごく欲しかった。
|
糸井 |
うん、うん。
|
矢沢 |
それでも、あるとき、オレはあきらめた。
あー、オレのそばには
そういうやつ来ないんだなと、思った。
そしたら、うちの女房が言ったんだよ。
「あなたがそういう人を求めてないんだよ」って。
|
糸井 |
ああ、なるほど。
|
矢沢 |
わかるかな、これ。
「オレはすごく欲しい」と言いながら、
「要らねぇよ」っていうのが、
きっと、どこかにあるんだよ。
|
糸井 |
ああー。
|
矢沢 |
なんつーか、人間のタイプの問題で、
けっきょくオレは、誰かの手の中で
踊らされるのは納得できないんだよね。
|
糸井 |
うん、うん。
|
矢沢 |
だけどさ、もう一方の気持ちとしては、
「手の中で転がして欲しい」
っていう欲求もあるわけ。
それは、さぞ素敵な世界だろうって思うんだ。
「音楽だけやってなさい」
「メロディー書いてりゃいいから」ってね。
実際、大きなプロダクションに買ってもらって
そこで転がしてもらったらどうか?
って思ったこと、何度もあるもん。
|
|
糸井 |
はははは。
|
矢沢 |
いや、ほんとに、ほんとに(笑)。
どっかの大きなプロダクションに所属して、
それで、高い印税だけもらってたら
オレ、サンキューだなと思ったことあるもん。
|
糸井 |
つまり、それはあれだよね。
タマゴを生んでるだけで
まわりがぜんぶ世話してくれるっていう
「女王アリ」の生き方だよね。
|
矢沢 |
あ、オレ、女王アリになりたかったよ。
|
|
糸井 |
そっかー。
|
矢沢 |
ところが、うちの女房は言うんだ。
「それを許さないのがあなた自身でしょ」って。
|
糸井 |
そばにいる人にはわかるんだね。
|
矢沢 |
そうなんだろうなぁ。
「それが矢沢永吉でしょ」って言うんだ。
だから、転がされたい、ラクになりたいっていう
気持ちが出たり入ったりしたことはあったけど、
どっかであきらめた。
「わかった。矢面に立ちましょう」って。
|
糸井 |
うん(笑)。
|
矢沢 |
それはね、誰かがどこかで
決めるしかないっていうだけのことで、
「腹をくくる」とか、
そういうかっこいいことじゃないんだよ。
|
糸井 |
そうだね。しょうがないことだもんね。
|
矢沢 |
しょうがないことなんだよ。
しょうがないから、もう、押し出されて、
わかった、オレ、矢面に立とうと決めたの。
立とうと決めたその瞬間に、
「矢面に立ちたい人なんていないんだな」
っていう理屈が見えたんだ。
だから、これを読んでる人に言いたいのは、
決して矢面に立ってる人が
偉いんじゃないってこと。
しょうがないんだよ。押し出されちゃったんだ。
|
|
糸井 |
それは、自分を見ながら気づいたんだね。
|
矢沢 |
そうだね。
それで、いま、どうだと言われたら、
さっきも言ったように、だいぶ慣れた。
そして、決してラクではないけれども、
矢面に立つとおもしろいよ。
おもしろいっていうかね、人がよくわかる。
|
糸井 |
ああ、それはあるね。
|
矢沢 |
で、慣れっていうのはおもしろいもんで、
ある程度慣れたらさぁ、どっかで、
チャンネルがパチッと変わるときがあるんだよね。
|
糸井 |
うん、うん。
|
矢沢 |
だったらもう、堂々としなきゃなっていうか。
もう、バレてるんだから、しょうがない。
赤坂にビル建てて、持ってるのは矢沢永吉だ。
逆立ちしても、それは隠せないよ。
で、バレてるんなら、この際、堂々と、
「そう、オレが建てたビルだけど、なんかある?」
って、ふてぶてしく言うしかねぇじゃん、もう。
|
糸井 |
そういう「役」だからね。
|
矢沢 |
役だから。
オレはこの役回りをしてるんだから。
|
糸井 |
「永ちゃん役」ってあるよね。
|
|
矢沢 |
そうそう。「永ちゃん役」だよ。
オレは、どっかで、言われたんだよ。
「はい、あなた、永ちゃんやんなさい」って。
|
糸井 |
そうだね(笑)。
|
矢沢 |
「えー、永ちゃんですかぁー?」って思うけどね。
|
一同 |
(笑)
|
矢沢 |
「永ちゃんの役って、それ、ちょっと、
大変じゃありません?」
って思うけど、しょうがないよ。
|
糸井 |
まぁ、本人を目の前にして言うのもなんだけど、
「永ちゃん役」って、大変だよな。
|
矢沢 |
うん、大変よ(笑)。
|
|
(つづきます) |