矢沢 |
まぁ、いろいろ言うけど、オレはやっぱり、
自分の経験から実際に学んで、
「自分はこう思うんだけど」とか、
「こう自分に言い聞かせてきたけど」
っていうことしか言えないんだよね。
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糸井 |
うん、うん。
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矢沢 |
そういうふうに、
自分なりの理屈を人に言うことで、
自分を暗示にかけてるのかもしれないし。
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糸井 |
やっぱり、永ちゃん自身も
つねに探っている状態というか、
暗示かけながら自分を
奮い立たせてるようなところがあるんだね。
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矢沢 |
うん、ありますね。
やっぱり不安になるからね。
だからこそ、「これでいいんだ」って。
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糸井 |
ずいぶん前に、
ステージに出ていく直前は、
こっちだってガタガタしてるよって、
言ってたことがあったけど、
いまでも、そういう気分っていうのは?
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矢沢 |
もちろん。あたりまえの話です。
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糸井 |
やっぱり、そうなんだ。
それもだから、
ある意味、押し出されているというか、
「大好きで、なんのストレスもなく」
っていうことじゃないんだね。
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矢沢 |
そりゃそうよ。
矢沢永吉は、1万人相手に
「ヘイ、ロックンロール!」って言ってるけど、
「はい、10分前です」って言われたら
「10分、OK」って言いながら、
もう開き直ってるんだ。
なんで開き直るかっていうと、
開き直るしかないぐらいにビビってるから。
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糸井 |
おもしろいねぇ。
ビビってる永ちゃんと、
ぜんぶ平気って言う永ちゃんと。
そういうのをぜんぶ考えてる永ちゃんと。
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矢沢 |
ぜんぶ、ほんとう。
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糸井 |
何人もいるよね。
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矢沢 |
いっぱいいるよ。
それで、はねのけてるんだから。
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糸井 |
不安やストレスを。
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矢沢 |
うん。
それで、1曲目がはじまって、
2曲目やって、って進んでいくとね、
だいたい5、6曲目ぐらいで、
油が回って体が落ち着いてくる。
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糸井 |
へぇー。
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矢沢 |
出る前のほうがイヤだね。
「カァー、もうはじまるなぁ、
えい、クソ、いったれー」みたいな感じ。
いってみれば、もうヤケクソよ。
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糸井 |
そういう話は、何度聞いてもおもしろいね。
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矢沢 |
そういうことでいうと、
いちばん笑っちゃう話があってね。
オレ、過去にね、
「これは最高だったんじゃないか」
っていうステージを何回か経験してるんだけど、
それのめずらしいパターン。
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糸井 |
ほう。
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矢沢 |
ある年の横浜スタジアム。
あそこで、ワァーって、キメてね、
大きな場所で、いいステージができて、
もう、最高にうれしくて、
「大成功ー!」って言って、その夜はもう、
朝までベロベロに酔っぱらってたわけ。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
で、翌日が銚子かどっかだったの。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
それでね、まぁ、ほんとに、
銚子の人には悪いんだけど、
もう横浜のスタジアムが終わったあとで、
つぎは銚子ですって言われてもさ、
正直、ピンとこないんだよ。
「銚子にオレ、なにしに行くわけ?」
ってな感じなわけよ。
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糸井 |
(笑)
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矢沢 |
ところが、だよ。
そのときの銚子のステージは、
史上最っ大に、よかったね。
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糸井 |
へぇーー(笑)。
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矢沢 |
だから、人っていうのは、おもしろいもんでさ。
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糸井 |
おもしろいねぇ(笑)。
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矢沢 |
いや、あれはいまでも忘れないよ。
銚子の人には悪いけどね。
「そんなつもりで永ちゃん来たのか」
って言われちゃうかもしれないけど、
まぁ、ちょっと許してよ、と。
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糸井 |
「許してよ」(笑)。
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矢沢 |
その前にスタジアムの大仕事やったあとだからさ。
銚子? OK、もういい、わかったよ、
あいさつしに行くから、ヨロシク、
って感じで、朝まで酒飲んでたよ。
そして、二日酔いのまま、銚子行ったんだ。
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糸井 |
うん(笑)。
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矢沢 |
だから、ある種の大きな心配事が
なくなったあとでさ、リラックスしてるし、
「なんぼのもんよ」みたいな感じでやってるから、
もう、声も動きも、いままでにないような状態。
やりながら、「オレは神か」と思ったもん。
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一同 |
(笑)
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矢沢 |
いや、ほんと思ったよ。
もう、声も動きも、アドリブも、
バーンと、ぜんぶがハマるの。
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糸井 |
へぇー。
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矢沢 |
パーン、ボーン、バァーっと。
MCもさ「ヨロシクゥー」って
舌がいい感じで回るような感じ?
あのステージ見た人はラッキーだったと思うよ。
終わったあとに、今日のオレは
どうなっちゃったんだと思ったもん。
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糸井 |
おもしろいねー、それは。
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矢沢 |
だから、人ってさぁ、おもしろいよね。
デカい箱のステージで、出る前にガタガタ震えて、
「えい、ヤケクソだ」って言って出て行って、
だんだん油が回って最後はいいステージになる、
っていうときもあるし、
「なんぼのもんだ」と思って、
はじまった瞬間から
ものすごくいいステージになるときもあるし、
生もんだよ、やっぱり。
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糸井 |
いや、その銚子の話は、
いままで聞いたことなかったな(笑)。
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矢沢 |
あ、そうだっけ?
もう、とんでもないステージだったよ。
ぼく、いままで、
1800回ぐらいステージやってると思うけど、
銚子の、なにやってもハマるあの感じね。
何回か、あるんだ、そういうステージが。
ま、あのときは、ほんとに
なめて楽屋に入ったこと、
反省してますけど(笑)。
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一同 |
(笑)
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(つづきます) |