矢沢 |
死んじゃったら、っていう話で、
思い出したからついでに訊くけどさ。
死んだら‥‥霊魂っていうか、
魂みたいなもんは、残るのかね?
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糸井 |
いろいろ考えてるね、やっぱり(笑)。
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矢沢 |
オレはね、まぁ、ないと思うんだ。
だって、焼いちゃったら、灰だしね。
だから、死んだあとになにかが残るっていうのは、
生きてる人たちが考えた
理屈なんじゃないかって思うんだよね。
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糸井 |
それについては、オレも考えたことがある。
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矢沢 |
ほう。
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糸井 |
ここに、なにか、出っ張ったものがあるとしてさ、
そこに粘土をぎゅうぎゅう押しつけると、
「型」ができるでしょ?
その出っ張ったものの「型」がさ。
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矢沢 |
うん。
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糸井 |
「出っ張ったもの」が自分だとすると、
その、粘土のほうにできた「型」が、
他人だったり、社会だったりするんだ。
つまり、自分というのは、
どっち側にも存在するといえる。
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矢沢 |
ああ、うん。
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糸井 |
自分が生きてるあいだは、そのふたつが、
ピタっとはまって生きてるわけ。
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矢沢 |
はぁ、はぁ。
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糸井 |
つまり、世界は、永ちゃんと、
永ちゃんを除くもので、できている。
生きているあいだは、永ちゃんの型に
永ちゃんがピタッと入ってるわけ。
で、もしも、永ちゃんがいなくなっても、
その、型のほうに、隙間が残るんだよ。
その隙間があるかぎり、永ちゃんはいるんだよ。
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矢沢 |
だから、あるってこと?
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糸井 |
ないんだけど、あるんだよ。
他人のなかに。
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矢沢 |
つまり、生きてる人たちの気持ちに?
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糸井 |
そうそうそう。
型の側の人たちが「いる」と思ってれば。
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矢沢 |
それは、オレも思うんだよ。
だから、ほんとうはどうなんだ?
って言ったら、ほんとうはいないと思う。
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糸井 |
うん。でも、ほんとうに
肉体があるかないか、ということ以上に、
永ちゃんがいなくなっても、
みんながいると思ってるとしたら、
それは、オレ、いるんだと思うね。
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矢沢 |
なるほどね。
わかるわかる。そりゃわかるわ。
その話は、いいね。
そう、そうなんだよ。
「いる」と思ったら、「ある」んだよ。
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糸井 |
あるんだよ。
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矢沢 |
そうなんだよね。
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糸井 |
だから、型の側っていうのが、
「絶対にいることにしよう」って思ったら、
100年でも、あると思うよ。
たとえば、シェイクスピアだとか、
ジョン・レノンだとかって、いまもいるよね。
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矢沢 |
なるほどね。それはおもしろいね。
最初にオレが言った
霊魂の話とはちょっと違うけど、
でも、糸井が言ってることは、
なんとなくわかるよ。
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糸井 |
まぁ、ほんとの霊魂のことはね、
オレにはわからない。
だけど、「型」のほうはわかる。
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矢沢 |
なるほどね。
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糸井 |
で、このことがわかった
きっかけっていうのがあってね、
これはもう何度もしゃべってる話なんだけど、
ある日、夜遅く、仕事終わって寝るときにね。
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矢沢 |
うん。
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糸井 |
寝室のドアを開けて、ベッドを見た。
ふたつベッドが並んでて、
カミさんがこっちに寝てて、
オレのほうのベッドが空なんだよ。
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矢沢 |
うん。
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糸井 |
そのときに、
「ここ、オレいないじゃん」って思ったのよ。
当たり前なんだけどね。
だって、オレがここでベッドを見てるんだから、
そのベッドにオレがいるわけがない。
でも、「オレがいない」って感じて、
その瞬間、
「あ、オレがいなくなるって、
こういうことか」ってわかったんだ。
で、涙が出てきちゃった(笑)。
「ああ、さみしい」と思って。
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矢沢 |
‥‥‥‥おもしろいこと言うねぇ。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
いや、ほんとに悲しかったんだ(笑)。
永ちゃん、今度やってごらんよ。
ドアあけて、自分のベッドを見て
「オレがいない」って。
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矢沢 |
オレ、糸井重里ほど繊細じゃねぇからさぁ。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
いやいや(笑)。
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矢沢 |
オレだったら、空のベッドをぱっと見て、
「さて寝ようか」と思うよ。
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糸井 |
いや、いつもは、そうさ。
いつもは、そうなんだけど‥‥。
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矢沢 |
ある日、ふっと、
「オレがいない」って思ったわけ?
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糸井 |
そう。「オレがいない」と思ったんだよ。
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矢沢 |
「死んだあとはこういう感じか」と思ったんだ。
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糸井 |
それがはじめて見えたんだよ。
その一回っきりで、それ以来、
その感覚は味わったことないんだけど、
オレがいない世界が、そのときはじめて見えた。
「いるはずのところにいない」という
型が見えたんだよ。
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矢沢 |
‥‥‥‥ぼくね、糸井は、
なんか、才能あると思うよ(小声)。
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一同 |
(笑)
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(つづきます) |