ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第10回 それでいいんじゃないっすか?

矢沢 いや、しかし、いまの時代っていうのは、
いろいろ複雑だね。
世の中が、こう、妙に
透けて見えるようになってきたのが、
ややこしいのかもしれないけど。
糸井 ああ、そうだね。
矢沢 人間が多すぎるのか、
みんながみんな、言い分を持ちすぎてるのか。
人も多いし、あっちもこっちも
立てなきゃいけないわけだしね。
あっちも幸せにしなきゃいけない、
こっちも幸せにしなきゃいけない。
でも、限界はあるし、たいへんだよね。
最近、ほんとにそう思うね。
糸井 40過ぎてぐらいから、よく思うことなんだけど、
信号待ちのときにね、なんにもすることなくて、
ぼんやりと横断歩道で待つじゃない?
するとさぁ、みんな、そうして、
おんなじようにぼんやりと、こう、いるじゃない。
で、この人たちもそれぞれに、
ぜんぶ、なんかを考えてるんだと思ったら、
すごいもんだなぁって感じるんだよね。
矢沢 あ! それ、おんなじこと思うときある。
糸井 ある?
矢沢 たとえば、渋谷のスクランブル交差点なんかを
たまに車で通ったりするとさ、
ふっと見ると、赤信号で、
そこに立ってる人がぶわーって、いる。
糸井 その人たちが、ぜんぶ、なんか考えてる。
矢沢 そう。おんなじこと、思うよ。
みんな、なんか、それぞれ、
問題もありゃ、ハッピーもあって、
なんか考えてるんだろうな、と思って。
糸井 そう。
矢沢 で、人が多いな、って思う。
オレを含めて。
糸井 オレを含めて、だよね。
矢沢 多い。
で、青になって、
さて行こうか、って思うんだけど(笑)。
糸井 うん(笑)。
矢沢 たまに思わない?
人間社会、よくバランスとってるなって。
たとえば、高速道路、首都高で、
大渋滞で止まってるときに、
こう、カーブのところでとまると、
路面がこう、ななめになってるでしょ。
糸井 なってる。
矢沢 ふととまると、ななめになってる。
横を見ると、横の車もななめになってる。
前も、うしろも、ななめにとまってる。
で、「よくバランスとれてるな」と思うわけ。
糸井 はははは。
矢沢 これ、どこかでバランス崩れたら、
しっちゃかめっちゃかになるんだろうな
と思うときあるんだよね。
たいへんだなぁ、と思うよ。
糸井 そうやって考えてることの分量って、
ものすごく多いんだよね。
矢沢 うん?
糸井 人が言わずに考えてることの分量って、
ものすごく多いじゃない。
オレも永ちゃんも、
会えばこんなによくしゃべるけど、
しゃべってないことのほうが
圧倒的に多いんだよね。
矢沢 ふふふふ。
糸井 横断歩道で、高速道路で、
ひとりでいろいろ考えてたりね。
矢沢 まぁね。
なんだかんだ、考えたり、しゃべったり、
やってみたり、失敗してみたり、
そういうことが嫌いじゃないんだろうね。
だから、いろんなことやるのよ。
糸井 そうだね。
やらなくていいことなのかもしれないけど、
やらないのはイヤだもんね。
矢沢 そうっ、それでいいんじゃないっすか?
糸井 (笑)
矢沢 ほぼ日刊イトイ新聞代表の糸井重里さんだって、
矢沢だって、それじゃなくなったら、
らしくないもんね。
それでいいんじゃないっすか?
糸井 死んじゃったら、
ぜんぶやらなくてすむわけだしね(笑)。
矢沢 そうね(笑)。
糸井 あの、「安らかにお眠りください」って
亡くなったときに言うじゃない?
矢沢 うん。
糸井 たしかに、安らかだよね。
考えなくていいんだもん、ほんとに。
だけど、それはさみしいよ。
(つづきます)



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2009-08-18-TUE

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN