矢沢 |
いや、しかし、いまの時代っていうのは、
いろいろ複雑だね。
世の中が、こう、妙に
透けて見えるようになってきたのが、
ややこしいのかもしれないけど。
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糸井 |
ああ、そうだね。
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矢沢 |
人間が多すぎるのか、
みんながみんな、言い分を持ちすぎてるのか。
人も多いし、あっちもこっちも
立てなきゃいけないわけだしね。
あっちも幸せにしなきゃいけない、
こっちも幸せにしなきゃいけない。
でも、限界はあるし、たいへんだよね。
最近、ほんとにそう思うね。
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糸井 |
40過ぎてぐらいから、よく思うことなんだけど、
信号待ちのときにね、なんにもすることなくて、
ぼんやりと横断歩道で待つじゃない?
するとさぁ、みんな、そうして、
おんなじようにぼんやりと、こう、いるじゃない。
で、この人たちもそれぞれに、
ぜんぶ、なんかを考えてるんだと思ったら、
すごいもんだなぁって感じるんだよね。
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矢沢 |
あ! それ、おんなじこと思うときある。
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糸井 |
ある?
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矢沢 |
たとえば、渋谷のスクランブル交差点なんかを
たまに車で通ったりするとさ、
ふっと見ると、赤信号で、
そこに立ってる人がぶわーって、いる。
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糸井 |
その人たちが、ぜんぶ、なんか考えてる。
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矢沢 |
そう。おんなじこと、思うよ。
みんな、なんか、それぞれ、
問題もありゃ、ハッピーもあって、
なんか考えてるんだろうな、と思って。
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糸井 |
そう。
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矢沢 |
で、人が多いな、って思う。
オレを含めて。
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糸井 |
オレを含めて、だよね。
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矢沢 |
多い。
で、青になって、
さて行こうか、って思うんだけど(笑)。
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糸井 |
うん(笑)。
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矢沢 |
たまに思わない?
人間社会、よくバランスとってるなって。
たとえば、高速道路、首都高で、
大渋滞で止まってるときに、
こう、カーブのところでとまると、
路面がこう、ななめになってるでしょ。
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糸井 |
なってる。
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矢沢 |
ふととまると、ななめになってる。
横を見ると、横の車もななめになってる。
前も、うしろも、ななめにとまってる。
で、「よくバランスとれてるな」と思うわけ。
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糸井 |
はははは。
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矢沢 |
これ、どこかでバランス崩れたら、
しっちゃかめっちゃかになるんだろうな
と思うときあるんだよね。
たいへんだなぁ、と思うよ。
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糸井 |
そうやって考えてることの分量って、
ものすごく多いんだよね。
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矢沢 |
うん?
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糸井 |
人が言わずに考えてることの分量って、
ものすごく多いじゃない。
オレも永ちゃんも、
会えばこんなによくしゃべるけど、
しゃべってないことのほうが
圧倒的に多いんだよね。
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矢沢 |
ふふふふ。
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糸井 |
横断歩道で、高速道路で、
ひとりでいろいろ考えてたりね。
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矢沢 |
まぁね。
なんだかんだ、考えたり、しゃべったり、
やってみたり、失敗してみたり、
そういうことが嫌いじゃないんだろうね。
だから、いろんなことやるのよ。
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糸井 |
そうだね。
やらなくていいことなのかもしれないけど、
やらないのはイヤだもんね。
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矢沢 |
そうっ、それでいいんじゃないっすか?
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糸井 |
(笑)
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矢沢 |
ほぼ日刊イトイ新聞代表の糸井重里さんだって、
矢沢だって、それじゃなくなったら、
らしくないもんね。
それでいいんじゃないっすか?
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糸井 |
死んじゃったら、
ぜんぶやらなくてすむわけだしね(笑)。
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矢沢 |
そうね(笑)。
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糸井 |
あの、「安らかにお眠りください」って
亡くなったときに言うじゃない?
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矢沢 |
うん。
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糸井 |
たしかに、安らかだよね。
考えなくていいんだもん、ほんとに。
だけど、それはさみしいよ。
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(つづきます) |