ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第9回 社長になんなさい。

矢沢 最近、オレね、
ある俳優のドキュメント、観たんだよ。
けっこう売れてる、人気映画俳優のね。
糸井 うん。
矢沢 それで思ったんだ。
「あぁ、こき使われてるな」ってね。
糸井 ああー。
矢沢 番組自体は、そういうつくりじゃなくて、
がんばってるその人を伝えるものなんだけどね。
なんでオレが「こき使われてるな」って
思ったかっていったら、ふたつあるんだ。
ひとつは、単純に、使われてる立場に立ってる。
簡単にいえば、オーナーじゃない。
こき使われてる立場にいるから、こき使われてる。
糸井 うん。
矢沢 もうひとつは、映像をとおして、
「オレ、がんばってるし」みたいな感じが
なんていうかな、出すぎてるわけ。
いまはやらなきゃいけないからやってます、
がんばってます、ってのが映像に出すぎてる。
糸井 つまり、その状況を肯定しすぎてる。
矢沢 そう。悪いことじゃないかもしれない。
でも、オーナーじゃないその人が、
ものすごく、その立場でがんばってて、
それを見たオレが、
トータルになにを感じたかっていうと、
「体、大丈夫?」って思っちゃったわけ。
糸井 ああ、なるほどね。
矢沢 それ観たときに、オレ、
あらためて、はっきり思ったね。
「ああー、オレは幸せだなぁ」って。
だって、矢沢は、たとえば、
どれだけ、ウチのマネージャーが、
「こういう時期ですから」って言っても、
寝ずにやれって言ってくるわけじゃないし、
メシもちゃんと食わせてくれるし、
プールでちょっと泳がせてくれる時間も
キープしてくれる。
だって、そういう時間や余裕も含めて、
イコール、矢沢だからね。
糸井 うん、そうだね。
消耗して減っていったら、元も子もない。
矢沢 だから、ぼくは、ミュージシャンの方、
俳優さん、女優さんに言いたい。
「社長になんなさい」って言いたいね。
糸井 ああー。
矢沢 使われちゃダメだって言いたい。
糸井 そうか。うん。
矢沢 あなたも事務所つくって、
社長兼女優、社長兼俳優、社長兼音楽家、
やったら、理にかなうだろうとぼくは思う。
糸井 それはね、思うんだ。
そのドキュメントを観たわけじゃないけど、
その手の、とくに若い人が
努力している場面を伝えるものを観て、
ぼくもつねづね思ってた。
こき使われてるとまでは思わないけど、
「その状態をいいって
 思い過ぎちゃダメだよ」って思う。
矢沢 そうそうそう。
糸井 寝ないでがんばってるおまえは
すごくえらいんだけど、
「そこじゃないよほんとは」って思うんだよね。
矢沢 そうなんだ。
だから、できるかできないかは別にして、
理想としては、自分がオーナーになる。
求める形はそれなんだろうなと。
イトイ新聞もさ、いまから、何年前?
糸井 11年前。
矢沢 そう。オレがちょうど
アメリカに移住するってときだよね。
インターネットでやるんだって
話してくれたじゃない。
そのときは、そりゃたいへんだったと思うよ。
いまでこそ‥‥どれくらい来てんの、1日?
糸井 だいたい、100万から140万アクセス。
矢沢 140万アクセス、いまでこそ来てるけど、
11年前は、もう、必死だったと思うよ。
糸井 どうだろう(笑)。
でも、少なくとも、いま、
こき使われてるとは思ってないね。
矢沢 そうだろ?
糸井 うん。明日休むって言えるもんね。
矢沢 こき使われてるのは、つらいよ。
実際には、こき使われてるとは思ってないし、
気づいてない人も多いと思うけど、
それ的なつらさって、
じわじわ、にじみ出てくるからさ。
糸井 よくあるケースでいうと、
「望まれてることが、ぼくはうれしいです」
っていう形を取るんだよね。
みんな若いときはそういう時代があるんだけど、
最近は、ちょっと過剰だよね。
そういうがんばり方じゃないところに、
ほんとうのキミはいるんだよ。ほんとはね。
矢沢 まぁ、昔の日本の体育系なんかと似てるよね。
一滴の水も飲まさずに、
「いま水飲んじゃダメだ、走れ走れ!」
って言ってたけど、あるときから、
アメリカなんかのスポーツ界は、
水ガバガバ、水を補給しながら走るって聞いて
「え、水飲んでいいんだ?」って思ったじゃない。
あれと似てるよ。
糸井 (笑)
矢沢 だから、日本のこういう業界も、
水を飲みながら走ったほうが効率がいい
っていう時代に、徐々にいくんだろうね。
糸井 そうだと思う。
「これに耐えたらご褒美をあげる」っていうのは、
ほんとは、おかしいんだよ。
セットになるようなことじゃないんだ。
矢沢 うん。
(つづきます)



前へ

2009-08-17-MON

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN