ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第8回 ‥‥できるんだよ。

糸井 話を聞いてると、やっぱり今年は節目だね。
矢沢 そうね。まぁ、今年、60だしね。
糸井 うん。ひと回りだね、ほんと。
矢沢 おもしろいもんだねぇ。
糸井 自分でスタジオをつくったり、
自分たちだけで武道館をいっぱいにする、
みたいなところまでは想像できたんだけどね、
立つ場所までぜんぶ自分たちだけで
やることになるとは思ってもみなかったなぁ。
矢沢 これができるようになったのはね、
ひとつ、キーワードがあるんだ。
糸井 ほう。
矢沢 あのね、なにがなんでも
売上枚数を伸ばさなきゃいけないとか、
要するに、お金へのこだわりとか。
それを第一にするっていうことを、
まず、取っ払うんだな。
糸井 なるほど。
矢沢 これをまず取っ払ったら、人はなんでもできる。
って言うとね、まぁ、
「なんか矢沢、えらいキザで
 かっこいいこと言ってるな」
ってふうにとる人がいるかもしれないけど。
糸井 (笑)
矢沢 これは、マジでオレ、そう思ってるのよ。
まぁ、金っていうか、資本力って必要だからね、
まず金がなきゃ、っていうことはある。
だから、ぼくはさんざん、
『成りあがり』の本のなかでも言ったでしょ?
「金持ちになりたい」とか「上に行きたい」とか。
「そこへ行かなきゃ男じゃない」とか。
糸井 うん。
矢沢 でもね、最近思うんだよ。
そう言ってきたオレは、必ずしも、
そこへ向かってたわけじゃなかったんだよ。
糸井 ああ、そうだと思う。
矢沢 うん。最近、つくづく思うんだよ。
「まずは金だ」「金持ちになるんだ」って
言ってないやつのほうが、そこに向かうんだよ。
糸井 ああー、そうだね。
矢沢 絶対そう思う。
だから、「金が欲しい」と言ってた矢沢は、
あのとき、表現がしやすかったから、
そう言ってたんだと思うの。
わかるかな。
糸井 うん、わかる。
矢沢 ほんとに金を稼ぐことだけを狙って
金持ちになることを心から目指している人は、
それをわざわざ口に出したりしないと思うんだ。
糸井 いや、だから、その意味でいえば、
『成りあがり』で「金持ちになるんだ!」
って言ってた永ちゃんが、
とにかく金のことを第一に
考えてたわけじゃないっていうのは、
あの当時から、すでにバレてるよ。
矢沢 ああ、そうなのかな。
糸井 そう思う。
矢沢 だから、金ってのは、しばるんだよな、自分を。
だから、流通から自分たちで
はじめようっていうときに、オレは思ったんだ。
「枚数とか、売上とか、
 金っていうのを一回、取っ払ったら、
 なにかができるんだろうか?」って。
もちろん、オレも社員もその家族も
食ってかなきゃいけないから、
その覚悟は、当たり前の前提としてある。
子どもが夢の話をしてるわけじゃねぇんだから。
糸井 「親のロックンロール」だからね(笑)。
矢沢 そうそう(笑)。
オレたちには、責任もあるし、税金も払ってる。
糸井 うん。
矢沢 そういったことを覚悟したうえで、
「お金を取っ払ったとき、
 なにかできるようになるか?」
(手をパチンと叩く)
‥‥‥‥できるんだよ。
糸井 うん、できるね。
矢沢 できるのよ。
また、こういうことを言うと、
きれい事だと思われるかもしれない。
でも、できるのよ。
まぁ、それを信じるか? 信じないか?
この話を聴いて、「どっちとるの?」は、
キミたちに任せよう。
糸井 あははははは。
矢沢 「矢沢、おまえ、
 かっこつけて言ってる」と取るなり、
「なかなかおもしろいこと、
 矢沢、言ってるな」と取るなり、
もうほんと、それは任せますが、
オレはそう思ったの。
きっと、会社のことだけじゃなく、
すべてのことにおいて、そうだからね。
目の前にある七面倒くさいことにしばられて、
みんな、身動きできなくなってるんだよ。
「Ball And Chain」じゃないけどさ。
糸井 うん。
矢沢 だから、その鎖を切ったときに、
なんかあるのかもしんないね。
(つづきます)




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2009-08-14-FRI

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN