糸井 |
話を聞いてると、やっぱり今年は節目だね。
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矢沢 |
そうね。まぁ、今年、60だしね。
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糸井 |
うん。ひと回りだね、ほんと。
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矢沢 |
おもしろいもんだねぇ。
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糸井 |
自分でスタジオをつくったり、
自分たちだけで武道館をいっぱいにする、
みたいなところまでは想像できたんだけどね、
立つ場所までぜんぶ自分たちだけで
やることになるとは思ってもみなかったなぁ。
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矢沢 |
これができるようになったのはね、
ひとつ、キーワードがあるんだ。
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糸井 |
ほう。
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矢沢 |
あのね、なにがなんでも
売上枚数を伸ばさなきゃいけないとか、
要するに、お金へのこだわりとか。
それを第一にするっていうことを、
まず、取っ払うんだな。
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糸井 |
なるほど。
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矢沢 |
これをまず取っ払ったら、人はなんでもできる。
って言うとね、まぁ、
「なんか矢沢、えらいキザで
かっこいいこと言ってるな」
ってふうにとる人がいるかもしれないけど。
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糸井 |
(笑)
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矢沢 |
これは、マジでオレ、そう思ってるのよ。
まぁ、金っていうか、資本力って必要だからね、
まず金がなきゃ、っていうことはある。
だから、ぼくはさんざん、
『成りあがり』の本のなかでも言ったでしょ?
「金持ちになりたい」とか「上に行きたい」とか。
「そこへ行かなきゃ男じゃない」とか。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
でもね、最近思うんだよ。
そう言ってきたオレは、必ずしも、
そこへ向かってたわけじゃなかったんだよ。
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糸井 |
ああ、そうだと思う。
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矢沢 |
うん。最近、つくづく思うんだよ。
「まずは金だ」「金持ちになるんだ」って
言ってないやつのほうが、そこに向かうんだよ。
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糸井 |
ああー、そうだね。
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矢沢 |
絶対そう思う。
だから、「金が欲しい」と言ってた矢沢は、
あのとき、表現がしやすかったから、
そう言ってたんだと思うの。
わかるかな。
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糸井 |
うん、わかる。
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矢沢 |
ほんとに金を稼ぐことだけを狙って
金持ちになることを心から目指している人は、
それをわざわざ口に出したりしないと思うんだ。
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糸井 |
いや、だから、その意味でいえば、
『成りあがり』で「金持ちになるんだ!」
って言ってた永ちゃんが、
とにかく金のことを第一に
考えてたわけじゃないっていうのは、
あの当時から、すでにバレてるよ。
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矢沢 |
ああ、そうなのかな。
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糸井 |
そう思う。
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矢沢 |
だから、金ってのは、しばるんだよな、自分を。
だから、流通から自分たちで
はじめようっていうときに、オレは思ったんだ。
「枚数とか、売上とか、
金っていうのを一回、取っ払ったら、
なにかができるんだろうか?」って。
もちろん、オレも社員もその家族も
食ってかなきゃいけないから、
その覚悟は、当たり前の前提としてある。
子どもが夢の話をしてるわけじゃねぇんだから。
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糸井 |
「親のロックンロール」だからね(笑)。
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矢沢 |
そうそう(笑)。
オレたちには、責任もあるし、税金も払ってる。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
そういったことを覚悟したうえで、
「お金を取っ払ったとき、
なにかできるようになるか?」
(手をパチンと叩く)
‥‥‥‥できるんだよ。
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糸井 |
うん、できるね。
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矢沢 |
できるのよ。
また、こういうことを言うと、
きれい事だと思われるかもしれない。
でも、できるのよ。
まぁ、それを信じるか? 信じないか?
この話を聴いて、「どっちとるの?」は、
キミたちに任せよう。
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糸井 |
あははははは。
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矢沢 |
「矢沢、おまえ、
かっこつけて言ってる」と取るなり、
「なかなかおもしろいこと、
矢沢、言ってるな」と取るなり、
もうほんと、それは任せますが、
オレはそう思ったの。
きっと、会社のことだけじゃなく、
すべてのことにおいて、そうだからね。
目の前にある七面倒くさいことにしばられて、
みんな、身動きできなくなってるんだよ。
「Ball And Chain」じゃないけどさ。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
だから、その鎖を切ったときに、
なんかあるのかもしんないね。
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(つづきます) |