ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第7回 また、押し出されて、こうしてる。

矢沢 なんかさ、今日ってさ、オレたち、
酒飲みながら、話してる感じしない?
糸井 けっきょく、そうなっちゃうよね。
オレは飲めないけどさ。
矢沢 でも、まぁ、今日は久しぶりで、
いい感じですよ。
糸井 ああ、そうそう、
いまの永ちゃんの動きっていうのは、
レコード会社をつくったっていう形になるの?
レーベルをつくったっていうんですか。
どういう言い方をすればいいのかな。
矢沢 なんだろうね、
レコード会社をつくったって言ったら
まぁ、かっこいいんだけど、
カンタンに言えば、大きなインディーズとして
活動するっていうことかな。
オレ、いままでメーカーにいた人だからね。
糸井 そうだよね。
矢沢 大手の、EMIっていう会社にいたんだけど、
ま、こういう時代だし。
つまり、ダウンロードは自由だ、
インターネットはこんなに発達した。
もう、流通を持ってる大きなメーカーじゃなきゃ
全国に配布できないという
時代じゃなくなったよね。
糸井 そうだね。
矢沢 っていう時代がきたときに、
「さてどうするか」と。
糸井 うん。
矢沢 まぁ、でも、
ダウンロードの時代になったとはいえ、
メーカーとしての歴史や組織力っていうのは、
やっぱり歴然としてあるわけでね。
だから、時代がどうであれ、
メーカーとともにこれからも動くことが、
メジャーであると思ってるアーティストもいるし、
それはそれで、まったく間違ってない。
糸井 うん、うん。
矢沢 インディーズにはインディーズの、
大手には大手のいいところがある。
だから、矢沢としては、
ふたつのいいところが合体したような、
なんかおもしろいインディーズ、
やっちゃおうかな、みたいな。
まぁ、わかりやすく言うと、
「日本一のインディーズつくっちゃおうか」
みたいな感じ。
糸井 ああー、なるほどね。
矢沢 「不安はないんですか?」とか、
「リスクとか考えません?」とか、
いろんな人から訊かれるよ、そりゃね。
いや、もちろん、あるんだろうけど、
まぁ、35年も36年もやってる矢沢だからね。
まぁ、ひょっとしたら流通が変わることで
枚数が下がるのかもしれないけど、
それよりも、なんか、自分らでやることで
自分たちがひとつになることのほうが
ドキドキするんじゃないの? っていうね。
いまはそれがやれる世の中になってきたよね。
ならば「オレ、やっちゃおうかな」と。
形としてはインディーズなのかもしれないけど、
ドームも武道館5デイズもやっちゃうしね。
糸井 つまり、自分たちでやることが
どんどんどんどん増えてきて、
レコード会社もいらなくなった
っていうことですかね。
矢沢 うん。だけど、それ、
誤解があっちゃいけないから繰り返すけどね、
レコード会社はレコード会社で、
歴史や実績が歴然とあると思うよ。
そこに所属してやるほうが堅実だとも思うし。
糸井 永ちゃん自身は、
両方の所属を持つことになるの?
矢沢 いや、もう、EMIの所属はないよ。
20年お世話になったけど、もう、ぜんぶやめたの。
「あ、もうオレは、所属というものはやめよう」
と決めたの。
糸井 思えば、こうして赤坂に
自分のスタジオも持ってるわけだしね。
矢沢 だから、気づいたら、
自分たちでできるようになってたんだよ。
これ、逆にね、レコード会社つくるために
スタジオつくって、レーベル立ち上げて、
っていうことじゃないんだよ。
自分たちだけでぜんぶやるために
ぜんぶ計画してたのかっていうと、
そんな計画、あるわけないよ。
糸井 いつの間にか、準備ができてたんだね。
矢沢 一個一個、できてたんだよ。
糸井 そのために計画をたててたとしたら、
逆にできなかったかもしれないね。
矢沢 うん、そう思う。
それは、さっきの矢面の話と似ててさ。
糸井 願ってそうしたわけじゃなく、
押し出されてやったことのひとつ。
矢沢 そうなのよ。
また、押し出されて、こうしてる。
時代に押し出されたのかもしれないし、
自分に押し出されたのかもしれない。
いずれにせよ、押されてここにいるとしたら、
それをどうこう考えるよりは、
おもしろくしちゃおうかなってことのほうが先。
どうにかなるんだろう、みたいな感じ。
糸井 ああー。
矢沢 糸井が知ってるように、昔から、矢沢って、
「やったろう。どうにかなるんだろう」
ってとこ、あるじゃない?
糸井 うん(笑)。
矢沢 いままで歩いてきた道が安心だったかっていうと、
ぜんぜんそうじゃないじゃん、オレ。
「やっちゃおう」ってところあるじゃない。
糸井 そうだね。
(つづきます)




前へ

2009-08-13-THU

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN