「やさしくないタオル」のつくりかた。

その2 イヤなにおいを、こびりつかせろ!

シェフが経験したことがある、
水やお湯では匂わないのに、
汗を吸うとくさくなるタオル。
そんなことってあるのか、
綿のスペシャリスト大窪裕美さんに訊いてみます。

「それはもしかしたら、
 その温泉宿の洗濯のしかたに
 問題があるのかもしれませんね」

えーっと、つまり洗濯の方法によるってことですか。

「はい。薄手のものも厚手のものも
 いっぺんに洗濯して、
 ちゃんとすすいでいないまま、
 ちゃんと脱水をしていないまま、
 ちゃんと乾燥させていないままで、
 仕上げちゃう結果になることがある。
 すると、タオルの繊維のなかに、
 洗剤、汚れ、水分が残されたままの状態になります。
 においの原因となる細菌が繁殖するのに
 好都合の状態になるわけです。
 汗の成分がそこに反応したら、
 強いにおいを出す可能性は、ありますよ」

うわぁ。
じゃ、「やさしいタオル」も、おなじように、
洗剤、汚れ、水分を残したままでいたら、
くさくなっちゃうことも、あるわけですね。

「その通りです。可能性はあります」

てことは、ちゃんと洗濯して
ちゃんと乾かせばいいわけだ。

「そうです。洗いもすすぎも脱水も
 しっかりして、
 天日干しして、紫外線に当てたら、
 においはとれるはずなんです」

<イラスト 天日干しをして、日にあてている>

この話に食いついたのが、ベルでした。
実は彼、もっている両面パイルのタオルが
たまににおうことがあり、
その原因はもしかして、大窪さんの言う
「てきとうな洗濯と、生乾きによる細菌」
ではないか、と思い当たったのです。
夜、洗濯して、気密性の高いマンションで部屋干し、
ということが多いベルの洗濯物。
めったに太陽にあてることはありません。
においがしちゃう条件には、ぴったりでした。
なかでも、そのタオルは、
「なんか、匂うことがあるな」と
うすうす、気づいていたのでした。
そうか、汗をふいたときだけ、
におっていたのかもしれないぞ‥‥。

ベルは、そのタオルを携えて、
近所のサウナへと足を運びます。
シャワーでさっと体を流し、
サウナへと出陣です。
中に入ると、さすがに凄い熱さです。
温度は90度に設定されています。
こりゃ熱い。気持ちいいけど、かなり熱い。
1分も経たないうちに、
ぷつぷつと汗が吹き出てきます。
3分たった頃には、かなりの量の汗が。
5分ほどしたところで、あまりの熱さに
我慢ができなくなりました。
さあ、いよいよ、
「イヤなにおいがこびりついているはずのやつ」
の出番です。
緊張の一瞬です。これで汗をふいてみるのです。
そこに顔をうずめるのです。
書いててだんだん不愉快になってきましたが
読んでいるあなたもそうかもしれません。
もうしわけないです、リアリズム追究のため
どうかちょっとだけがまんしてください。

ベルは思いました。
「卒倒するくらいくさかったら、どうしよう」
「いや逆に、拭いてみてぜんぜん臭くなかったら
 このコンテンツ成立しないかも」とか、
複雑な想いが交錯します。

ぐいっと肩から首のまわりをふきます。
ぐっしょり濡れた頭髪の汗をぬぐいます。
いちおう上半身だけにしておきました。
そして、汗を吸ったタオルに、
えいやっと顔をうずめてみました。
まわりからは「顔をふいてる」と思われるように、
さりげなく、じつにさりげなく
その行為に及んだつもりでしたが、
「うげっ」という声が出てしまい、
「あいつはなにをやってるんだ」と
思われてしまったかもしれませんが、
まぁそれはどうでもいいです。

「くさっ!」

タオルはみごとに悪臭をはなっていました。
汗を吸い込めば吸い込むほど、
そのにおいはきついものになって、
顔をうずめていられなくなるくらいになりました。
自分のとはいえ、これはいやです。
これでは悪臭です。
ベルはあらためてシャワーをあびて、
別のタオルでからだをふくと、
そそくさとサウナをあとにしました。
持ち帰る道すがら、あのタオルを、
数度、嗅いでみましたが、やっぱりくさい。
あらためて、くさい。
「汗を吸うとくさくなるタオル」は
あんがい身近にあったのでした。

さて、実験はここからです。
このタオルのにおいを消すというミッションです。
ちゃんと洗って、しっかり天日干しすることで、
汗を吸ってもにおわないタオルを取り戻すのです。
‥‥そんなことってできるのでしょうか?

2009-12-23-WED
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(c)HOBO NIKKAN ITOI SHIBUN / Illustration:たかしまてつを