横尾 |
アトリエがなかったから、
テレビ局のロビーとか、
それから後楽園ホールだとか、
美術館のロビーなんかで描いてた。
タダでは貸してくれないでしょ。
「公開制作にしてくれませんか?」
という条件づきで、スペースを貸してくれる。
一度、スポーツアナウンサーと
美術評論家を呼んできて
実況放送をさせた企画を
立てたことがあったんです。
ぼくが描いてる様子を、まるで
スポーツを見てるように実況する。
しゃべりっぱなしなんです。
それはおもしろいと思ったんだけど、
すごくうるさくなってしまってね……
それが気になって、絵が描けなくなっちゃった。 |
タモリ |
実況は、間がないですからね。 |
横尾 |
キャンバスの裏とか、
筆洗とかにも、ぜんぶマイクを仕掛けた。 |
糸井 |
ノイズを拾うようにしたんですね? |
横尾 |
うん。
筆をキャンバスに叩くように置くと、
ドーンという音がするんです。
線を横に引くと「ザザザザッ」とか──
ときどきは自分でも、
調子つけてトントントントンとか、
やりたくなっちゃうのよね。
だから、そのときは
ちゃんとした絵は描けなかった。
まぁ、スポーツアナウンサーが
絵のことをわからないので、
途中でやめちゃうんですが。
「次は何色が入るんでしょう?
赤でしょうか? 青でしょうか?」
「黄色が入った!」
とか言うもんだから、
もうやかましいんですよ。
その発言を、
ぼくのほうがぜんぶ拾いながらね、
その言葉に従ったことをやってみたり、
それに対して、反対のことを
やってみたりするようになるんです。
これ、無意識で
そうなっちゃうんですよ。
そうすると、
絵を描いてる行為から離れていく。 |
糸井 |
横尾さん本人の
モチべーションがなくなっちゃうんですね? |
横尾 |
うん。
まぁ、
それはそれで、できあがると、
身体的なものと、
意識の中間で描いた変なものが、
できあがるとは思うんですけれど。 |
糸井 |
お客さんは、
神聖な場面を見てるみたいな感じに
なるんですよね。 |
横尾 |
神聖な場面なのか、
あるいは事故の現場に立ちあっているというか。 |
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(つづきます) |