Y字路談義。
横尾忠則・タモリ・糸井重里が語る芸術?

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困った展開になってきた

 横尾忠則さんの「Y字路」の絵はこちらからご覧ください。
  (更新毎に、追加していきます)

タモリ 横尾さんの
「思いがないのに泣く」
っていうのは、不思議だよね。
糸井 横尾さん、
ちょっと意地張ってませんか(笑)。
ほんとにそのときの思いは、
ないんですか……?
横尾 意地張ったように見られますよね。
だけど違う。
舞台の台本を読んで泣いてるのと、
同じなのかな?
タモリ いや、それよりすごいですよ。
だって、不意でしょう?
台本には筋道があったり、
感情がしるされたりするもんだから。
横尾 それよりすごいですか?
タモリ 賞状には、別にそんな、
感情のことは書いてないですから。
横尾 たしかに、ぼくはたぶん、
そんな状況を書いた台本読んでも
泣かないと思う。
タモリ うん。
横尾 でも、ドキュメントってすごいですよ。
糸井 ……で、審査委員長が泣く。
横尾 審査委員長じゃなかったけど、
そばにいた大島渚さんや矢作俊彦さんや
大森一樹さんらは、ぼくのことを
「変な奴!」と思ったと思いますよ。
タモリ 「渡しながら泣く」
っていうのは、すごいなぁ。
糸井 才能って、そういうことですかね。
横尾 こんな才能なんて役に立たんですよ。

主催側が、もう、思い余って
駆けよってきてくださって
「……あ、横尾さん、もう結構ですから」
とか言って。
タモリ (笑)それほど泣いたんですか?
横尾 それほど泣いた。
しばらく止まらない。流れっぱなし。
タモリ でも、
思いはないんですね?(笑)
糸井 「思いはない」って
言い張ってますけど、ほんとにないですか?
横尾 ないねぇ……。
だってぼくが賞をもらったわけでもないし。
その人はアカの他人なのに。
どうして「思い」なんか持てますかね。
糸井 (笑)
横尾 美輪明宏さんがね、三島由紀夫原作の
『卒塔婆小町』だったかの芝居をやってたとき、
美輪さんに見えないのよ。

別の本物のばあさんかなんかに見えて
「うまいなぁ」と思っているあいだにも、
涙が流れはじめた。

ほとんど終わりのシーンだったから、
涙を流しながら楽屋に行ったの。
そしたら三輪さんが、
「横尾ちゃん、どうしたの? 泣いて」
「なんか、見てたら涙が流れて」
「あ、それはね、三島さんが、
 あなたの中に入って、
 それでよろこんでたのよ」
三島さんのよろこびが、
あなたの体で代行したのよ、って。
糸井 困った展開になってきたなぁ。
タモリ そう言われると、
単にキツネ憑きなだけで(笑)。
横尾 本人は感情移入してないんですよね、全然。
瀬戸内寂聴さんにいわせれば
岡本かの子がそうだったって。
「代慈苦」っていうらしいんです。
  (つづきます)

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2004-07-30-FRI


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