横尾 |
ぼくの生理と感情とは
まったく分離されています。
宝塚に行って二回目ぐらいのとき、
ある人がそれで宝塚をやめる、
という楽日だったんです。
ぼくはまだ宝塚のことを
ぜんぜん知らなかったし、
トップがやめるかどうかなんて、
もともと
「やめようと思うならやめればいいじゃない」
ぐらいに思っていたんだけど。
ただ、やめるというその人が、
袴を着て花を持って、挨拶をすると、
劇場中が、もう嗚咽なんです。 |
タモリ |
ええ。 |
横尾 |
そうするともう、
ぼくは別にかなしくも何ともないのに、
涙がボロボロ流れてきて。 |
タモリ |
(笑) |
糸井 |
(笑)伝染したんだ。
赤ん坊って、よく
もらい泣きをしているじゃないですか。
あれとおんなじですね。
あるいは、隣の犬が吠えているから
こっちも吠える、みたいな……犬は、
あれでも別に怒っていないですからね。 |
横尾 |
別に、泣いたとしても、
それで情を感じてるわけでもないの。
前にも、なんだったかな、
「ぴあ」で素人の人が映画を作って、
それの審査やったとき、
受賞式で表彰状を渡さないと
いけなかったんですよ。
ぼくが読まなきゃいけない。
で、読んでるあいだじゅう、
涙がポロポロ流れてさ、
最後まで読めないわけ……。 |
タモリ |
(笑)あはははは! |
糸井 |
(笑)横尾さん、すごい。 |
横尾 |
だけど、ぼく自身は、
うれしくもかなしくもないわけで。
だけど涙が止まらなくて、最後まで読めなかった。 |
タモリ |
(笑)それ、すごい!
横尾さん、すごい……。 |
糸井 |
(笑)ぼくは今まで、
賞状を読む側の人が泣いてるのは、
見たことがない! |
タモリ |
見たことねぇ! |
糸井 |
受け取るほうが泣くことはあるけどね。 |
タモリ |
横尾さんのような、クールに
「感情はどうだっていい」
って人が泣くのがすごい。 |
横尾 |
そう矛盾しているでしょう?
大賞を受賞したのは夫婦だったんです。
彼らの感情がうつったんです。 |
タモリ |
先に向こうが泣いたんですか? |
横尾 |
いや、向こうはニコニコしてる。 |
タモリ |
(笑)うつってない。 |
横尾 |
夫婦で合作で作ったものが受賞して、
もう大よろこびなんですよ。
その大よろこびの姿を見たとたんに、
涙が流れてきてさ……
もう声が詰まってしまって、最後まで読めない。 |
糸井 |
つまり、それは、
「よかったね」っていう思いぐらいは、
あったんじゃないですか? |
横尾 |
いや、大した思いはないんですよ!
そりゃ誰もが「よかったね」と思う程度ですね。 |
糸井 |
(笑) |
|
(つづきます) |