お店の名前は「10センチ」というのに決めました。
きっとどうして10センチ?
と聞かれるだろうと思いますが、
あまり意味はないのです。
10センチというのは、
むしろできるだけ意味のない言葉として選んだので、
どうして、と聞かれても、うまくこたえられません。
あれは確か5年ほど前になるでしょうか。
どこだか忘れてしまったのですが、
あるアンティークショップで
10センチと切り抜いた
ステンシル用の薄い金属板を見つけました。
もちろんお店を持つとか
考えていたわけではないのですが、
「もしもお店を持つならこんな名前がいいかな」と、
その時なぜだか思ってこのステンシル板を買ったのです。
偶然見つけた10センチと書かれた文字板。
それがこの名の由来です。
でも、このステンシルは
もともと何に使ったものだろう、と思います。
ステンシル文字は港の積み荷や木製パレットの表示に
よく使われていますから、
木材か金属材料のサイズ表示のため
10cm、20cmと、
文字を書き込むために使用したのでしょうか。
そういえばリンゴの木箱にも「国光」とか、
ステンシル文字が入っていますね。
それを見るとステンシルは
粗い木肌によく似合っている、と思います。
それにしてもお店のことなど全然頭の中にないのに、
お店の名前なんかを考えたりするのは変と言えば変です。
まるで、ままごと遊びのようです。
女子のままごとはお父さんやお母さんになりきって、
家庭を舞台にごっこ遊びになることが多いですが、
男子の場合は怪獣のフィギュアーを両手に握って
ぶつけながら戦わせたり、
あるいは遊園地で飛行機の乗り物に乗ったら、
本物のパイロットにすっかりなりきって、
エンジン音を独り発しながら空中戦に夢中になる、
といったものです。
それに似た、お店屋さんごっこの延長のようなものが、
僕にはまだあるのかも知れません。
でもいい年をしてごっこ遊びが
いまだ抜けていないと思うと、
「人って成長しないんだな」と、
ちょっとがっかりしてしまいますが。
僕の工房はりんご園の中にありますが、
テラスに椅子など出して座ると、
ちょっと気持ちのいい
屋外カフェのような雰囲気になります。
それでそのテラスを「SUIJINYAMA CAFE」と
名前を付けたことがありました。
身内のような人と、
そこに椅子とテーブルを用意して席を作り、
「いらっしゃいませ」と、
何度かカフェごっこをして遊んだりしました。
カフェの名前は、工房のある場所の地籍名が
「水神山」というので、それからの命名でした。
でも名前って面白いですね。
お店屋さんごっこも同じですが、
名前ひとつでそのテラスの場所が
お店みたいに見えてくるから不思議です。
そのカフェの名を入れたラベルも作りました。
自家製ワイン(実はブドウジュース)とかいって
「SUIJINYAMA CAFE」と名前を入れたのです。
そんな遊びの延長が、
10センチの文字板を求めたのだと思います。
お店屋さんごっこではもうひとつ、
松本で毎年5月に開催する野外クラフトフェアでも
そんな遊びをしました。
このフェアでは開催初日の夕方、
出展者とお客さんの交流の場として、
芝生の上でバンド演奏を聴きながら
お酒を飲んだりする場があります。
その場を「BAR五月亭」と名付けたのです。
このバーは野外であることと、
生バンドが楽しめることが売りです。
映画『ゴッドファーザー』の中で、
野外パーティーのシーンがありましたが、
ブラスバンドの音楽が心地よく響き、
布を掛けたテーブルがいくつも並ぶ庭で食事をする。
「BAR五月亭」もそんな雰囲気になれば、
と思っていました。 |