僕は、自分の住む町が楽しくなるといい、
と思っています。
おいしいレストランも欲しいし、
楽しい雑貨屋さんもあるといい。
それから気持ちのいいカフェで本を読むこともしたい、
と思うからです。
僕が育ったのは北陸の福井市ですが、
田舎の高校生にとって町の魅力的なお店の存在は、
とても重要だと思うのです。
青少年が最初に開ける大人の社会のドア、
それは地元で若い人が出入りする名物喫茶店のドアです。
僕がその頃よく通ったのは、
福井大学の前にあった
「ビーハイブ」というお店だったり、
松木屋レコードの地下にあったジャズ喫茶でした。
友達と店に入り、話しをしながら、
そこに集まる人たちの身なりや雰囲気、
聞こえてくる会話の断片に対して興味津々でした。
出入りする大人たちの様子、その服装、表情、仕草。
大人の香りというのか、
高校生には胸高鳴るものがありました。
そうしたものを見ながら、
漠然とこれから僕はどのように生きるのだろう、
と思っていました。
ところで、先日栃木県黒磯のSHOZOカフェに行きました。
オーナーの省三さんは地元生まれで、彼も話しの中で、
「田舎の高校生が最初に社会に触れるのは
カフェとボーリング場」と、言っていました。
省三さんは若い頃はバイク青年で、
日本各地を旅したそうです。
そして27歳になった頃、旅人であることをやめて、
自分の生まれた場所で仕事をしようと思ったそうです。
でも、自分がバイクで回った街のことを考えると、
故郷黒磯町は旅行者が行きたいと感じる町ではないな、
と思ったそうなのです。
それなら、省三さんは思ったそうです。
ここを旅行者が行ってみたいと思える
街にできないだろうか。
カフェをそんな思いを胸に秘めて始められました。
カフェは評判を呼び、
黒磯に旅行者が多く訪れるようになりました。
省三さんはその後もカフェばかりでなく、
本屋(スタッフの奥さんの店です)、
洋服屋、アンティークショップ、雑貨店をつくり、
そして最近はコンサートホールや、
ギャラリーまでも作ってしまったのです。
たった一人で街を作っていく。
すごい人がいるものだな、
と僕はすっかり感心してしまいました。
省三さんは近くに空き屋があったら、
後先考えずまず借りてしまうのだそうです。
何に使うかはその後。
改装も自分の手でやります。
まず借りてしまう。
省三さんの始め方と、今回の僕の「10センチ」は、
少し似ているところがありました。
省三さんと話しをしていたら、肩の力が抜けて
「使い方はそれから」で全然大丈夫、
と思えるようになりました。 |