アルネの取材のため大橋歩さんが松本にいらした時、
いろいろなお店を訪ね、お蕎麦を食べ、
その後工房のテラスに座ってお話ししました。
大橋さんは、
「松本はとてもいい街で、
また来たいと思っているけれど、
他所から来た人が回るお店があと2〜3件あると、
もっと楽しいかもね」
とおっしゃっていました。
そのことがとても印象に残っていて、
街の魅力を考える上でとても正確な指摘だろうな、
と思いました。
僕たちが旅する時は、
もちろん名所旧跡を訪ねることもありますが、
なによりその町の魅力的なお店を訪ねるのが楽しみです。
多少辺鄙なところにあったとしても、
自分が良さそうと思った店だったら、
それを乗り越えて出かけるでしょう。
団体ではなく、個人旅行を楽しむ方の多くの人が、
今はそうした旅の仕方をしているように思います。
だから一軒の素敵なお店の存在は、
町の魅力にとって、
益々大きな存在になっているように思うのです。
その話があった翌年、
松本にも新しいお店が増えてきました。
カフェやレストラン、ギャラリーなど。
僕が「10センチ」を開こうと思ったのは、
そうした新しい動きに加わり、
旅行者が後1〜2軒あれば、
という気持ちに応えたいと思ったからです。
もちろん毎日開けるわけでもないし、
面白い店と感じてもらえるかも心配ですが、
少なくとも古いタバコ屋の建物は素敵ですから、
それを楽しんでもらえれば、と思うのです。
僕はクラフトフェアや工芸の五月の企画運営に
ずっと参加してきましたが、
実を言えばそうしたイベントの日だけ
「工芸の町」というのでないほうが
いいと思っていました。
それより普段いつ来ても面白く、
楽しい町であったらいいと思います。
イベントは起爆剤。
その後イベントに頼らなくても
「工芸」は町にすっかり根付き、
「もの好き」の旅人がいつ訪れても
楽しめる町であったら、と思うのです。 |