10センチは、奥の大家さんのお宅と繋がっている、
ということは前にお話したと思います。
店の部分の大工工事がほぼ出来上がり、
いよいよその奥の部分に手を入れることになりました。
奥は大家さんの居住スペースでしたが、
そこには今では見られないような
贅沢な普請の片鱗が残されていて、
またそれがちょっと違った空気感を
作り出しているのです。
正面の窓は上げ下げ窓になっていて、
窓を上げるとするするっと、
壁に収まるようになっています。
また、劇中劇ならぬ、窓中窓のかたちになっていて、
右下の引き戸を開けると、そこは網戸になっています。
規格品のアルミサッシを見慣れていると、
こうした細かいところまで気配りされた建具に、
気持ちよさを感じます。
この空間は元々は廊下の突き当たりのようなところで、
ただ廊下に光を入れるために作られたような、
決まった用途のない空間でした。
でもすりガラスの窓からは逆光の光が入り、
陰影のあるこの仄暗い板の間を最初に見た時、
花を活けると映えるだろうな、と思いました。
小さな壺とか、そんなものをちょっと飾るのに
適した空間だと思ったのです。
でも、あれこれ10センチの図面を描いていると、
結局そうはいきませんでした。
手洗いの続きで、洗面所が必要だったからです。
やはりというか、用途のない空間として
残すことができなかった。
余裕がない、ということですね。
それにしてもこの時代は
建築家やデザイナーがいたわけではありません。
大工の棟梁が、技術と同時に意匠についての
センスも持ち合わせていて、
その家に合わせていろいろかたちを
考えたのだろうと思います。
棟梁は昔の家のさまざまな意匠を頭の中に入れていて、
その引き出しの中から、場所に合った形を取りだし、
工夫して意匠を決定していった。
だからこの時代の棟梁は、技術ばかりではなく、
デザインも理解している必要が
あったのだろうと思います。
そして「垢抜けたセンス」を持った棟梁は
世間でも評判を得て、
中には遠くからでもお呼びがかかるような人も
いたのだろうと思います。
ところで、左の壁は新しく作ったもの、
右は既存のままです。
左の壁を大壁といい、
右の、柱の見える壁のことを真壁と言うそうです。
左は暖房パネルが付くので壁を作ったのですが、
右の真壁部分はこのままで、
壁だけ白く塗り直す予定です。
柱や窓枠はそのまま洗いをかけるぐらいにして、
真新しいところと、古いところが、
うまく響き合うようになればと思っています。 |