三谷龍二さんのあたらしい場所。[10cm日記]
 


11月1日 
モザイク
タバコ屋の店先にある小さなカウンターは、
ピースの箱の絵がモザイクになっています。
往年はきっとかわいい看板娘か、
あるいはおばあちゃんのどちらかが
座っていたのだろう、と思います。
 
モザイクは紀元前数千年前からある技法で、
石や大理石、ガラス、やタイルを使って作られました。
モザイクは絵筆のように自由に描けないところが、
かえって魅力になっているんですね。
筆が走りすぎるのを抑制するところから生まれる内面性、
とでもいうのでしょうか。
モザイクはそこに合う小さな破片を
ひとつひとつ探しながら、
それを置いていく絵画ですから
作者も心のリズムがゆっくりしていて、
それが一見単純な画面に見えて、
実は抑制が利いた、
奥行のある絵になる理由なのだと思います。
印象に残っているのは
チュニジアの古代ローマ遺跡で見た床のモザイクや、
トルコ・イスタンブールで見た
アヤソフィアの華麗なビザンチンのモザイク、
ポンペイ遺跡のもの、
ちょっと数え上げたらきりがないくらいです。
それは絵画の中のもうひとつの分野、
と思えるほど多くの魅力的な作品が残されています。
 
10センチのモザイクは、
もちろん緻密なそれらに比べられるものではないですが、
モザイク好きの僕にとっては、
このピースのモザイクが残されていただけで、
とても嬉しい気持ちになります。
タイル屋さんのお店ですから、
職人も仕事から離れてタイルを三角に切ったり、
影のところを少し深い色に変えたりして、
愉しんだのでしょう。
おおらかで、とぼけ味のあるモザイクです。

2010-11-11-THU
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