「放射能の専門家ではない早野さんが
実際に福島で活動した内容が描かれた、
とても正直な本だと思います。
何が日本でおこっているのかが分かり、
東北の食材もより確信をもって
人に勧められるようになりました」
今回のカンフェランスのプレスリリースを担当した
シモネッタ・ラディチェさん、
フェイスブックで東北食材を紹介する
「Taste of Tohoku」のマネージャーでもあります。
彼女は、『知ろうとすること。』の英語版、
「We want to know: A conversation about radiation
and its effects in the aftermath of
Japan’s worst nuclear accident」
を読んでから福島への見方が変わりました。
「まずは土壌と検査にパスする生産品、
この2つを分けて考えないといけないわね」
「刃物をつけた振り子の脇にあなたは立てるか?
という話は面白いわ。
科学的に理解することが、
必ずしも恐怖心の払拭を意味するわけではない。
ユニバーサルに通じる問題提起だと思うわ」
それでも住む国によって
人々の原発への怖がり方は違います。
「イタリアがチェルノブイリ以降に
原発廃止を決めたのは、
自分たちの管理能力に自信がないから」と話します。
「管理能力に自信がない」。
イタリアでよく聞くセリフです。
自分たちをいい加減でずぼらであると見なしているのです。
イタリア工業製品の品質は信用ならない、
と宣伝しているようなものなのです。
自嘲気味に語る。
そして自分たちは原発をうまく避けている。
原発で作られるフランスの電力を買いながら、なんですね。
老獪。こんな言葉が思い浮かんできます。
どこの国も似たようなものだと思いますが、
イタリアでも自国のありように苦言を呈する人がいます。
「イタリアのメディアは薄っぺらで煽るばかりで、
科学的なものの見方をする人が少ない」
とラディチェさんは語るし、
ミラノ大学のカリプさんのコメントにもありました。
科学を重視するかどうかは
国の政策や文化によって差があります。
しかし、普通の人の「科学コンプレックス」は
かなり普遍的現象でないかと思います。
ぼくは日本よりはイタリアの方が
「科学的に考えることは大切である」
と考えている人が多いと実感しているので、
イタリアの人の声は過小評価に聞こえました。
たぶん、彼らはスイスやドイツの人たちを
念頭において比較しているのでしょう。
『知ろうとすること。』のような福島の問題を
科学的に分かりやすく説いた内容は、
どこの国でも読者がつくはずです。
「科学的な素養がある人たちに
本書を読んでもらうような仕掛けをつくるのが、
福島のイメージを変えていくのには重要だと思うわ。
ぜひ、本への誘導のために
イタリア語で抜粋でもよいから
(普及していない)キンドルではなく、
PDFで読めるようになって欲しいです」と、
大学で科学哲学を勉強したラディチェさん。
彼女の話は続きます。
「早野さんと論戦できる
福島の実態を知ったジャーナリストは
あまりいないと思いますが、
早野さんや高校生の発表に
正面から反論するような記事は見当たりませんでした」
つまり、海外では日本よりにさらに少数の人たちが、
福島の情報の行方を
左右している実情が浮き彫りになってきます。
カンフェランスで提起した食安全のための3つの要点、
科学的裏付け、社会的信頼関係、コミュニケーションですが、
コミュニケーションにソーシャルメディアを
どのように使っていけばよいのでしょうか。
「ソーシャルメディア、特にフェイスブックは
基本的に気晴らしのために使っている人たちが殆どです。
難しいことを長々と書いても読んでくれません。
煩いと思って。
でもあるテーマに親しみを感じてもらうためには
有効なツールです」
時間をじっくりかけながら、
『知ろうとすること。』を手にとってもらう
プロセスを考えないといけないわけです。
前述したようにイタリア語であることは重要です。
「イタリアでも英語の本を読む人は少ないのよ。
日本でも英語の本を気楽に読む人は
そう多くないでしょう?」と逆に質問されます。
欧州には英語で十分だろうと思っている
日本の人も多いかもしれません。
しかし今回のカンフェランスでも、
福島の高校生と早野さんの英語の講演は
同時通訳ですべてイタリア語でも伝えられました。
福島県のサイトが8か国語と多言語化をはかっているのは、
その基本を踏まえていることになります。
原発アレルギーの強いイタリアにおいて、
福島の食に対するイメージを
ガラリと変えることができたら?
と最後に聞いてみました。
「イタリアで成功すれば、
他のEU各国での戦略はすごく楽なはずです。
その意味でイタリアに拘る意義はあると思います」
と即答です。
ある時は「我々は複雑系なんだ!」と気性を自慢し、
ある時は「原発を管理できるような能力はない」
と自虐でリスクをかわせるイタリア人。
説得を試みる価値は大いにありそうです。
(つづきます)
2015-12-03-THU