「私がよく出かける
ピエモンテ州にある山のなかの村では、
チェルノブリ事故以降、
市場に出るキノコは放射線量を測っているの。
今でも基準値を上回ることがあり、それらは市場に出ない。
でもキノコ狩りをして、
測定もしないで平気で食べている人もいるわ。
だって1カ月かそこいらの季節もので
毎日食べるわけじゃない。
ポルチーニが目の前にあるのよ!
習慣だから食べずにいられないわ!
ということみたい」
7回目で登場したラディチェさんが、
こういうエピソードを話してくれました。
『知ろうとすること。』に、
福島で原発事故後も生活習慣を変えずに、
裏山のキノコ、山菜、
野生のイノシシなどを食べている人が、
2012年2月に5千人に1人くらいの割合で
いたことが書いてありました。
この話を思い出しました。
また、こんな話もあります。数年前に聞きました。
トラックの荷台に使われる床板は、
チェルノブイリ事故の影響を受けた
激安木材を使用されており、
材料メーカーはまともな木材を売り込みにくい、
というのです。
床板以外でも問題のある木材で作られた製品が、
存在しているらしい。
これらのエピソードは、
ぼくが信頼する2人から聞きました。
おそらく彼らも、信頼する友人から聞いたのでしょう。
口コミは、信頼の連鎖で流れてきます。
カンフェランスの内容を決めるにあたり、
食の安全が成立する要素として、
科学的裏付け、信頼関係のある社会、
コミュニケーションの3つを挙げました。
これまでの連載を振り返ると、
コミュニケーションの大切さを強調する回が多かったです。
そこで8回目にパリアリーニさんも指摘した
信頼関係のある社会。
このテーマを掘り下げてみます。
ミラノ工科大学でデザインを教える
アレッサンドロ・ビアモンティに
話を聞いてみることにしました。
彼にはイベント企画に
最初から相談にのってもらいました。
カンフェランスの
ステアリングコミッティのメンバーでもあります。
3回目に登場してもらった
ルッジェロ・ビアモンティさんのお兄さんです。
信頼関係って何でしょう?
「信頼とは2つだけの関係ではなく、
3つの関係でこそ成り立つね。
君(A)がアントニオ(B)を信頼するには、
君から信頼されているぼく(C)という
第三者があったほうが良い。
アントニオはぼくが太鼓判を押すよっ、てね。
誰かの裏付けが欲しいでしょう?
まあ、(A)(B)間だけで70%は信頼するけど、
残り30%に不安が残るのが普通だ。
そこを頼れるぼく(C)が補うわけだよ」
と図を描きながら説明します。
▲ビアモンティさんがその場で描いた信頼関係のモデル図。
「実は、これは詐欺の手口と同じなんだよ、
スキャンダラスな事件というのは、
これを巧妙に悪用した結果だ。
信頼せよ! と言い過ぎないように、
騙す側は気をつける」とビアモンティさんは、
詐欺と信頼は表裏一体であると指摘します。
信頼する対象(B)に福島の食品をおいてみましょう。
イタリアの人が福島の食品を信頼する数字を言えば、
ビアモンティさんの例として出した70%には到底届かない。
ぼくがイタリアの人に接した実感としては、
10~20%もないのではないかと感じます。
図式的にみれば、イタリアの食品検査機関(C)が
科学的な裏付けの是非を判断し、
その立場をイタリアの人(A)が信頼していれば、
福島の食品を問題ない、とみなすはずです。
これはラウンドテーブルでミラノ大学の食科学の専門家、
デッロルトさんが強調した点です。
「産地名ではなく検査値だ」と。
しかし頭でそう分かっていても手が出ない。
それが日常生活者の感覚です。
ただ(A)(B)間にリアルな接触があれば、
70%に近づく可能性は大きく、
それは7月に福島を訪問した
ミラノ大学生の例が証明しています。
(A)(B)間にリアルな関係がないのであれば、
(C)に位置する人たちの強化です。
イタリアにいる和食を扱う
日本をよく知るプロの料理人も含めた、
流通や外食の食のプロが安全である裏付けを
丁寧に説明することです。
あるいは4者目となる(D)の位置にあるジャーナリストが
食品検査機関への信頼を促す、ということが考えられます。
ビアモンティさんの言葉は続きます。
「信頼と詐欺が同じ構造だからこそ、
ぼくのようなデザイナーは、
この仕掛けをガラス張りに
デザインするのが仕事だと思っている」
ガラス張りが当たり前であれば、
不透明な構造に人は用心するようになるでしょう。
それでもなかなかすべてに渡り、というわけにはいきません。
どこから優先すると良いか?
これが今後のテーマになってきます。
(つづきます)
2015-12-07-MON