坊さん。 57番札所24歳住職7転8起の日々。 |
こんにちは。 前回は、今年10月に映画化されることになった本、 『ボクは坊さん。』(ミシマ社)の元になる、 「坊さん」 の連載が、 「ほぼ日」でどのようにはじまったか、 書かせて頂きました。 連載がスタートし、 僕はただ自分がみたことを、 書き進めていきました。 「はじめて行ったお葬式」 「はじめてのお盆」 「はじめて作った祖父のお墓」 そこでの体験は、 僕が想像していたものとは少し違って、 なにか人の生死の持つ、 「あたたかさ」のようなものを感じていました。 もちろん時に大きな「かなしみ」に 包まれてはいるのですが。 ただ、そのことをトレースするように、 文章に書いてゆくと、 素直な感想が読者から、届き始めました。 「じつはそんなことを考えたかった」 「自分の心の中にあることを思いだした」 そもそも、 僕が自分の役割、坊さんのことを文章に書きたいと思った、 大きな理由は、 例えば、僕が住んでいる農村で、 お葬式を拝んでいるときに受けた、 「人が生きることに根ざした静かで圧倒的な感じ」 のようなものに驚くと同時に、 「ああ、この風景は、 こんなに圧倒的なのに、自分しか見ていないのか」 という思いがあったんです。 そして、 ここで体験したことを「誰かに話したい」と思いました。 ここにいない誰かに。 そのことを、伝えることは、なんとなく、 すごく難しいことのように思っていたのに、 僕が伝えたかったこと、話したかった 「坊さんの現場」の雰囲気が、 「ほぼ日」という場所から、 すーっと読者に伝わっていることを感じました。 「なんだか、 この連載自体が、 田舎にある小さなお寺みたいだな」 そんな風に思うこともありました。 *** その後、 230回を数えた連載は終了しました。 そして、 ある雑誌で特集されていた ミシマ社という出版社の記事を読んだ途端、 僕は、「この出版社で『坊さん。』を本にしたい!」と 強烈に思い、 『ボクは坊さん。』という本が誕生しました。 この本は当初、ほぼ日での連載をまとめる予定でしたが、 一度完成したものを、 頭から書き直し、 古い仏典の言葉や弘法大師の言葉を、 様々な場面の中で引用するスタイルをとりました。 本の発売後、 「こういった本は、今まであまりなかったんだな」 ということを、まわりの反応から知りました。 学術書でもなく、 明るく笑える雰囲気の中で、 描いた「生きる」「死ぬ」ことに ストレートに向かい合った、 軽くて重い本。しかもわりと仏教ど真ん中の本。 当初は考えていなかったほど、 多くの読者に出会うことができ、 様々な形で紹介されました。 そして気がつけば本は10刷の版を重ね、 僕自身も文芸誌にエッセイや書評を書いたり、 バラエティー番組にも出演する、 ちょっと不思議な「坊さん」になっていました。 そして、考えてみると「坊さん」であることが始まった、 あの日と同じように、 「このままでいいのかな」 「もっとおもしろいことがあるんじゃないかな」 「意外と今日も楽しかったな」 と日々、感じています。 *** そして、映画化の話になります。 (C)2015映画「ボクは坊さん。」製作委員会 じつは本の出版直後から、 映画企画のお話は頂いていました。 しかし、 何度もお寺を訪れてくださって、 ご相談を受けるものの、 なかなか正式な決定にならず、 正直言うと忘れかけていた頃、 急転直下で映画化が正式に決まりました。 企画がスタートした時から、 今に至るまで一貫して制作にあたってくださっているのが、 ROBOT という会社です。 僕は「ほぼ日」で紹介されていた、 ROBOTの制作した「つみきのいえ」から その名前を知っていました。 「つみきのいえ」は、 アメリカ・アカデミー賞の 短編アニメーション賞を受賞したことを、 覚えている方も多いと思うのですが、 加藤久仁生監督のアカデミー賞の受賞スピーチ、 「どうもありがとう。ミスターロボット」 を思わず思い出しました。 しかも、「つみきのいえ」で脚本を担当され、 絵本版「つみきのいえ」の著者でもある、 平田研也さんが今回の映画『ボクは坊さん。』 の脚本を担当してくださっています。 平田さんは企画が動き始めた直後、 1週間近く栄福寺の近くに滞在し、 僕と一緒に過ごすことで 作品のイメージを膨らませていきました。 坊さんの仕事を横で見ているだけでなく、 母校の高校を一緒に訪れたり、 部活の返りによく行ったお好み焼き屋さんに、 一緒に行ったりしました。 (C)2015映画「ボクは坊さん。」製作委員会 そしてプロデューサーは、 安藤親広さんです。 僕自身は、最初から栄福寺で 安藤さんとやりとりをすることが多かったのですが、 海上保安庁を舞台にした『海猿』シリーズ、 『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、 『踊る大捜査線』シリーズなど、 多くの話題作でプロデューサーを務められている方です。 平田さんと安藤さんの組みあわせというのも、 個人的にすごく興味があったのですが、 そこに「監督」として中心に座ってくださるのが、 真壁幸紀監督です。 1984年生まれの若い監督で、 2012年、ショートフィルム「THE SUN AND THE MOON」が、 映画監督ウォン・カーウァイとルイ・ヴィトンにより 開設された、国際映画コンテスト「Journeys Awards」で 審査員グランプリを受賞しています。 そして彼の長編映画デビューが今回の映画になるんです。 坊さんデビューの話を、長編デビューの真壁監督が撮る。 監督と話していると、 「映画が映画であるための」質感のようなものを、 とても大事にされているような気がしました。 そして映画のストーリーの大切な分岐点などでは、 「どうすれば映画になるか、ということを意識したんです。 そんなの人によって違うのですが、 少なくても、僕にとっての」 と静かに話されていたのを思い出します。 ROBOTに所属するこの三人の作り手が中心になった 映画に僕がどのように関わってきたか、 また参加している役者さんの話も次回、 お話しできればと思います。 ミッセイ (つづきます。) ←その1へ その3へ→
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2015-09-16-WED
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