糸井 |
この「うろつき夜太」の挿絵も
すごく憶えています。
当時はホテルにかんづめになって
仕事なさってたんですよね。
そのホテルの図までお描きになったりして。 |
横尾 |
あれはホテルの人に怒られたなあ。
部屋の番号まで描かないでください、って。
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糸井 |
これは、そのホテルで朝食を食べる
ロン毛の横尾さんとシバレン
(柴田錬三郎)さんです。
横尾さんがすごいのか、
絵がすごいのかわからないけど、
いま、柴田錬三郎さんの名を知らない人がいても、
その挿絵を描いていた横尾さんのことを
知ってる人は多いです。
あ、この浅丘ルリ子さんはたしか
平凡パンチの付録ですよね、
挟み込み式の。
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横尾 |
違う、違う、違う。 |
糸井 |
挟み込みじゃありませんでしたっけ? |
横尾 |
ただの「見開きページ」だったよ。 |
糸井 |
じゃ、当時のぼくが
雑誌からはずしたんですね。
部屋に貼ってましたから。 |
横尾 |
このとき、平凡パンチは
日本の雑誌ではじめて
見開きで、カラーで絵を載っけたんです。
写真は何度もあったけど、
絵ははじめてだったんだよ。 |
糸井 |
第1号ですか。
だから、当時のぼくは
付録のような気がしたんですね。 |
横尾 |
きっとそうだったんだね。
こんな名画じゃない絵がねぇ。
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糸井 |
この絵には
「ダーイスキ! 浅丘ルリ子さん」って
描いてあるんだけど、
当時の発言としては、
それは俗っぽかったんですよ。 |
ほぼ日 |
そうなんですか。 |
糸井 |
だから、(日活映画の)浅丘ルリ子さんや
(演歌の)美空ひばりさんを
好きだと言うのは、
アート行為に見えたんですよ。
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ほぼ日 |
ほー。 |
横尾 |
ほー。 |
ほぼ日 |
(横尾さんまで「ほー」‥‥?)
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糸井 |
この時代は、例えば
「ビートルズと一緒にいた横尾さん」のほうが、
人の目には多く触れているわけです。
それと同じ人が、浅丘ルリ子さんを好きです、と
言ってることに、すごい自由を感じたんですよ。
だから、みんながふわーっと、
横尾さんについて行っちゃうんです。 |
ほぼ日 |
はああ、なるほど。 |
横尾 |
ふふふ、こういうときは、何も言わないの。
ふふふふふふ。
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糸井 |
この点描も、すごいなあ。
別冊太陽の「人生劇場」ですね。
‥‥毎日毎日仕事してないと、
こんなふうには溜まりませんね。
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横尾 |
毎日、やってたからね。
もうこんなことは、
いまは全然できなくなっちゃったけど。 |
糸井 |
こういうタイプのことは、
この時期しかやれないんでしょうか。 |
横尾 |
いまは、できない。
技術的にもできない。
もう粘着力がないね。 |
糸井 |
このときは、こうしないと
いられなかったんでしょうね。 |
横尾 |
したかったんだろうね。
しめきりのことなんて
考えないでやってましたからね。
ぼくが絵を描いているすぐ横に
編集者がいるわけです。
「もう、そんなとこの線一本、
引かなくてもいいですよ」
という感じで、そこにいるんです。
そんなことは口に出しては言わないけど、
その人の顔に書いてあるわけ。
そうすると、意地になって、
シワの数とか、増やしたくなってくる(笑)。 |
糸井 |
これが、一冊の雑誌の特集に
入ってたんですもんね。
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塚田 |
鬼気迫りますよ、
この線、この点描‥‥。
2年がかりで
横尾さんの作品を2000点くらい、
ずっと見ていったんですけれども、
このあたりの絵を見ながら、怖くなりました。
なんだろう、これは、って。 |
横尾 |
はい、ほか行きましょう。 |
糸井 |
褒めはじめると、また、
逃げますね(笑)。
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(続きます!) |