冒険王、 横尾忠則。   横尾さんの展覧会で、横尾さんにお会いしました。 「‥‥あなたという人は!」と 何度も叫びそうになりました。すごいです。 さぁ、みなさん。ご本人といっしょに 横尾忠則さんのすばらしい冒険の記録を 見て回りましょう。
010 反復すること。
 
糸井 横尾さんには、同じモチーフの
反復の作品がたくさんありますが、
これはあるときから、はじめたんですか。

横尾 いやぁ、これはねぇ、
もう少しうまく描けるんじゃないか、とか
そういうことです。
糸井 そこも技術面なんですね。
横尾 だけど、やってる間に、
反復の意味が
だんだんだんだん難解になってきた。
ま、そういうことは、
見る人には関係ないけどね。
糸井 自分が出したものを繰り返していくと、
自他の区別がなくなってくることがあるから、
それに耐えられるのかなぁ、と
ぼくなんかは思うんです。
横尾 うーん、そうなんだよね。
だから、自分の模写はできないです。
模写は、ちょっと、耐えられない。
もしもぼくが贋作作家だったら、
そんなもん、耐えられないなんて言ってたら
ダメだけどね。
反復ということでいえば、ぼくは
舞台のことを考えたことがあります。
舞台は毎日が反復でしょ?
でも、そのときの生理や気分などで、
少しずつ変わっていきますから、
まったく同じものはコピーできません。
初日、中日、千秋楽で
「もっとうまくやっていこう」とか、
「いろいろ変えようとか」とか、
いろんな気持ちが出てくると思います。
ぼくの反復は、あれに近いんじゃないかなぁ。
そういう意味では、止められないよ。

糸井 今後も、増えていく可能性は?
横尾 それはおおいにあります。
Y字路なんかも、
ある絵で描いた町並みを
別の絵の中に移植したりして反復します。
そのまま描くっていうのは
なんだか自然主義的で、
ちょっと抵抗したくなるわけ。
糸井 サビだけ変えて歌う、
みたいなことをやってるんですね。
横尾 うまいことおっしゃいますね、
言葉の天才は。
一同 (笑)

糸井 Y字路は、横尾さんのモチーフとしては
いちばん長いんじゃないですか?
横尾 あれは、終生続くかもしれない。
そんなこと、まだ決めたくないけど、
でも、そうかもしれない。
あ、糸井さん、これこれ、
これは日経に連載してる挿絵です。

糸井 瀬戸内寂聴さんの「奇縁まんだら」ですね。
横尾 いまも継続中だから、
期間中に展示が4点増える予定です。
糸井 ここの絵はみんな、
実在の人物というわけですね。
どうりでほかの絵とは雰囲気が違うなぁ。
横尾 文豪とか、文化人とか、
死んだ人たちばかりですけどね。
速いよ、描くのは。
せいぜい長くて30分。
塚田 (学芸員の塚田さん)
左手で描かれた絵もあるんですよ。
横尾 たまたま猫に噛まれて
右手を怪我したときね。
その回は、松本清張さんでした。
2週間にわたって、
右手が動かなかったんだけど、
清張さんは左手向きの人だよ。

糸井 ホントだ。清張さんだけ
ちょこっと、タッチが違いますね。

横尾 そうなの。
ちょっと、蟹みたいな顔になっちゃって。
  (続きます)
 
2008-06-07-SAT
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