町田康さんの経験論!

毎日十時間の仕事をしていても、毎日十時間の家事をしていても、
毎日十時間の勉強をしていても、費やした長い時間が重なる……。
人の時間の蓄積を集める企画の初回は、作家の町田康さんが登場!

この連作取材には、作家や編集者たちが、沢山登場してゆくんだ。
インタビュアーは、ほぼ日スタッフの木村俊介が担当しています。

プロフィール 経験論について


このコンテンツは横にスクロールしてお楽しみください
質問: 「小説は、わからないところを書く」 ということについて、くわしくうかがえますか? わからないところをどう書くかというと 人間を考えていくしかないわけですから、 そうなると他人という回路を通そうと 自分という回路を通そうと同じことなんですよね。 だから『告白』では 城戸熊太郎という人物を書きましたが、 それはもうほとんど城戸熊太郎に同化して 自分が城戸熊太郎であるかのような状態で 書くしかないんです。 だから、そうなるのは もうほとんどわかっていたんですけど、 やはり最後のシーンは 自分でも書いていてつらかったですね。 もうちょっと助けられないものかなぁと……。 城戸熊太郎という人は 本当にいろいろなことを考えて いろいろなことを言うわけです。 言葉がない人でもあるけれども、 言葉しかない人でもあるわけですね。 その言葉しかない人が、最後に、 本当のギリギリのひとことを言えるかどうか。 小説が最終的にどこにいくのかは だいたい決まっていましたが、 最終的にどうなれば僕がこの小説を 「書いた」と言えるかどうかは、もうその 「本当のギリギリのひとことを言えるかどうか」 にかかっていました。 そのひとことにいくまで、 城戸熊太郎の歩いた道を、自分も 一生懸命に歩いていくしかないということです。 俳優の人がよく「その人物になっちゃうんだ」 という話と似たやりかたかもしれません。 『告白』は新聞小説で 毎日のしめきりがありましたから、 一気に気持ちを高めてというよりは 毎日すこしずつ、規則正しく書いてゆきました。 城戸熊太郎という人物には ほとんど何も資料が残っていないのですね。 実在の人物を小説に書くやりかたとしては、 一般的には 「資料を調べて出来事を拾い、  出来事のグリッドを細かくしてゆくと  だんだん人物が浮かびあがる」 というものがあるのでしょうが、 城戸熊太郎には資料が少なくて その方法はできませんでした。 少ない資料のひとつには河内音頭がありますけれども、 河内音頭は河内音頭として成立しているから そのノベライズをやるぐらいなら 河内音頭をきいてくれたほうが 余程いいということになるわけです。 ですから一般的な方法とは ちがうやりかたで書いていきました。
町田さんの談話は、今日でいったん終わりです。 ご愛読いただいて、ありがとうございました。 感想などを、ぜひ、お送りくださると幸いです。
いままでの町田さんの経験論b
01
02
03 04 05 06 07 08 09 10 11
感想を送る 友達に知らせる ウインドウを閉じる
2005-06-17  Photo : Yasuo Yamaguchi [Hobo Nikkan Itoi Shinbun] 
All rights reserved by Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005